東京・神田にコピーライターの糸井重里率いる「ほぼ日」のオフィスが竣工した。ビル一棟をリノベーションし、カフェのように寛げるフリーアドレスを導入したオープンスペースや、社員一人ひとりの使い勝手に合わせてデスクにも変更できるロッカールームを設けるなど、フロアをまたいで働けるオフィス環境が話題となっている。
多様な働き方を促す、可変性のあるフレキシブルな空間を手がけたのは、谷尻誠と吉田愛が率いるサポーズデザインオフィスだ。2000年、谷尻が26歳の時に地元・広島に事務所を構えて以降、広島と東京の二カ所を拠点にしながら多様な活動を続けている。いま最も勢いのある建築設計事務所のひとつであり、個人の邸宅から公共建築まで多くの案件を同時に進めながら、これまでになかったスタイルの働く場の提案や、体験を重視した新感覚のホテルなど、常識にとらわれない発想でさまざまな“場”をデザインし生み出してきた。
プロジェクトを自らつくり出し、アイデアを具現化していくことに価値をおく彼らは、東京オフィス内で運営する飲食店「社食堂」をはじめ、工務店や不動産会社、空間デザイン検索サービスといった建築にまつわる10社以上の法人を立ち上げるなど、“起業家”としても前例のない取り組みを積極的に続けている。軽やかなフットワークで新しいイノベーションを巻き起こしながら、建築の魅力を多くの人たちに伝えていくための多様な活動に、今後も注目したい。
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サポーズデザインオフィスが携わってきた代表的な建築
【体験型ホテル】
渋谷の中心地に立つ“泊まれるアパレルショップ”や、古い倉庫をコンバージョンしたサイクリストのためのホテル、かつての大浴場を読書スペースにしたブックホテルなど、宿泊を通して+αの経験が得られるコンセプチュアルなホテルを多く手がける。
【新しい働き方】
自社の東京オフィス内には、スタッフと一般客とがともに利用できる自主運営の「社食堂」を開業。また、9000㎡の巨大なスペースをシームレスにつなげ多様な居場所を設けた「KADOKAWA 所沢キャンパス」など、働くためだけでないオフィス環境を提案。
【日本らしさの再構築】
ホテルや飲食店など、和の空間を再解釈した建築も数多い。建具や障子、畳などの和のエッセンスと、コンクリートや鉄といった現代的な素材や構造・構法を融合させ、古さの中に新しさが共存する温故知新の“日本らしさ”を巧みに表現しているのが特徴。
SUPPOSE DESIGN OFFICE
2000年に谷尻誠がSUPPOSE DESIGN OFFICEを設立、14年より吉田愛と共同主宰となる。広島と東京を拠点に設計活動を行う他、社食堂、絶景不動産などの代表も務める。21年、設立20周年を記念した書籍『美しいノイズ』(主婦の友社)を刊行。
※この記事はPen 2022年1月号「CREATOR AWARDS 2021」特集より再編集した記事です。