100年後の未来を問う、 さまざまな洞察が集結
いまから100年後となる「2121年」がタイトルに掲げられたデザイン展。参加しているのはデザイン分野にとどまらない幅広い人々だ。本展に込められたメッセージとはなにか、展覧会のディレクションを担った松島倫明の言葉とともに紹介したい。
「100年後はこうなるという未来予測を披露する内容ではありません」
『2121年』展について、松島は語る。
「20世紀には近未来である21世紀を想像することは比較的簡単で、国や企業レベルで提示された未来がかたちになってもきました。しかし周囲のテクノロジーが大きく変わるなかで100年後に向けられた視座そのものが大きく変わっています。さらには世界的なパンデミックによって、1週間後すら予測できない時代であることを幅広い世代が体験することにもなりました」
松島はふたりの言葉を引用する。まずは知の巨人、フリードリッヒ・ニーチェが語った「過去が現在に影響を与えるように、未来が現在に影響を与えている」。いかなる未来を思い描くのか、未来を考える行為が現在の私たちの社会や意識を決定しているということに触れた発言だった。同時に挙げるのは、サイバーパンクを代表するSF作家、ウィリアム・ギブスンをコロナ禍にインタビューした際の本人の発言だ。「なぜ人類は、22世紀を想像できないのか?」という問いだった。
松島は言う。「ポジティブな未来を思い描いた上で、そこに向かっていくというのが、人間がこれまで行ってきた行為かもしれません。けれど22世紀を想像することが難しくなっているいま、多重的な未来そのものにどう向き合うのか、複数の未来に向けた問いを並列に提示することで、22世紀が想像できないことをポジティブに展観できるのではないかと考えました」
用意したのは「フューチャー・コンパス」(未来の羅針盤)という独自のツール。3枚の円盤にそれぞれ複数の英単語が記されており、展覧会参加者は円盤を回転させ、単語の組み合わせで「問い」をつくる。このコンパスを受け取ったのはデザイナーやアーティスト、思想家、エンジニア、研究者など立場の異なる約75名。示唆に富む答えとは、問いの立て方から始まるものであるが、実にさまざまな問いと思考が本展会場を埋め尽くす。
一例としてグラフィックデザイナーの佐藤卓の問いは、「What/Future/change?(何が/将来/変わる?)」。クリエイティブ集団PARTYは、「How/Present/End?(どのように/現在/終わる?)」と、現在と未来との関係性そのものに目を向けた。
そして松島自身は展覧会の準備中、「What/Futures/ Want?」との問いが頭にあったという。
「7万年前、私たちの祖先にあたるホモ・サピエンスに起きた認知革命によって、想像の産物を他者に伝えられるようになりました。一方で、僕たちはありもしない未来に突き動かされているのかもしれないと感じています。ならば、未来は人間に対してなにを欲しているのか。未来を考えるどのような行為が、人類の想像力や創造力を決定づけているのか、いまも考えを巡らせています」
複数形の未来を体感し、考える行為の重要性やその醍醐味に触れることのできる展覧会。私たち一人ひとりが「未来の羅針盤」を手にしていることにも気づかされるだろう。
『2121年 Futures In-Sight』
開催期間:2021年12/21~2022年5/8
会場:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2
TEL:03-3475-2121
開館時間:10時~19時 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:火、12/28~2022年1/4 ※12/21、2022年5/3は開館
料金:一般¥1,200
※開催の詳細はサイトで確認を
www.2121designsight.jp/program/2121
※この記事はPen 2022年2月号「日本の建築、ここが凄い!」特集より再編集した記事です。