映画『前科者』の見どころ&あらすじ。有村架純と森田剛の共演で描く、保護司と更生の物語

  • 文:上村真徹
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©2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会

洋画・邦画ともに注目作品の多い1月。同名の人気コミックを映画化した感動ヒューマンドラマ『前科者』の見どころやあらすじを紹介する。

【あらすじ】更生まであとわずかだったのに…元犯罪者はなぜ消えたのか?

小学館『ビッグコミックオリジナル』で2018年から連載され、2019年にはさいとう・たかを賞の最終候補作品にも選ばれた、香川まさひこ原作・月島冬二作画の『前科者』。“消えない罪を背負った者は生き直すことができるのか”という問いを投げかける人気コミックを完全オリジナルストーリーで映画化した『前科者』が、1月28日から劇場公開される。

コンビニ勤務の阿川佳代は、仮釈放で出所した受刑者の保護観察にあたる保護司の仕事をかけ持ちしている28歳の女性。保護司は非常勤の国家公務員だが報酬はない。しかも担当するのは、勤め始めたばかりの会社を無断欠勤する元窃盗犯や、他人に成りすまして飲食をツケにする元詐欺師など、次々と問題を起こす者ばかり。それでも阿川は、彼らを厳しく𠮟咤しながら親身に寄り添い、更生のサポートに努めていた。

そんな彼女にとっての大きな希望は、半年前から担当し順調に更生の道を歩んでいる元殺人犯の工藤。自動車修理工場での誠実な仕事ぶりが評価されて社員になる話ももち上がり、阿川は自分のことのように喜ぶ。そうした中、交番の巡査部長が何者かに拳銃を奪われ発砲される事件が発生し、その後も持ち出された銃による犠牲者が生まれる。時を同じくして、保護観察の満了を目前に控えた工藤が突然姿を消してしまう。

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【キャスト&スタッフ】有村架純と森田剛が『あゝ、荒野』に続く“魂の競演”

監督を務めるのは、ドキュメンタリー番組の演出から映画監督に転身し、劇場映画第2作『あゝ、荒野』で報知映画賞やブルーリボン賞など数々の映画賞で作品賞に輝いた岸善幸。「人間とは何か」を問うヒューマンドラマの名手であり、犯罪者の更生をテーマにした本作の監督として適任者といえよう。

主人公の保護司・阿川佳代を演じるのは、若手世代を代表する女優として映画やテレビドラマで大活躍し、2021年も『花束みたいな恋をした』『るろうに剣心 最終章』という話題作に出演した有村架純。不器用なほど真っすぐに使命を貫く一方、犯罪者を更生させるという正解のない仕事に、「自分に何ができるのか」と迷い苦しむ姿も人間臭く等身大に好演している。

阿川が担当する元殺人犯の工藤を演じるのは、猟奇殺人鬼役が絶賛された『ヒメアノ~ル』から6年ぶりの映画出演となる森田剛。前科者という十字架を背負う孤独と苦しみを、静かな演技で重厚に伝えている。他にも、刑事役の磯村勇斗とマキタスポーツ、さらにリリー・フランキーや木村多江ら、世代を超えた実力派キャストの競演が見られる。

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【見どころ】不寛容な社会に投げかける「加害者にも人生がある」という問題提起

更生への道を歩もうとする前科者の苦闘を描いた作品は洋の東西を問わず少なくないが、そうした物語で“無個性な傍観者”として描かれることの多い保護司にスポットライトが当てられるのは珍しい。それによって本作のテーマも、「前科者は更生できるのか」より「前科者の更生のために、周りの人間に何ができるのか」という問いに重きが置かれている。

犯罪者の更生を助けることで犯罪を予防するという大きな役割を担うものの、保護司にできるのは“更生のお膳立て”までで、実際に更生できるかどうかは本人次第。また、本作でも刑事の台詞として出てくるが「犯罪者なんて更生させても仕方ない」という社会の偏見も存在する。そんな状況で保護司としてできることを日々自問し、前科者たちと愚直に向き合っていく阿川の姿に心を揺さぶられずにいられない。

そうした阿川の奮闘ぶりだけでなく、「なぜ阿川は若くして保護司という仕事に人生を捧げるのか?」「なぜ工藤は社会復帰まであと一歩のところで姿を消したのか?」というミステリーも、物語に深みをもたらす重要なエッセンス。それらの真実が明かされていくにつれ、生きることの厳しさと儚さが浮き彫りとなり、それでも前に進もうとする人間の強さが心に染みることだろう。

心を揺さぶる感動と「加害者にも人生がある」ということへの気づきを与える本作。不寛容な空気が蔓延する現代だからこそ、見るべき価値のある作品だ。

監督/岸善幸
出演/有村架純、森田剛ほか 2022年 日本映画
2時間13分 1月28日(金)全国の劇場にて公開