2021年は、自分自身の好き嫌いや得手不得手はとうに知り尽くしている気でいたわたしに変化をもたらしたモノとの出会いがありました。
それは、このお弁当箱です。
子育て歴20年。その間、一貫してお弁当づくりは面倒でしかありませんでした。お弁当をつくる時間があれば1分でも長く寝ていたいし、そもそも冷めたご飯が好きではないので、美味しくつくろうという気が起きないのです。
冷凍食品は使わないという1点だけが矜持で、あとは「お弁当は粗末だけどその分夕食は美味しいのをつくるから堪えてくれ!」という妙な念を込め、てきとーなお弁当箱にてきとーなものを詰め続けてきました。
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ある日、南房総で『ZUKOSHITU』を主宰する木工エンジニア・ 戸田肇さんが、制作プロセスをSNSにあげていたのが目にとまりました。
CADや自動切削機などデジタル機器を駆使して効率化を図っているように見えますが、実はひとつひとつが手作業で、丁寧に生み出しているのが分かります。見た目にも、インダストリアルデザインのシャープさと手工芸の温かさを併せ持つ風情が表れているように感じました。
で、手にとって触ってみたいという好奇心からウッカリ買ってしまいました。
使い始めてから、ちょうど半年経った今。
お弁当づくりが、苦痛から無痛へと変わっているんですよ。
いや、なんなら「今日はどうしよっかなー」とかぶつぶつ言いながら鼻歌が出る程度には楽しくなっているかもしれません。
ひとつは、この大小の膨らみのせいです。
仕切りはなく、くぼみによって緩やかに領域が分けられているため、レイアウトがしやすい。
ご飯をどちらに・どこまで入れるか。くびれの幅に合ったおかずは何か。何色をどこに配すると美しいか。いろいろ考えつつ詰めるんですが、どんな風に詰めてもしっくりハマるので、自信をもった状態でフタをします。
ぱっと見の印象では、このデザインがちょっとウザめに主張してくるかな、と不安を感じなくもないですが、実際使ってみるとこの形は「自由」と「条件」を絶妙に与えてくる秀逸なキャンバスなのだと気付きます。
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人目を気にするSJKの娘は、最初に手渡した時には「え……なんでこれ?形が変わってない?」とやや引いていました。そして使い始めると、LINEでちょいちょい写真や感想を送ってくれるようになりました。
今まであんなにお弁当づくりを嫌がっていたわたしは、何だったのだろう?
眠い、忙しい、面倒臭いなどが理由だと思っていたけれど、実は「お弁当箱」と「中身」のフィッティングに対して毎度毎度ちょっとした不快感が募っていた、という理由もありそうです。
お弁当箱に愛が宿ると、今までのぐずぐずした気持ちが不思議と消えていきます。てきとー弁当をつくっていた頃の暗い気持ちも忘れてしまいました。
食べる人の顔がほころぶのを想像すると、てきとーにつくることなんて、できないはずですよねぇ?
道具って、大事ですね。
このお弁当箱との出会いは、人生でも記憶に残るものとなりそうです。
建築ライター、NPO法人南房総リパブリック理事長、neighbor運営、関東学院大学非常勤講師
1973年東京都生まれ。日本女子大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2007年より「平日東京/週末南房総」という二拠点生活を家族で実践。2012年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市職員らとNPO法人南房総リパブリックを設立。里山学校、空き家・空き公共施設活用事業、食の二地域交流事業、農業ボランティア事業などを手がける。2023年よりケアのプラットフォームneighbor運営。著書に『週末は田舎暮らし」、『建築女子が聞く住まいの金融と税制』など。
Twitter / Official Site
1973年東京都生まれ。日本女子大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2007年より「平日東京/週末南房総」という二拠点生活を家族で実践。2012年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市職員らとNPO法人南房総リパブリックを設立。里山学校、空き家・空き公共施設活用事業、食の二地域交流事業、農業ボランティア事業などを手がける。2023年よりケアのプラットフォームneighbor運営。著書に『週末は田舎暮らし」、『建築女子が聞く住まいの金融と税制』など。
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