Penが選んだ、おすすめの本50選

  • 文:今泉愛子
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言葉のやり取りで楽しむ、新しいアート鑑賞のかたち

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『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』川内有緒 著 集英社インターナショナル ¥2,310

幼い頃に視覚を失い、色や形の記憶がほぼないという全盲の白鳥建二さんは、年に何十回と美術館へ通う。ノンフィクション作家の著者は、白鳥さんとともに印象派の名画や現代アート、仏像を鑑賞。その様子を本書に綴った。白鳥さんには作品について説明する人が必要だ。彼は正確な描写や解説より、その人が作品からなにを感じたかを知りたいという。その人なりの解釈でいいし、混乱した時はそのまま言葉にしてほしいのだ。白鳥さんと著者のやり取りからは、美術鑑賞の新たな楽しみ方が見えてくる。

弁当配達を続けた10年間に、切り取った老人たちのリアルな姿

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『ぼくは独り暮らしの老人の家に弁当を運ぶ』福島あつし 著・写真 青幻舎 ¥3,960

写真家の福島あつしは、大学を卒業した2004年から10年ほど、神奈川県川崎市で高齢者専門の弁当配達のアルバイトをしていた。届け先の老人たちを撮影した写真をまとめたのが本書だ。福島は配達を続けていくうち、高齢者の身体の衰えや部屋の乱れに気づき、動揺することもあったという。何年も使われた形跡がない台所や、狭い廊下で正座して弁当を広げる老人たちの姿を捉えた写真からは、ひとりで老いを迎える切実さが迫ってくる。

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1216頁のボリュームで語られる、東京で150人が暮らした生の記録『東京の生活史』

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『東京の生活史』 岸 政彦 編 筑摩書房 ¥4,620 岸政彦は1967年生まれ。立命館大学大学院先端総合学術研究科教授、博士(文学)。研究テーマは沖縄、生活史、社会調査方法論。2016年、「ビニール傘」で第156回芥川賞候補。おもな著書に『同化と他者化』『リリアン』がある。

話し手150人と聞き手150人、全1216頁、2段組150万字という壮大なスケールのインタビュー集が完成した。本書の編者で社会学者の岸政彦は、始まりは数年前に自身が発信した、以下のようななにげないツイートだったと語る。

「『東京の生活史』300人ぐらい聞きたい。東京で暮らしてるひと、いろんな階層と年齢と職業とジェンダー。東京で、いろいろあるけど、一生懸命暮らしてるひとの人生を聞きたい」

岸はこれまで、大阪や沖縄などで名もなき人たちの声を拾い続けてきた。その仕事ぶりを知っている人たちがこのツイートに即座に反応。「自分も参加したい」と多数の声が届いた。そこでまず岸は聞き手を募集し、話し手は聞き手が自分で選んだ。

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少女の心の機微を描いた、カナダ発のグラフィック・ノベル『THIS ONE SUMMER』

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『THIS ONE SUMMER』マリコ・タマキ 作 ジリアン・タマキ 画 三辺律子 訳 岩波書店 ¥2,420

10代の少女ローズと友人のウィンディが、湖畔の別荘地で過ごすひと夏を描いたカナダのグラフィック・ノベル。ローズが大人と子どもの世界を行き来する様子をイラストとセリフで表現し、アメリカの児童図書館協会が主催するコールデコット賞など、多数の文学賞を受賞した話題作だ。両親の不仲に胸を痛め、心配してくれるウィンディの母親を拒絶し、地元の食料雑貨店の店員にひそかな恋心を抱くローズの繊細な感情の動きを、表情やしぐさを通じて見事に描写している。

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プレイリストと合わせて楽しめる、坂本龍一監修の音楽の百科事典『commmons: schola 音楽の学校』が発売

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『commmons: schola 音楽の学校 vol. 18 ピアノへの旅』坂本龍一/上尾信也/伊東信宏/小室敬幸 著 アルテスパブリッシング ¥2,200(税込)

