芸人界を侵食する“突然金髪化現象”
最近テレビを見ていて気になるのが、「中年になってから急に金髪にする芸人がやたら増えてないか?」ということだ。フットボールアワーの岩尾、スピードワゴンの小沢、小籔千豊、ニューヨークの嶋佐など、その例は枚挙に暇がない。
サンドウィッチマンの伊達やカズレーザーのように、キャリアの当初からキャラクターと金髪が分かちがたく結びついている人ならともかく、冒頭に挙げたような“後発組”は、それまで髪を染めるようなキャラクターではなかった(なんなら金髪に忌避感を抱いてそうなイメージすらあった)のに、ある日を境にコロッと宗旨変えした印象が強い。中にはオール巨人やヨネスケのように、かなりの“遅咲きデビュー”もいる。
思い返せば、今や金髪イメージがすっかり定着したビートたけしや所ジョージ、松本人志、小堺一機などの大御所勢も、もともとは長い芸歴の途中からイメチェンを図った後発組だ。なぜ彼らは、おじさんになったのを機に突然、金髪にしはじめるのだろうか?
スピードワゴン小沢一敬のInstagramより。
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“若見え”がアドバンテージになる職業に多い
そもそも、この傾向は何も芸人だけに限らない。自分の名前や顔が武器になるクリエイター全般や経営者、会社の規則に縛られないいわゆるフリーランスが多いカメラマンやスタイリストなどの職種、また、IT企業やベンチャー企業など“自由な社風”であることが売りになる業種にも、金髪中年は広く生息している。
ジャーナリスト/メディア・アクティビストの津田大介や、書評家・プロインタビュアーの吉田豪は、もはや若い頃から金髪が自身のアイコンになっているし、高須クリニックの高須克弥院長、LINEやZOZOの執行役員を歴任したインフルエンサーの田端信太郎なども、金髪になるべくしてなったという感じがする。そういえば、前澤友作もYouTubeチャンネルの企画ではあるが、一時期、金髪にしていたことがある。
彼らに共通するのは、社会のトレンドや業界の最前線を扱う手前、“若く見える”ことが仕事をする上でのアドバンテージになるということだ。それが実際にどれだけ功を奏しているかはわからないが、少なくとも「古臭い」「老害」と思われることは命取りであり、“年齢不詳でい続ける”ことが彼らのイメージ戦略にとっては必要なのである。
こんな最高すぎる画像があったの忘れてた。 pic.twitter.com/Bp79MvdRsM
— 吉田光雄 (@WORLDJAPAN) November 24, 2021
@WORLDJAPAN-Twitter
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金髪はもっともラクな白髪&薄毛対策
その際、フリーランス中年男性にとっての“アンチエイジング対策”が、ダイエットなどのボディメイクやスキンケア、整形などにはあまり向かわず、もっぱら「頭髪」に注がれるのは興味深いポイントだ。
これは、中年男性がもっとも加齢を突きつけられる部位が頭髪であり、もっと言えば、「白髪」と「薄毛」に直面して初めて、男性は自身の老いに本格的な危機感を抱くことを示している。金髪は、その人が老化に怯えはじめた抵抗のサインなのだ。
知り合いの美容師に聞いてみたところ、白髪や薄毛をカモフラージュするための手段として、金髪は一番手っ取り早く、しかも維持するのが比較的ラクなのだという。
白髪を隠すのであれば、例えば吉川晃司のようなシルバーアッシュのほうが年相応でおしゃれに見えそうなものだが、きれいに仕上げるには何度もブリーチした上で、さらに紫や青の補色を重ねなければならず、手間と時間がかかる。しかも、こまめに染め直さないとすぐに色落ちしてムラになり、見栄えが悪い。これは黒染めや、市販の毛染め剤でカラーリングする際も同様である。
その点、金髪は多少メンテナンスをサボってもブリーチだけでなんとかなったり、最悪プリン状態になってもさほど気にならない。セルフケアに労力をかけたくない男性には格好の髪色なのだ。
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中年男性の金髪は“文化的なイキリ”?
しかし、ここで私はどうしても、フリーランス中年男性が選択する金髪に、実利的な理由以上のものを感じてしまう。それは、“老化への抗い”という意味を超えた、“つまらない大人”になることへの反抗意識だ。
フリーランス金髪の先駆けである、クリエイティブ・ディレクターの箭内道彦は、かつて金髪にしている理由を問われて、いみじくも「自分自身を追い詰めるため」と答えていた。つまり、「あいつ、金髪のクセにつくっているものがつまらないな」と思われないよう、見た目に見合った面白いものをつくろうと自分を追い込んでいたというのだ。
いわば、思春期の中高生がナメられないための示威行為として金髪にするのと同じ。中年という第二の思春期を迎えたおじさんたちが、自分はいつまでも自由で面白く、やんちゃでかっこいい存在なのだと自らを鼓舞するための“文化的なイキリ”なのではないだろうか。
そこには、一般サラリーマン男性が規則に縛られておいそれとはできない金髪を、自分は自由にできるのだ、という特権意識もちらほら垣間見える。
そう考えると、フリーランス中年男性の突然金髪化現象が、途端にありきたりで保守的な行動に見えてくる。私たち中年男性は、金髪ではない新しい別のかたちで、自らのエイジングや凡庸さと向き合うべきなのかもしれない。
【執筆者】福田フクスケ
フリーランスの編集&ライター。週刊SPA!の編集を経て、現在は書籍編集。構成・編集協力した本に、田中俊之・山田ルイ53世『中年男ルネッサンス』(イースト新書)、プチ鹿島『芸人式新聞の読み方』(幻冬舎)、松尾スズキ『現代、野蛮人入門』(角川SSC新書)など。ご依頼は fukusuke611@gmail.com まで