マツダの安全技術「Co-Pilot」が、ドライブ好きにとって朗報である理由とは

  • 文:小川フミオ
  • 写真:マツダ株式会社提供
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クルマの自動運転に興味あるひとは多いだろうか。自動運転技術が進化したあかつきには、クルマはラウンジ化して、乗員がチルアウトしているあいだに、クルマが目的地へ自動で走っていってくれる、なんていう提案もドイツのメーカーから出てくるほどだ。

そこにあって、マツダがいま進めている「Co-Pilot」構想は、ちょっとちがう。「多くの自動車メーカーは”機械中心”の自動化に向かっているが、マツダは”人間中心”」を謳う。

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路上で試乗中の風景

Co-Pilotとは、ご存知の読者も多いと思うが、航空機の副操縦士のこと。マツダのコンセプトでは、ドライバーを補佐する役目を車載コンピューターが担う。なにをするかというと、安全・安心な運転を続けられるよう、いざというときのバックアップ。

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フレームの右上にドライバーをモニターするカメラが設けられる

すでに「i-ACTIVESENSE(アイアクティブセンス)」として製品化されている運転支援機能に加え、ドライバーの挙動をモニターする車内カメラが基本的なシステムだ。ドライバーが眠くなったり、脳に異常が起きて運転が続行できなくなったするのを、眼の動きや頭の動きでモニターが感知する。

Co-Pilotは、ただし、まだ市販化されていない技術。先行するかたちで、2021年12月に、マツダ3に搭載した試乗車で経験する機会があった。場所は、東京の台場の一般道。

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Co-Pilotシステムが作動すると車両がハザードを点灯しながら減速する

一般道とは大胆、と思うものの、自動運転の実証実験が行われているので道交法に抵触しないのが、大きな理由、とマツダの技術者は説明してくれた。平日の台場は交通量が多くないのも、試乗がやりやすい背景にある。

ドライバーはマツダの技術者。私は後席から、Co-Pilotが働く様子を注視させてもらった。システムは、インフォテイメント用のモニターの右上に設けられたカメラを使う。言われても、カメラの位置がわからないぐらい、不自然さがない。

「では」と、ドライバーが言い、走行中にいきなり、がくっと頭を倒した。という前提で、このときは始動ボタンを押した。すると、システムが作動。まず警告が出る。でもドライバーはそのまま。ステアリングホイールからも手を離してしまった。

車両は、ハザードランプを点灯させるとともに、ホーンを鳴らしはじめる。これで周囲のクルマに異常を伝えるのだそう。追突などを避けるためだ。ステアリングホイールが動きだし、車両はゆっくりとした速度で路肩に近づいていき、そこで停止した。

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ステアリングにもシステムは介入して路肩に寄せていく

マツダの技術者に聞くと、ドライバーに異常が起きたことを車両が判断するパラメターは多岐にわたる。

運転操作における異常は「その人の普段の操作から逸脱”していないか?  ハンドル・ペダル操作量の通常との乖離度」で判断。頭部挙動は「車両挙動(G)に応じた顔向き(上下、傾き)」。さらに、視線挙動は「視線の向き」で、というぐあい。

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メーター内にもCo-Pilotが介入していることが表示される

マツダで統合制御システム開発本部に籍をおく副本部長の吉岡透氏が、今回の試乗会に参加していたので、私も話しを聞いてみると、「脳科学の専門家と共同で研究している」と言う。視線の動きは、たとえば、正常な状態と、異常が起きた場合とをマッピングデータで作りわけ、それを参考にするという。

現在は「Co-Pilot 1.0」といい、2022年に発表予定のラージSUVにまず搭載する計画だそう。そのさきは、異常がじっさいに起きはじめるより前から予兆を検知する「2.0」を25年をめどに実現したい、と前出の吉岡氏は語る。

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システムが介入して路肩に寄せるさいはゆっくりと動くのはおそらくバイクや自転車のすり抜けを警戒してのこと

冒頭に話を戻すと、この技術があっても、クルマを操る主体はあくまでドライバー、とマツダではする。「自動運転技術がドライバーに置き換わるのではなく(ドライバーを)サポートする存在であるべきだと考えている」そうだ。

マツダでシステム開発を統括している商品戦略本部の主査、栃岡 孝宏さんによると、「クルマを自ら運転することで元気になるのが、クルマが本来持つ効用」という。

「この技術の核は、ヒューマン・マシン・インターフェイスの考えかたです。ドライバーの異常予知がはやく出来れば、ドライバーにそれを伝え、ドライバーじしんが元の状態に回復して、事故を未然に防げます。それが無理なばあい、車両のシステムが事故防止のために働きます」

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ドライバーが意識を喪失することを前提に操舵も自動で行われる

同時に、高齢などを理由に運転をやめようと思っているひとの役に立てないか、とメーカーでは考えているようだ。

「運転を止めた人は、 運転を続けている人と比較し、要介護認定のリスクが2.16倍」と、筑波大学のデータをマツダでは引用。読者の方々は直接関係ないと思うかもしれない。でも、若いひとだって、運転は脳にいい、ととらえてもいいのではないだろうか。

若いひとに話題を寄せると、クルマばなれが言われる。運転しない理由をアンケートで尋ねると、事故を回避したい、という回答が少なからずあると、マツダの広報担当者が教えてくれた。その考えは否定できないものの、自動車のことを書いている私からすれば、やっぱり運転って楽しいよ、と言いたい。それも事実。

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テスト車両なので各所にカメラが取り付けられている」

とうぶん、この技術はマツダのラージ車(大きめサイズの商品群)専用になるようである。ただし将来的には、小型車にも、と考えていますと、マツダの吉岡さん。そうなると、慎重派のドライバーにも朗報といえる。

ドライブが苦役だったら、とっくに人間はクルマを見捨てているだろう。100年以上も一所懸命技術革新を続けてきているはずはない。環境問題や事故など、真剣に考えなくてはならないことは山積しているものの、それを技術で解決しながら、ドライブの楽しみは継続的に享受できたら、たいへんすばらしいことだと私は思う。

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Co-Pilotはあくまで人間をサポートする技術だという