J・S・バッハで始まり、17巻までをCDと本のセットで刊行してきた坂本龍一監修の音楽の百科事典『commmons: schola 音楽の学校』。18巻からプレイリスト付きの書籍にリニューアルされた。18巻はピアノをテーマに、坂本と、鍵盤楽器の成立史に詳しい上尾信也、民族音楽研究者の伊東信宏が鼎談。ベートーヴェンなどの作曲家、グレン・グールドやウラディミール・ホロヴィッツの演奏に触れ、ピアノの魅力に迫る。プレイリストはアップルミュージックとスポティファイでも公開。

なぜ、動物が好きなんだろう? 写真家が見つめた愛情のありよう

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『動物たちの家』奥山淳志 著 みすず書房 ¥3,080(税込)。奥山淳志は1972年、大阪府生まれ。98年、岩手県雫石町に移住し、写真家として活動を開始。東北の風土や文化を撮る他、人間が生きることをテーマとして作品を制作。著書に『庭とエスキース』(みすず書房)がある。

物心ついたときから動物が好きで、これまで犬や猫、鳩、インコ、ハムスターなど、たくさんの動物とともに人生を歩んできた写真家・奥山淳志が、記憶をたどりながら、幼い頃の動物たちとの関係を中心に文章を綴った。合間に、近年撮り下ろした動物の写真が収録されている。

最初に飼ったのは犬のボビーだ。奥山はボビーを初めて抱き上げた時の、全身から伝わってきた四肢の躍動感や左右に振られた尻尾、やわらかい腹の感触を、文章で再現。その瞬間から動物が特別な存在になったと振り返る。

奥山と動物との親密な日々は、彼が大学に入学し、実家を離れるまで続いた。彼は本書で、こう綴っている。「僕の心の中には動物にしか満たすことができない領域がある」。どういうことか、訊いてみた。

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BTS人気をソウル大学教授が読み解く『BTS オン・ザ・ロード』、メディアやエンタメ界に関わる人は必読!

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『BTS オン・ザ・ロード』ホン・ソクキョン 著 桑畑優香 訳 玄光社 ¥2,310(税込)

BTSの世界的な人気がずっと続いている。5月に発表した「Butter」は米ビルボードのメインシングルチャート「ビルボードHot100」で7週連続1位を獲得。9月8日には首位を再び奪還し、通算10度の1位に輝いた。こうした中、BTSやK-POPの解説本の刊行も相次いでいるが、ソウル大学言論情報学科のホン・ソクキョン教授が著した『BTS オン・ザ・ロード』はK-POP産業の特徴に始まり、メディア論やジェンダー観などからBTS現象を読み解いている。「なぜ、BTSがこんなに人気なのか?」という疑問を抱いている人にお薦めの一冊だ。

なかでも2018年のBTSのワールドツアーにて行われたファンへのインタビューが興味深い。BTSの成功の裏にはファンダム「ARMY(アーミー)」の存在が大きいが、ファンはBTSのなにに惹かれ、どのように応援するのか? BTSの韓国語の歌が、どのように海外ファンに響いていったのか? ARMYの層や特徴、心理についてわかりやすく解説されている。

ホン・ソクキョン教授に、欧米のポップスターと比較して、BTSの音楽、BTSのファンはどういう違いがあるのかを尋ねた。

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中国を代表する建築家が綴る、自らの設計と建築への思い『家をつくる』

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『家をつくる』王澍 著 市川紘司/鈴木将久/松本康隆 訳 みすず書房 ¥5,280(税込)

建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞を中国で初めて受賞した建築家、王澍(ワン・シュウ)が建築について綴る。まず驚かされるのは、文学や美術、歴史への造詣の深さだ。中国の伝統を反映した建築の在り方を思索。さらに、中国美術学院象山キャンパスや杭州の中山路など、自らの建築の完成に至るまでのプロセスを豊富な写真とともに詳述。ときには模型をつくらず想像に重きを置くなど、建築の背景にある思想もよくわかる。美術家の艾未未(アイ・ウェイウェイ)とのやり取りも興味深い。

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2000年代以降の新潮流を知る、デザイナー100組のインタビュー集

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『デザインの現在 コンテンポラリーデザイン・インタビューズ』土田貴宏 著 PRINT & BUILD ¥2,640(税込)。土田貴宏は1970年北海道生まれ。2001年からフリーランスでライターやデザインジャーナリストとして活動。国内外での取材やリサーチを通して、Penをはじめ各種メディアに寄稿。東京藝術大学で非常勤講師も務める。※第2版より表紙デザインが変更になる可能性があります

