里山の美術館に出現した「神秘の森」。『戸谷成雄 森―湖:再生と記憶』展で感じる彫刻の凄み

  • 写真・文:はろるど
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『双影景』 2008年 チェーンソーにて襞の刻み込まれた『森』が並んでいる。まるで列柱の連なる神殿に立ち入ったように厳かだ。

千葉・房総の緑豊かな里山に位置し、広い湖を眼下に望む市原湖畔美術館。観光・文化施設「水と彫刻の丘」のリニューアルによって2013年に誕生した同館は、コンクリートの構造体や巨大なアトリウムと回遊性のある館内を特徴としていて、これまでに建築やデザイン、民俗学などの展覧会を開くとともに、地域に向けたワークショップを行ってきた。

現在、市原湖畔美術館にて開催されている『戸谷成雄 森―湖:再生と記憶』が見逃せない。1947年に生まれた彫刻家の戸谷成雄(とや しげお)は、チェーンソーで木を彫る手法で知られ、国内の美術館での個展をはじめ、海外の芸術祭にも参加して活動している。代表的な『森』のシリーズなどの彫刻は、どれも荒々しく木が削り込まれていて、龍のうろこを連想させるようなうねりのある表面の溝や襞も魅力だ。

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『双影景』(2008年)の一部の表面。チェーンソーによって表面が刻み込まれ、複雑なテクスチャーを描いている。そのうねりがまるで生き物のようにも見えるのも面白い。

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手前:『雷神 - 09』 2009年 アトリウムを突き抜ける『雷神 - 09』の下部。樹木の根のようにも見えるが、木が雷から打たれた姿より着想されていて、空に轟く雷の構造を反転させた姿を表現している。

最初の『森』を起点に、木の彫刻が垂直に立ち並ぶ『双影景』の合間を抜けると、ぽっかりと穴の空いたような地下へと続くアトリウムが姿を見せる。そこへ展示されたのが、高さ9メートルを超える『雷神 - 09』だ。地下から1階の天井にまで達した作品の下部は、ちょうど植物の根のように丸まっていて、そこから光を求めて空へと根や茎を伸ばすように直立している。一面に削られた表面は化石のような灰色に染まっているが、コンクリートに囲まれた無機的な空間と響きあっている。

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幅3メートル、高さ4メートルの『水根II(スワ)』(2005年)の左に『地霊 Ⅳ』(1993年)が展示されている。

そして目を転じれば、木が根を張り巡らせたような『水根II(スワ)』のレリーフが広がり、ガラスと鉄の箱へ木の彫刻を納めた9点の『地霊 Ⅳ』が床に置かれている。その光景を前にしていると、木の精霊を祀った地の奥底へ誘われたような気持ちにさせられて、畏怖の念すら覚えるのだ。思わず息を整えながら目を閉じて瞑想してしまう。

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『視線体ー散』 2019年 チェーンソーで深くえぐられた立方体の彫刻が中央の床に置かれ、周囲の壁には無数の木塊が広がっている。まるで立方体の彫刻から破片が飛び出しているようだ。

長野県の山間部に生まれ育ち、子どもの頃に山や木へ神秘を感じたこともあるという戸谷は、彫刻家として活動をはじめると、2000年頃から「ミニマルバロック」という言葉を生み出し、作品を発表しながら「彫刻とはなにか」を問い続けている。そして今回の個展にあたっては、美術館の空間そのものをひとつのインスピレーションにして、森や土地にちなんだ作品を展示している。首都圏から車で約1時間。自然に囲まれた市原湖畔美術館にて、戸谷が新たに築いた「神秘の森」を体感したい。

『戸谷成雄 森―湖:再生と記憶』
開催期間:2021年10月16日(土)~2022年1月16日(日)
開催場所:市原湖畔美術館
千葉県市原市不入75-1
TEL:0436-98-1525
開館時間:10時~17時(月~金)、9時30分~19時(土曜・祝前日)、9時半~18時(日曜・祝日)
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月(祝日の場合は翌平日)、年末年始(12/27〜1/3)
入場料:一般¥800(税込)
※臨時休館や展覧会会期の変更、また入場制限などが行われる場合があります。事前にお確かめください。
https://lsm-ichihara.jp