僕は年に数本、写真趣味の欲求を満たすべく古い時代の交換レンズを買うのですが、今年のヒットは新品で購入したものでした。それはフォクトレンダーというブランドのヘリアClassic50mm F1.5というライカMマウント互換のレンズ。フォクトレンダーはカメラが発明されるより前にオーストリアで創業した光学メーカーで、後にドイツに本拠地を移した歴史をもちます。
この製品の設計と製造は、長野県にあるコシナという愛好家にはよく知られたメーカーによるものです。コシナは各種のマウントで非常に優秀かつ趣味性の高い交換レンズの数々を発売していますが、ヘリアClassic50mm F1.5は「あえて写りをクラシカルにする」という設計思想によって作られたもの。だから新品だけどオールドレンズみたいに写るんです。
上の写真は1964年の東京オリンピックで刷られたポスターを街角で見つけて撮ったものですが、撮影は2021年。写真の雰囲気が古めかしい感じですよね。ヘリアClassic50mm F1.5は絞って撮れば普通のレンズなのですが、開放のF1.5にすると表情が一変。ボケの崩れ方とか、点光源のアウトフォーカス部に輪郭が現れる感じとか、いわゆるオールドレンズの中でも人気のあるクセ玉の描写に近くなります。
このレンズは、フォクトレンダーの伝統的なレンズ構成であるヘリアタイプを採用しています。開放F値1.5という大口径はヘリアタイプでは実現不可能とされていますが、あえて無茶なことに挑戦することで収差と呼ばれるレンズの癖を表出させているのです。最近のレンズはとにかく優秀すぎて均質な写りになりがちですが、多様性が脚光を浴びる現代において描画の個性を強調したレンズが出現してきた。これは歓迎すべきことだと思います。
こちらもヘリアClassic50mm F1.5を絞り開放で撮ったもの。現代の一般的なレンズのようにガリガリに描写してくれることはないのですが、曇り空と海の質感が妙に気持ちよくないですか? やや専門的な視点では、手前のピントが合っていない波の白い部分には薄明かりをが反射してフレアと呼ばれる光のヴェールのようなものが出ています。そんなことが分からなくても、なんだか情感たっぷりの写真が撮れる、とても素敵なレンズです。
フォクトレンダー へリアClassic 50mm F1.5
https://www.cosina.co.jp/voigtlander/vm-mount/heliar-classic-50mm-f1-5/
ライター
1964年東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒。松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間務める。在職中から腕時計やカメラの収集に血道をあげ、2002年に独立し「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」などの雑誌やウェブの世界を泳ぎ回る。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)など。
1964年東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒。松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間務める。在職中から腕時計やカメラの収集に血道をあげ、2002年に独立し「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」などの雑誌やウェブの世界を泳ぎ回る。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)など。