デザインの世界では、2000年代頃から万人に対する正解のない時代が始まっていた。表現や役割が多様化し、快適さや実用性などの枠組みを超えたデザインに価値を見出す気運が高まってきたのだ。

本書を読むと、改めてデザイン界の新たな流れに驚かされる。著したのは、デザインジャーナリストとして長年取材を続けてきた土田貴宏。2011年から19年までに行った、100組ものデザイナーや建築家へのインタビュー集だ。土田は現状をこう見ている。

「1990年代以降、嗜好の多様化や商業主義的デザインへの反動があります。特に大量生産・大量消費の弊害は、多くのデザイナーが意識している。新しいデザイナーほど少量生産や環境負荷の低い素材の使用、他者との共生などに積極的です。量産品を手がけるにしても、サステイナビリティに配慮し、社会貢献を意識しています」

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シャネルの広告からアップル社のロゴまで、 300以上のデザインを多角的に分析

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『ビジュアルデザイン論 グーテンベルクからSNSまで』リッカルド・ファルチネッリ 著 清水玲奈 訳 クロスメディア・パブリッシング ¥2,178(税込)

商品のパッケージやブランドのロゴ、ボトルの形など、あらゆるものにはつくり手の意図が存在する。イタリアのグラフィック・デザイナーでデザイン理論家の著者は、こうしたビジュアルデザインについて、鉄道時刻表やアップル社のロゴなど300点以上の図版を掲載し、商業性と芸術性の両面から分析。大量消費社会やデジタルデバイスの誕生などがデザインにもたらした影響、消費戦略に長けたアメリカのデザイナーと権威主義的なヨーロッパのデザイナーとの違いなど興味深いトピックを論じる。

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80代の美術家・李禹煥が明かす、豊かな創造力の源泉

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『両義の表現』李 禹煥 著 みすず書房 ¥5,280(税込)

1936年に韓国で生まれて56年に来日、以来、日本を拠点として活動する美術家、李禹煥(リ・ウファン)のエッセー集。内容は、自身の創作活動からレンブラントの自画像の解釈、新型コロナウイルスについての美術家の視点での考察まで多岐にわたる。なかでも、沈黙の先にある表現の可能性や自己への抑圧が創作に与える影響など、美術家の内面の動きを言い表す文章が見事だ。窮地に陥った際の対処法は、キリストや孔子などの偉人ならどうしたかと考えること。数々の人生訓も実に味わい深い。

「菌と対話しながら暮らす夫妻」に見る、変化の多い時代を生き抜く力

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『菌の声を聴け タルマーリーのクレイジーで豊かな実践と提案』渡邉 格/渡邉麻里子 著 ミシマ社 ¥1,980(税込)

「タルマーリー」は、鳥取県智頭町にあるパンとビールの店。東京生まれの渡邉格・麻里子夫妻は、千葉、岡山を経て鳥取に行き着いた。菌による発酵に魅せられたふたりは、この地でこれまで続けてきたパンづくりに加え、ビールづくりを開始。日々を綴ったのが本書だ。

「野生の菌のみで発酵に向き合うと、パンやビールづくりの教科書とは違う現象に出合います。発酵の途中でカビが生えるなど予定通りにいかない自然の変化を受け入れ、なぜこうなるのかと考え続けることで思考の体力が身につきました」と夫妻は語る。

わからないことを排除せず、全体をあるがままに捉える思考方法は、どんな変化にも対応できるという。

「実践していると、理想や常識が音を立てて崩れ去ることがよくあります。理想を打ち立てては崩れることを繰り返すうちに、現実に即した理想が出来上がるんです」

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10代半ばで日本文化に目覚めたチェコ出身作家の鮮烈なデビュー作

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『シブヤで目覚めて』アンナ・ツィマ 著 阿部賢一/須藤輝彦 訳 河出書房新社 ¥2,970(税込)

チェコで生まれ、10代半ばで日本文化に目覚めた著者の鮮烈なデビュー作。本書の主人公ヤナは、14歳で村上春樹の小説『アフターダーク』を読み日本文学に惹かれ、プラハの大学では日本文学を専攻。周囲には、アニメやゲームに詳しい日本フリークが大勢いたが、彼女は昭和初期に早逝した作家、川下清丸を研究する。一方、ヤナの分裂した魂は、かつて滞在した渋谷の街をさまよっていた。日に日に東京の文化を吸収する魂は、青山の老人ホームに行き着く。時空を超えた文化の交流の描写が圧巻だ。

「スニーカー」はいかにして、現代のポップアイコンになったのか?

