【作家・遠野遥インタビュー】学校からポルノビデオが支給される⁉ 新作『教育』で見せた新たな一面

  • 写真:興村憲彦 文:今泉愛子 
Share:
L2126350.jpg
1991年神奈川県生まれ。慶應義塾大学法学部卒。東京在住。2019年『改良』で第56回文藝賞を受賞しデビュー。20年『破局』で第163回芥川龍之介賞を受賞。21年『教育』で野間文芸新人賞候補に。
芥川賞作家の遠野遥が、受賞後第1作『教育』を上梓した。舞台は、超能力を習得するための全寮制の学校だ。生徒たちが懸命に取り組んでいることのひとつが、1日3回以上のオーガズム。成績が上がりやすいと言われ、学校からポルノビデオまで支給されている。彼らはセックスも盛んだ。単行本に先がけて文芸誌で発表した際には、鮮烈な内容に驚きの声が上がった。この小説はいかにして生まれたのか。遠野に聞いた。

Perfumeの世界観に着想を得た設定

――着想のきっかけを教えてください。

PerfumeのMVです。『Spending all my time』という曲で、制服のような衣装を着た3人が超能力のトレーニングをしていました。それがすごくミステリアスで、これでなにか書けそうだと思ったんです。

――でも、この小説にはほとんど超能力を使うシーンが出てきませんね?

超能力が存在する世界をそのまま書くと、エンタメ色が強く出過ぎてしまうと思いました。超能力を使うためにそれらしいことをさせるより、それとは全く結びつかないようなことをさせた方が面白いと思ったんです。

――だから「1日3回以上のオーガズム」なんですね。

そうです。それ自体になにか理由があったわけではないんです。この小説では、誰も超能力を身につけることができない滑稽さも含めて書きました。

---fadeinPager---

L1000180.jpg

“男性中心”の現実社会に違和感

――学校では、女子生徒よりも男子生徒のほうが居心地がよさそうです。

そこは意識したところです。先生が全員男性で、成績が上のクラスもほぼ男子生徒だけ。食堂のメニューや支給されるポルノビデオも女子生徒向きではありません。

――なぜその設定に?

現実社会でも、重要な会議のメンバーはある一定の年齢以上の男性だけだったりすることに違和感を覚えたからです。現実にある歪みをアンプにかけて増幅させるような感じで書きました。

――女子生徒の中には違和感に苦しむ子もいました。

おかしいと感じても集団にいる以上、適応した方がラクなんです。だけど当然、適応できない子もいる。でも、「おかしい」と声をあげることをためらってしまうんです。

――成績による上下関係もはっきりしていますね。

私自身が小学校から高校までスポーツをやっていて、上下関係があったり、規律が厳しかったりする環境にいたことと関係しているのかもしれません。

――女子生徒はどの子も個性的です。

しっかり書き分けました。女子は普通こうだろうという先入観を排除して、それぞれをフラットに書こうとしたのがよかったんだと思います。

L1030357.jpg

――書いていて手応えを感じたポイントはどこですか?

翻訳部では、主人公以外に部長と副部長が登場するのですが、1度書き上げてから海という女子の後輩のキャラクターを追加しました。それによって、主人公の上に対する態度と下に対する態度を書き分けられたんです。海は特に思い入れのあるキャラクターですね。

――登場人物は、全てイチからキャラクターをつくるのですか?

ひとりだけモデルがいます。警棒を持って巡回を担当する島田は『Dead by Daylight』というサバイバルゲームに登場するキラーのレイスをモデルにしました。

――小説を仕上げる時は、かなり推敲するそうですね。

ギリギリまで、もっと面白くできないかと考えます。今回は長編だったので全体像を把握できなくなることがあって、自分で書いたものを要約して、それをもとに新たにエピソードを足したりもしました。

――冷静な視点をもっているからできることです。

それはひとつの能力かもしれません。デビューするまでに6回落選して、どうすれば面白くなるのか自分で考えるしかなかったんです。それでずいぶんと鍛えられました。

――自身を管理するのは得意なほうですか?

自分で自分をコントロールすることに関しては、そこそこ上手くやっています。頑張りたい時は頑張るし、休むべき時は休んで。そういうバランスを見ながらやったほうが、長期的に続くと思うんです。

---fadeinPager---

L2126348.jpg

1作ごとに新しい面を見せたい

――デビュー後も1作ごとに新しいことに挑戦しているとか。

新人なので、1作ごとに新しい面を見せないといけないと思っています。あぐらをかいていると終わりかなと。

――今回の作品ではどうでしたか?

これまでは、母校の慶應義塾大学など実在する場所を舞台に、現実の延長線上にあるような話を書いていたのですが、『教育』では、ファンタジーのように普通では考えられない設定にしました。

――次の作品でもなにか挑戦を?

「教育」の舞台は全寮制の学校という閉鎖的な場所だったので、次はもっと世界を広げていこうと思っています。

01.jpg

『教育』 遠野 遥 著
河出書房新社
¥1,760