2022年が幕を開け、注目作の多い1月。1月公開予定の映画のなかで、Pen編集部のおすすめを紹介する。
ファッション帝国崩壊のドラマ
グッチ創業者の孫にあたるマウリツィオ・グッチは、妻のパトリツィアの意図のもと殺害された。そこに至るまでにどれほどの濃密なドラマがあったのか。リドリー・スコット監督が実話をもとに衝撃的な事件の裏側を描いたのが『ハウス・オブ・グッチ』だ。パーティで出会ったマウリツィオに狙いを定め、身分の差を超えて妻の座についた若き日のパトリツィア。彼女はやがてさまざまな策略によって、創業家一族を内部から崩壊させていくことになる。
イタリア語訛りの英語で20代から40代までのパトリツィアを演じたのは、『アリー/スター誕生』で女優としての才能を鮮やかに開花させたレディー・ガガ。パトリツィアを突き動かしたものは燃えるような野心だったのか、それとも形を変えながらも消えることのない愛だったのか。ガガは実際のインタビュー映像などでリサーチを重ね、ジャーナリストのように客観的な視点でキャラクターを掘り下げていったのだという。けれども若い頃の彼女についての情報は少なく、「自分で人物像をつくっていく必要があった」と語る。
「私には、パトリツィアが恋に落ちた女性だと思えた。マウリツィオを愛しただけでなく、彼の家業が彼女に与える力をも愛したのでしょう。そしてそれが奪われた時、夫を殺害させるという行動に出た。でも私は彼女が経験した構造的な抑圧が存在したと確信しているし、この出来事が起きたのは彼女がただあまりにも傷ついたからなのだと思う。彼女にとってグッチとは、生き延びる術だったのです」
既に世界的な人気を得ていたファッション帝国を揺るがした、ドラマティックな真実。アダム・ドライバー、アル・パチーノらハリウッドスターの華やかな競演をヒットソングが彩り、ゴージャスなソープオペラに身を浸す快楽を存分に味わえる一本だ。
『ハウス・オブ・グッチ』
監督/リドリー・スコット
出演/レディー・ガガ、アダム・ドライバーほか
2021年 アメリカ映画 2時間39分
2022年1月14日より全国の劇場で公開。
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。
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若き演技派の静かなる名演が、声なき人たちの叫びを伝える
貧しさゆえに犯罪組織からの仕事を請け負って生計を立てている口のきけない青年、テイン。身代金目的で誘拐された少女を預かることになり、家族のような暮らしが始まる。思いがけない出会いから現代社会の断面が見えてくる、韓国映画界の新たな才能によるサスペンス。Netflixの『地獄が呼んでいる』も話題の若き演技派、ユ・アインは、韓国の映画賞で数々の主演男優賞を獲得。セリフではなく、身体で思いを語った静かな名演からは、声なき人たちの叫びが聞こえてくるかのようだ。
『声もなく』
監督/ホン・ウィジョン
出演/ユ・アイン、ユ・ジェミョンほか
2020年 韓国映画 1時間39分
2022年1月21日よりシネマート新宿ほかにて公開。
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。
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耳の聞こえない家族内で育ち、歌うことを夢見た少女の起こした奇跡
聴覚障がいのある両親と兄を助け、漁業を手伝いながら暮らしている健聴者のルビー。高校の合唱クラブの顧問に歌の才能を認められて音楽大学に進学する夢を見つけるが、自分の人生を歩むことに葛藤を抱く。フランス映画『エール!』をベースにして生まれた人間ドラマ。ギフトともいえる娘の歌声を聞こうとする、耳の聞こえない家族と、家族に心の声を届けようとするルビー。ときに衝突し、迷いながらも最善の道を探す家族の物語だ。
『コーダ あいのうた』
監督/シアン・ヘダー
出演/エミリア・ジョーンズ、フェルディア・ウォルシュ=ピーロほか
2021年 アメリカ映画 1時間52分
2022年1月21日よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開。
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。
※この記事はPen 2022年2月号「日本の建築、ここが凄い!」特集より再編集した記事です。