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『スニーカーの文化史 いかにスニーカーはポップカルチャーのアイコンとなったか』ニコラス・スミス 著 中山 宥 訳 フィルムアート社 ¥2,200(税込)

19世紀後半、スポーツの必須アイテムとして誕生したスニーカーは、やがてファッションやポップカルチャーの注目アイテムとなった。ジャーナリストの著者はその変遷を追う。プーマがサッカー選手のペレを広告塔として起用したのは1970年代のこと。マイケル・ジョーダンを起用したナイキの「エア ジョーダン」の発売は85年だ。その後、各メーカーはデザインに凝った希少モデルを販売、コレクターが群がる状況が生まれた。流行には各ブランドのマーケティング戦略が大きく関与してきたことがわかる。

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未曽有の苦境に置かれた飲食業界で、シェフたちはどう考えたか

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『シェフたちのコロナ禍 道なき道をゆく三十四人の記録』 井川直子 著 文藝春秋 ¥2,090(税込) 著者の井川直子は文筆家で、料理人、生産者、製造業など食と酒にまつわる「ひと」と「時代」をテーマにした取材、エッセイを執筆する。おもな著書に『変わらない店 僕らが尊敬する昭和』『シェフを「つづける」ということ』など。

ライターの井川直子が飲食店の店主を取材して、「何が正解なのかわからない」と題した記事の公開をウェブ上で開始したのは、2020年4月8日、東京都を含む7都府県に緊急事態宣言が発令された翌日のことだった。同年3月から東京都知事は、都民に不要不急の外出自粛を呼びかけていたが、飲食店へは休業ではなく、時間短縮営業を要請。補償はなし。休業か営業か、営業するとしてもどんな方法が適切なのか、という難しい判断を店主たちが迫られている様子を綴った。

「コロナ禍の影響を受けている飲食店に対して、自分にできることはなんだろう、とずっと考えていました。テイクアウトを利用して『食べて応援』はしていましたが、書き手の私がそれだけでいいのか。そう考えていた時に、店主たちとの話の中で『何が正解なのかわからない』という言葉が出てきたんです。まさにテーマが降りてきた瞬間で、ようやく自分にできることが見つかった、と思いました」と、井川は語る。

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気鋭のライター磯部涼が追う、令和早々に起きた3つの殺人事件

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『令和元年のテロリズム』磯部 涼 著 新潮社 ¥1,870(税込)

元号が令和に変わった2019年、立て続けに殺人事件が起きた。早朝、近くに住む男性が登校中の小学生ふたりを殺害し、18人に重軽症を負わせた川崎の事件。元農林水産省事務次官が自宅で40代の長男を殺害した事件。京都アニメーション社(以下、京アニ)を突然訪れた男がガソリンを撒き36人が死亡した放火殺傷事件。どれも発生から1年以上が経過している。ライターの磯部涼は、3つの事件の犯人を丹念に追い、本書を著した。

川崎の事件の犯人は、伯父夫婦と暮らす家の一室に20年ほど引きこもっていたという。社会はおろか伯父夫婦ともほとんど関わりがなく、パソコンや携帯電話も持っていなかった。動機はまったく見えてこない。そんな男が事件を起こすとインターネット上には「ひとりで死ね」というコメントが殺到。磯部はこう語る。「その言葉に、多くの人が自分のことだけでいっぱいいっぱいなのだと感じました。社会全体に余裕がないのです。この状況を分析したいと思いました」

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10年間の昏睡から覚めた青年が見た、ある国の悲惨な内情とは?

