ついに給食好きを認めた甘利田が得たものとは? 『おいしい給食 season2』最終回レビュー

  • 文:絶対に終電を逃さない女
Share:
©2021「おいしい給食」製作委員会

絶対に終電を逃さない女による、ドラマ『おいしい給食 season2』全話レビュー連載。今回は第10話「秋は、栗ご飯とともに」を振り返る。

甘利田の運命が大きく揺れ動く最終回。黍名子中学校に出向いた教育委員会の鏑木は、宗方に対し「宗方先生の内部告発が受理されたということです」「あなたがデマを流したことになりますよ。そうなったらご自分の立場も危うくなる」と圧力をかけ、甘利田への質問者という汚れ役を任せる。劇場版で甘利田の前任校に給食廃止を突きつけ甘利田を転勤させた、宿敵・鏑木である。

呑気に花壇に水をやる甘利田。宗方から放課後の緊急職員会議について知らされても、また転勤だろうと高を括っていたが、「この学校、教師だけ弁当にするそうです」と聞かされるやいなや大パニックに。「何ですかそれ。それではまるで私が給食だけが楽しみで学校に来てるみたいじゃないですか」。鏑木は、甘利田が一番苦しむ方法を知っていたのだ。

その頃、何も知らない神野は、いつも通り配膳室にいた。「毎日甘利田先生と給食対決してるんだもんね」と、給食のおばさんこと牧野に言われ、笑顔で「僕は先生に喜んでもらいたいだけです」と返す神野。鏑木の策謀は、神野にとってはかけがえのない同志を失うことをも意味するのだ。

落ち込みきった甘利田は、給食の時間にも身が入らない。いつも大人気なく生徒たちの列に割って入るのに、最後尾に並び、校歌も歌わないという史上初の展開。そんな甘利田に気づいた生徒たちは、「先生見て。歌ってないよ」「どうしたんだろう」「いつもはしゃいでるのに」と心配する。やはり給食好きを隠し通そうとする甘利田のプライドを傷付けないように、気付かないふりをしてあげていたのか。なんと優しい生徒たちだろう。

7話の合唱コンクールの時のように、甘利田風に踊りながら校歌を合唱する生徒たち。励まされた甘利田は、「何があろうとも、目の前の給食には何の罪もない。先のことはいい。いまを生きることにこそ、意味がある」と気を取り直して給食に向き合う。栗ご飯、スタミナ炒め、ニラ玉スープ、瓶牛乳、三色ゼリー。栗ご飯を食べ、「口の中に広がる上品な甘味。子供の雑な舌には、到底理解の及ばない、まさに大人のための給食だ」といつもの大人マウント。しかし本来子どものための給食なのであって、「まさに」でもなんでもない。子どもに励まされながら、偉そうな甘利田。

10話_sub1.jpg
©2021「おいしい給食」製作委員会

「いまはただ、おいしい給食を食べるのみ。きっと、ヤツだってそうしてる」と神野に目をやると、栗を三色ゼリーに乗せている。しかし前話で、給食を愛する者はライバルではなく同志だと理解した甘利田は至って落ち着いた様子。「良いことするじゃないか。不思議と今日は受け入れられる。お前の狙い通り、私は食べちゃったよ。ヤツだけは、四色ゼリーだ」と余裕の反応。

ここでも一歩先を行く神野は、おもむろに「もし良ければ、先生もどうぞ」と残していた栗を差し出す。以前の甘利田なら耐え難い屈辱だと感じるであろうところを、素直に受け取り、ゼリーに乗せてつぶやく。

「今日も、負けたなあ」

ただいつもとは違い、清々しい表情である。甘利田にとって、もはや勝ち負けなど後付けに過ぎない。ただ給食を愛する者同士の心の交流なのだ。

---fadeinPager---

甘利田の運命はいかに

放課後、緊急職員会議という名の甘利田を糾弾する会の時間がやってくる。鏑木は満を持して、甘利田がチョコバットをベロベロ舐めているリーク写真を取り出し、「甘利田教諭が学校帰りに近所の駄菓子屋で買い食いしている写真です。それも毎日だ。さらに彼は、異常なまでに給食に執着している。これはもう尋常じゃない。卑しくも、教師が生徒よりも給食を楽しみにしている」と甘利田を厳しく批難する。確かに、毎日買い食いする教師がいたらちょっと嫌だ。しかも、黒々としたチョコバットを下から上に舐めずる。「あんた、変態かい? 変態はお断りだよ」。かの日、駄菓子屋の婆さんが放った言葉が脳裏をよぎる。

