革新的なアートブックを世界中に送り出してきたドイツの出版社「TASCHEN(タッシェン)」が、アートのある暮らしを提案するオンラインアートマーケットプレイス「OIL by 美術手帖」で、11月より日本初の公式オンラインショップをスタート。この機会にタッシェンは、日本の魅力を伝えるさまざまな書籍を出版している。
木版画といった日本の伝統的な手法や歴史はもちろん、現代の革新的な文化にも注目し、今後は欧州でまだあまり知られていない日本のアーティストの作品を出版することも検討中だ。
今年のラインナップでは、まず2020年東京オリンピックの国立競技場を設計した建築家、隈研吾が1988年から手がけた建築を、その技巧や素材感までをも余すところなく伝える作品集をはじめ、安藤忠雄やSANAA、石上純也などを紹介する『CONTEMPORARY JAPANESE ARCHITECTURE』で現代日本建築家たちに焦点を当てた。葛飾北斎の富嶽三十六景を収めた和綴の本は、2021年で最も美しい本、本そのものも芸術品だとドイツ内外のさまざまなメディアで絶賛されている。
18歳のときに創業者である父と共に日本を訪れて以来、日本に魅了され続けているというマネージング・ディレクター、マレーネ・タッシェンに、今回のプロジェクトにかける想いを聞いた。
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「本には、時を超えて受け継いでいくことができる永続性がある」
「初めて日本を訪れた2003年、荒木経惟さん、三宅一生さん、安藤忠雄さんなど日本を代表するクリエーターたちと出会い、素晴らしい時間を過ごしました」というマレーネ。
最後に日本を訪れたのは2018年末、マーク・ニューソンがデザインした超豪華本『フェラーリ・コレクターズ・エディション』のプレゼンテーションのときだ。渡航規制がなくなったら、いますぐにでも日本を訪れ、オリンピックを経て変化した東京の街並みを見てみたいという。ケルンとロンドンに拠点を置き、世界中を飛び回っているマレーネは、東京の書店についての印象をこう語ってくれた。
「私たちのパートナーである蔦屋書店の品揃えの豊富さと、深さに感銘を受けています。書店を出発点としながら、より幅広く大きなスケールでライフスタイル商品を展開し、文字通り都市の景観に影響を与えている。欧米の書店と比較すると、本が単に読むだけのものではなく、所有する喜びをもたらす作品やオブジェとして昇華されていると言ってもいいのではないでしょうか」
本には、時を超えて受け継いでいくことができる永続性があると語るマレーネ。共に暮らし、その生活を美しく彩ってくれるモノでもあり、また内面的にもインスピレーションを与え、憧れの存在との結びつきを高めてくれるのだという。芸術や文化の重要性が社会に浸透しているドイツにおいて、アート書籍の存在は、デジタル世界の解毒剤ともなっている。
「本の中の絵は、より大きく詳細なので、集中して注意深く見る必要があります。その結果、読者はより長い時間、その作品と対話することになるのです」
独立系出版社であるタッシェンは、既存のルールや基準に縛られることがない。自由に、自分達が素晴らしいと思うクリエイターやアーティストを取り上げ、そのビジョンを世界中に伝えることができる。そのことに誇りを持っているという。
次の日本関連のプロジェクトとしては、日本という国の地理や気候条件からなる豊かな食文化をひも解き、独創的な料理を展開する成澤由浩シェフとともに、コレクターズエディションを準備中だ。マレーネの解説によると、日本の森や海、すべての食べ物のルーツである地球を探索する、日本を巡る視覚的な旅を展開する本になるという。料理本やアートブックという枠を軽やかに飛び越え、新たな本の存在意義を提案するタッシェン。どのような切り口で日本の文化とのコラボレーションが続いていくのか、今後の動きが楽しみである。
問い合わせ先/TASCHEN(OIL by 美術手帖)
https://oil.bijutsutecho.com/gallery/