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『理不尽ゲーム』サーシャ・フィリペンコ 著 奈倉有里 訳 集英社 ¥2,310(税込)

東ヨーロッパのベラルーシ出身の作家が、1999年から2010年にベラルーシで実際に起きた事件をもとに描いた長編小説。主人公の青年は、1999年に地下鉄の駅で起きた群衆事故で昏睡状態に陥り、10年後に目覚めた。5年ぶりの大統領選で、反体制派を主導していたジャーナリストは謎の自死を遂げ、集会の日に広場にいた者は携帯電話の位置情報をもとに全員が逮捕されたという。21世紀にこの状況は信じがたいが……。理不尽さが増していく国家の様子を、主人公の視点を通して生々しく描いている。

沖縄角力の伝説の猛者から女子高校生の相撲部まで、各地のユニークすぎる「相撲取り」とは?

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『世界のおすもうさん』和田靜香/金井真紀 著 金井真紀 イラスト 岩波書店 ¥1,980(税込)

相撲ファンの著者ふたりが日本各地の「おすもうさん」を取材。ユーモラスなイラスト付きでリポートする。沖縄で盛んなのは、道着と鉢巻きを着けて戦う沖縄角力(すもう)。和歌山のあるスーパーには相撲部があり、みなで仕事後に汗を流す。日本で暮らすブラジルやハワイ出身者も故郷で親しんだ相撲に夢中だ。モンゴル出身の人類学者は、国技館で見た土俵の狭さに驚いたという。モンゴルでは取組の際に土俵を使わないのだ。国籍や性別、世代を超えて人々が夢中になるこの競技は、実に多彩で面白い。

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増え続けるアーミッシュから、豊かな老いのヒントを探る1冊

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『アーミッシュの老いと終焉』堤 純子 著 未知谷 ¥2,970(税込)

アメリカの特定地域で集団生活を営むアーミッシュはプロテスタントの一派で、1800年代のような衣服を纏い、電気を使わず移動は馬車を使う。制約は多いがその人口は増え続け、現在は30万人以上。平均寿命はアメリカ人全体のそれを上回る。著者はそんな彼らの暮らしぶりを紹介。共同体では各々に役割があり、誰もがよく働く。家族を超えた助け合いが基本にあり、助けるほうも助けられるほうも気負いがなく、高齢者が孤立しない。豊かな老いを送る一種のヒントかもしれない。

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挑み続ける仲條正義の表現は、どれもいまに生きると示す

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『仲條 NAKAJO』仲條正義 著 服部一成 構成・デザイン 葛西 薫/服部一成 編 ADP ¥9,350(税込)

グラフィックデザイナー、仲條正義の作品集が完成した。640ページにおよぶ一冊に、1960年代から現在までの代表作を年譜とともに年代順に収録。圧巻。そのひと言に尽きる。

編集はアートディレクターの葛西薫と服部一成が担当。仲條は付属の12ページのブックレットに文を書いたものの、作品集の制作過程は目にしていない。彼らしい江戸っ子気質か、実に潔い。散逸していた仲條の作品を探し、選び、編纂する作業が8年続いた。

資生堂宣伝部を経て仲條がデザイン事務所を立ち上げたのは61年。資生堂の企業文化誌『花椿』のアートディレクションに45年も関わった。資生堂パーラーや松屋銀座のロゴも代表作だ。大胆な色彩と造形、隠し味の効いた作品の数々。知的なユーモアに加え、温かさも見え隠れする。粋な色気も漂う。

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LAに滞在した映画研究者が、 移民の地ならではの食文化を考察した書『LAフード・ダイアリー』

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『LAフード・ダイアリー』三浦哲哉 著 講談社 ¥1,870(税込)

映画研究者の著者は、南カリフォルニア大学で1年間、映画研究のため家族とともにロサンゼルスに滞在。レストランや友人宅、自宅での料理を通じてロサンゼルスの食を考察する。一品豪華主義の肉料理を楽しむ人にとって、多彩な旬のネタを味わう寿司はどう映るのか。世界中からやってきた移民たちの食文化はこの地でどのように変化するのか。現地のレストランが日本人観光客に不評な理由も分析する。「おいしい」とは文化と経験が絡み合って生まれるということをリアルに描く。

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AIは親友になり得るか? カズオ・イシグロの静かな問い

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『クララとお日さま』カズオ・イシグロ 著 土屋政雄 訳 早川書房 ¥2,750(税込)