ところがここにきて、宗方が甘利田を庇う。

「甘利田先生は確かに、毎朝穴が開くほど献立を見ています。献立表はデスクの引き出しにしまってあって毎日磨きます。朝のホームルームも今日の献立を想像する時間に充ててます。給食前の効果を大声で歌って踊りますし、給食中は誰も寄せ付けないオーラを発します。生徒たちは、そんな先生が大好きです」「甘利田先生は、私たちと違って好きなものを好きでいられるんです。そんなふうに私はなりたい」

好きなものをとことん追求する人は眩しい。見ている方も楽しくなってくる。もしも自分の中学時代の担任が、甘利田先生だったらどんなに面白かっただろう。一生の思い出になりそうだ。

鏑木から意見を求められた校長は、「買い食いはやめられませんか」と優しく問いかける。

「やめられません」

真剣な顔で即答し、二人の援護を台無しにする甘利田。買い食いすらできなくなるぞ、甘利田。

「なぜですか」

「駄菓子が好きだから、ではダメですか」

ここで駄菓子への異常な執着を見せる甘利田。それでも「甘利田先生に問題がないとは言いません。ですがそれ以上に、貴重な人材だと私は思います」とフォローする校長。今回の冒頭で花壇にいた甘利田のもとへ宗方を送り込んだのも校長だった。校長が「貴重な人材」と呼ぶだけの何かがあるのだろう。

鏑木の上司である佐久本は、報告と異なるとして、教員のみ弁当にするという案を却下する。

「甘利田先生は言い訳をしませんでした」「自分に自信があるからです。どうなろうとも悔いがない。そんな覚悟があの人にはある。そういう教師は『貴重』です」「給食のことしか言わないのはあなたも同じじゃないですか。あなたも給食が好きなはずだ。立場が邪魔をして好きと言えませんか?」「言えないから言える人を攻撃するのは違いますよ」

実は鏑木も給食好きであり、給食を楽しむ甘利田に嫉妬していたのだった。上司の佐久本には全てお見通しのようである。

「私の教職の初めは、函館の中学校でした。そこでは給食に、いかめしが出た。あれは美味かった〜〜」

数十年前の記憶であろう「いかめし」を思い出し、恍惚とした表情を浮かべる佐久本。

「はい」

笑顔で返事をする甘利田。給食好きの同志がここにもいた。

その後、あれだけ言われたのに宗方を巻き込んで早速いつもの駄菓子屋で買い食いする甘利田。神野と店主の婆さんも混ざり、各々の口の中で炭酸ガスの飴菓子「ドンパッチ」が弾ける。

「私は、給食が好きだ。それは誰にも止められない。そして、この地に来て、駄菓子の深さを知った。人は少しずつ、自分の心を満たすものを増やしていく。私は図らずも、良い人たちに囲まれていたのかもしれない。」

長らく給食&駄菓子好きを隠し、もっぱら一人で楽しんできた甘利田だが、むしろ隠さないことによって、周囲の人々と通じ合うことができ、新たな楽しさを知ったのだ。来年には劇場版第二弾の公開を控えている今作。甘利田の給食好きが周知の事実となったいま、どんな展開が待っているのか。甘利田と神野(と鏑木?)の給食道からますます目が離せない。

絶対に終電を逃さない女

1995年生まれ、都内一人暮らし。ひょんなことから新卒でフリーライターになってしまう。Webを中心にコラム、エッセイ、取材記事などを書いている。『GINZA』(マガジンハウス)Web版にて東京の街で感じたことを綴るエッセイ『シティガール未満』、『TOKION』Web版にて『東京青春朝焼恋物語』連載中。

Twitter: @YPFiGtH
note: https://note.mu/syudengirl

連載記事

第1話:知るぞ人ぞ知る名作ドラマ、『おいしい給食 season2』がスタート! その魅力について
第2話:筑前煮の魅力は「ごった煮のダイナミズム」。『おいしい給食 season2』第2話レビュー
第3話:アメリカンな献立を、あのヒット商品の如くアレンジ! 『おいしい給食 season2』3話レビュー
第4話:教師・甘利田が、神野に勝てない理由。『おいしい給食 season2』4話レビュー
第5話:冷やし中華を通じて、食文化の本質に迫る。『おいしい給食 season2』5話レビュー
第6話:謎の料理「インド煮」とは? 『おいしい給食 season2』6話レビュー
第7話:甘利田の奇行に生徒たちは気づいている? 『おいしい給食 season2』7話レビュー
第8話:「フルーツ牛乳ナメてるだろ」。『おいしい給食 season2』8話レビュー
第9話:給食バトルは史上初の結果に……。『おいしい給食 season2』9話レビュー

---fadeinPager---