「大人の名品図鑑」キングスマン編 #2
昨年12月24日に公開された『キングスマン:ファースト・エージェント』。シリーズ3作目の舞台は1914年に遡り、国家に属さないスパイ組織「キングスマン」の誕生秘話が明かされる。新作も含めたこの「キングスマン」シリーズに登場する名品を5つ紹介する。
ブローグではなくオックスフォード──2015年に公開された『キングスマン』で、友達から盗んだクルマを暴走させ、牢屋に繋がれたエグジー(タロン・エガートン)に向かってキングスマンのベテランエージェント、ハリー(コリン・ファース)は秘密の暗号を伝える。
これを聞いてニヤッと笑った人は、そうとうな靴好きだろう。「ブローグ」とはアッパーに穴飾り=ブローグ(brogue)がある靴のこと。対して「オックスフォード」とは、一般的には紐付きの短靴を指す言葉で、17世紀ごろ、イギリスのオックスフォード大学の学生たちがブーツではなく短靴を履いたことからこの名が付いた。「ブローグ」の代表と言われるのがウィングチップで、欧米では「フルブローグ」と呼ばれる。甲やつま先に穴飾りがついた靴は英国紳士がカントリーで過ごす時に履いたモデル。対して街用に紳士たちが履いた内羽根式のストレートチップに代表される短靴を、ハリーは「オックスフォード」と言ったのだろう。
1作目の『キングスマン』(2015年)で、エグジーがスパイになるための厳しいテストをクリアして見事キングスマンの一員に選ばれると、黒ストレートチップ型のオックスフォード靴が大写しになり、紐をしっかりと結ぶ場面が出てくる。同じような場面が2作目の『キングスマン :ゴールデンサークル』(2017年)にも出てくるが、実は3作目の『キングスマン:ファースト・エージェント』(2021年)にも出てくる。しかもほとんど同じアングルから撮っている。監督のマシュー・ヴォーンは、このオックスフォード靴にそうとうな思い入れがあるのだろうか。あるいはキングスマン、あるいは英国紳士の象徴として考えているのではないだろうか。
余談だが、『キングスマン:ファースト・エージェント』でレイフ・ファインズ演じる主人公の名前もオーランド・オックスフォード公爵。わざとそうしたのか、偶然なのか。ちなみにロンドンの中心部ウェストミンスター区を東西に貫く大通りがオックスフォード・ストリートという。大学から通りの名前、はたまたファッション用語まで、英国では「オックスフォード」という言葉をよく使われる。
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アンソニー クレバリーのオックスフォードシューズ
シリーズの1作目、2作目で使われている革靴は英国のジョージ クレバリー製だと言われている。ジョージ クレバリーの創業は1958年。注文靴を生産する家系に生まれたジョージはロンドンでビスポークの靴づくりのキャリアを積んだ後、自身のブランドを立ち上げる。94年からは既製靴の生産をスタートし、日本でも人気を集めた。
今回紹介するのは、ジョージの甥であるアンソニー・クレバリーが自身の名を冠してスタートしたシューズブランドだ。ジョージ クレバリー以上に手の込んだつくりが特徴で、製作の工程も増えていると聞く。日本で展開されているのは既製靴のラインだが、注文靴、いわゆるビスポークの匂いをももっていると靴好きからは言われている。よりクラシックで、よりエレガント。エレガントなテーラードステイルが続々と登場する『キングスマン:ファースト・エージェント』のようなスタイルを楽しみたいならば、このような革靴、いやオックスフォード靴を選んでみてはどうだろうか。
問い合わせ先/伊勢丹新宿店 TEL:03-3352-1111
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