カズオ・イシグロのノーベル文学賞受賞後初の長編、舞台は近未来。子どもたちは自宅学習が基本で友達と触れ合う機会が少なく、人間の形をしたAF(人工的な友達)をもつのが一般的だ。病弱な少女、ジョジーが選んだAFのクララは観察力に優れ、人の心を読み解いてジョジーと母親やボーイフレンドとの関係がうまくいくよう尽くす。対照的に利己的で疑い深い人間たちは、クララをどう扱うのか。結局クララを支えたのは、太陽への信仰だった。心とはなにか、考えさせられる。

経済、ジェンダー、家計……話題の書『サラ金の歴史 消費者金融と日本社会』でサラ金の誕生から発展をたどる。

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『サラ金の歴史 消費者金融と日本社会』小島庸平 著 中央公論新社 ¥1,078(税込)

経済学者である著者が、経済、ジェンダー、家計など多様な側面からサラ金の歴史をまとめた。知人や同僚間の「素人高利貸」を源流としたサラ金誕生のプロセスに始まり、高度経済成長期以降に大躍進した理由には、当時の男女役割分担や家計の特徴を的確に捉えたビジネスであったことを指摘。その後、過剰な貸し付けや取り立てが横行し、社会問題化した内情にも迫る。日本経済が生んだ問題の本質が浮き彫りにされ、スリリングだ。

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知られざる世界のラグを、プロのディーラーが徹底解説した『遊牧民と村々のラグ キリム&パイルラグの本格ガイド』

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『遊牧民と村々のラグ キリム&パイルラグの本格ガイド』前田慎司 著 グラフィック社 ¥3,300(税込)

約30年間、各国で買い付けをしてきたディーラーによるラグとキリムのガイド本。アフガニスタンや中央アジア、トルコなどで入手した240点をエリアごとに紹介する。それぞれのラグの写真には、つくられた年代やサイズ、用途などが詳細に添えられ、さらに織りの種類、素材の基礎知識も収録。地域で異なる紋様や色彩を見比べるのも楽しい。挿入される紀行文からはラグと深くつながる現地の人の息遣いが伝わり、旅する気分を味わえる。

産卵中の姿を見た者がいない⁉ 謎めくウナギを解き明かす『ウナギが故郷に帰るとき』。

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『ウナギが故郷に帰るとき』パトリック・スヴェンソン 著 大沢章子 訳 新潮社 ¥2,420(税込)

ヨーロッパウナギの生態はいまだ謎が多い。産卵中の姿を見た者がなく、生殖する際に故郷に戻るとされるが、その年齢に個体差が大きい理由は不明だ。幼少期に父親とよくウナギ釣りに出かけたというスウェーデン人ジャーナリストの著者は、謎に魅了されたひとり。過去のウナギ研究者の奮闘や神話との関わりを挙げてウナギの一生を解き明かしながら、その姿を人間に重ね、生きて死ぬことの意味までを哲学的に問う。2020年、「ニューヨーク・タイムズ」紙の「注目すべき本100」に選出。

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こう書けば読まれるのか! SNS時代に必須の文章力を『バズる書き方 書く力が、人もお金も引き寄せる』で学ぶ。

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『バズる書き方 書く力が、人もお金も引き寄せる』成毛 眞 著 SBクリエイティブ ¥990(税込)

SNSで誰もが気軽に発信できる時代に、必要なのは文章力だと著者は主張。どうすれば他人の目に留まる文章が書けるかを解説する。著者や著者の知人がフェイスブック用に書いた文章を示しながら指南するが、どこをどう書き換えれば興味を引く記述になるのかがよくわかる。さらに、投稿頻度や炎上を回避する書き方にも言及。接続詞の使い方や語尾など、多くの人がもつ書きグセにもメスを入れる。すぐに役立つ実践的な内容だ。

日本の鉄道150年の歴史を時刻表でひも解いた『紙の上のタイムトラベル 鉄道と時刻表の150年』。

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『紙の上のタイムトラベル 鉄道と時刻表の150年』松本典久 著 東京書籍 ¥2,200(税込)

鉄道ジャーナリストの著者が、年代ごとの時刻表と豊富な写真をもとに日本の鉄道の歴史をひも解く一冊。1872年の鉄道開業から建築家の辰野金吾が設計した東京駅の完成、戦後の経済復興とともに鉄道が勢いを増す様子などが浮き彫りになる。昭和の羨望を集めた新幹線、平成ののんびり楽しむ豪華寝台列車、令和のエネルギー効率がいい新幹線やCO2排出量の少ない次世代型路面電車と、各時代で台頭する列車を見ていくのも面白い。

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宝くじの当選番号は予想できるか? 統計学で幸運の正体を明かした新刊『それはあくまで偶然です 運と迷信の統計学』。

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『それはあくまで偶然です 運と迷信の統計学』ジェフリー・S・ローゼンタール 著 石田基広 監修 柴田裕之 訳 早川書房 ¥2,530(税込)

母親と生き別れになっていた青年は、18歳になった時、懸命に母を探したが見つからなかった。ところが4年後、勤務先でふと母の名前を口にしたところ、同じ職場で働いていることがわかる。それはただの偶然なのか、それとも勤勉な青年に、神様が特別なご褒美を与えたと解釈するのか。

統計学者の著者は本書で、自ら数字を選択して購入した宝くじが当たった女性や、7回も雷に打たれた男性、フットボールで初試合なのに大活躍してしまった選手などの事例を膨大に集め、統計データを用いて、幸運や不運は偶然起こることを証明。統計学の基本的な考え方を紹介していく。

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イアン・マキューアン最新長編『恋するアダム』は、AIと2人の人間の三角関係。

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『恋するアダム』イアン・マキューアン 著 村松 潔 訳 新潮社 ¥2,750(税込)

イギリスの人気作家、イアン・マキューアンの最新作はSF。主人公のチャーリーは、遺産で最高性能の男性アンドロイド、アダムを購入。チャーリーが上階に住む女子学生ミランダを夕食に誘った日、アダムは「ミランダを信用するな」と忠告する。彼女の秘密を突き止めていたからだ。チャーリーは動揺しつつも、彼女との関係を深めた。ところが自我を形成したアダムは、ミランダに恋心を抱く。人間は、アンドロイドとどう付き合えばいいのか。綿密な心理描写に引き込まれる。

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日本で最も恐れられる、「文春砲」が生まれた舞台裏『2016年の週刊文春』。

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『2016年の週刊文春』 柳澤 健 著 光文社 ¥2,530(税込)

雑誌『週刊文春』は、いかにして「文春砲」を放つようになったのか。かつて編集部に在籍し、歴代の名物編集長、花田紀凱と新谷学の仕事ぶりを身近で見てきたノンフィクションライターの著者は、関係者への丹念な取材を基に、詳細をリポートする。

創刊は、1959年に遡る。先んじて1956年に創刊した『週刊新潮』の部数をようやく上回ったのは、花田が編集長を務めていた88年のことだった。当時、週刊誌は既に新聞社の社会部以上の取材力を備えていた。生命保険目当てに妻を殺害したと疑われ、世間を騒がせたロス疑惑を、84年に「疑惑の銃弾」というタイトルで真っ先に記事にしたのは『週刊文春』だ。

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美しくなれば幸せになれるか? 整形した4人の女性の告白集『東京整形白書 あと1㎜』。

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『東京整形白書 あと1㎜』藤原亜姫 著 主婦の友社 ¥1,320(税込)

美容整形をカミングアウトしている4人の女性が、ビフォー・アフターの写真とともに、どんな手術をどれくらいの金額で行ったかという具体例から、生い立ち、なぜ整形を決意したか、どうしてカミングアウトしたのか、整形後人生はどう変わったかを自身の言葉で明かす。自信がもてたと胸を張る女性もいれば、いまもまだ好きなパーツはひとつもないと告白する女性もいた。美しさによって自信をもつことの意味を考えさせられる。

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再訪かなわぬ飲食店の思い出を100人の著名人が綴ったエッセイ集『Neverland Diner 二度と行けないあの店で』

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『Neverland Diner 二度と行けないあの店で』都築響一 編 ケンエレブックス ¥3,630(税込)

ミュージシャンや映画監督ら100人が、なんらかの事情でもう行くことができない思い出の飲食店について綴る一冊。小説家のバリー・ユアグローは映画監督と打ち合わせをして決裂したニューヨークのカフェのことを、フードライターの小石原はるかは自宅の居間で母が始めたレストランの記憶を記す。100人の思い出を読んでいると、おいしさだけで記憶に残るのでははないことがよくわかる。

70年代の人種観をあぶり出す、米作家マラマッド長編初邦訳『テナント』。

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『テナント』バーナード・マラマッド 著 青山 南 訳 みすず書房 ¥3,080(税込)

アメリカの作家バーナード・マラマッドが、1971年に発表した長編小説の初邦訳。ニューヨークのアパートで小説を書き続けるユダヤ人作家のハリーは、ある日、無人のはずの建物でタイプライターをカチカチと打つ音がすることに気付く。音の主は、同じく作家で黒人のウィリーだった。ウィリーは自身が書いた小説をハリーに読ませるが、そこから少しずつ泥沼の関係に陥っていく。当時のアメリカ人の人種への意識を浮き彫りにした作品だ。

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三国志の地味キャラ? 短気? 劉備の人物像をひも解く書『劉備玄徳の素顔』。

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『劉備玄徳の素顔』 島崎 晋 著 エムディエヌコーポレーション ¥980(税込)

7割が史実で3割が虚構といわれる小説『三国志演義』に登場する英雄の中で、最も地味な存在であった劉備。聖人君子として描かれていたが、果たしてそれは真実なのか。歴史作家の著者が多数の文献や資料を基に史実を追い、小説で描かれたキャラクターに隠れた実像に迫る。実際には、せっかく官職に就いてもすぐに辞めてしまう短気な性格だったという劉備。彼が乱世で頭角を現したのは、人望があったからだという。人間味あふれる生々しいエピソードの数々が興味を引く。

消費で政治や企業に立ち向かうアメリカの熱いムーブメントを知るための一冊『Weの市民革命』

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『Weの市民革命』佐久間裕美子 著 朝日出版社 ¥1,650(税込)

アメリカで猛烈なゆり戻しが起きている。トランプ政権下での移民、難民の排除、LGBTQ+や女性に与えられていた権利の縮小、環境規制の緩和などに対して、市民が連帯してノーを示しているのだ。20年以上ニューヨークで暮らす著者は「いま、革命が起きている」と書く。

革命の主体を担うのは1981年から96年に生まれたミレニアル世代だ。彼らの抗議運動は静かに進行する。自分が反対する政治家とつながりのある企業やブランドには不買の姿勢を表明し、自分が信じる大義や価値にコミットする企業やブランドに喜んでお金を使うことで政治的意思を表明するのだ。こうした行為はSNSを通じて瞬く間に拡散され、大きな動きとなる。これは消費アクティビズムと呼ばれる手法だ。

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デザイナー森永邦彦が綴る、アンリアレイジの軌跡『AとZ アンリアレイジのファッション』。

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『AとZ アンリアレイジのファッション』森永邦彦 著 早稲田大学出版部 ¥990(税込)

2003年にデザイナー森永邦彦が設立したファッション・ブランド「アンリアレイジ」の軌跡を、森永自身が綴った。中学時代の同級生とブランドの象徴でもあるパッチワークを始めたいきさつや、05年に東京タワーでゲリラ開催した初めての東京コレクション、コロナ時代のファッションの在り方まで。森永はなにを考えどう行動してきたのか。変化し続けるファッションの世界で生きていくことを決意した日から、彼は髪形を変えていないという。ゆるぎない信念が伝わってくる一冊だ。

社会の規範に鋭く斬り込む、韓国アーティスト初の小説集『アヒル命名会議』。

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『アヒル命名会議』イ・ラン 著 斎藤真理子 訳 河出書房新社 ¥1,980(税込)

シンガーソングライターとしても活躍するアーティストの初の小説集。漢字3文字の姓名が多い韓国で、2文字の著者は幼い頃から異端視され、性別や国籍などあらゆる枠組みに疑問を抱いたと明かす。表題作「アヒル命名会議」では、創造したものの名前について議論する神と天使が登場。「韓国人の韓国の話」では、ニューヨークから韓国に里帰りした女性が、自身が平凡な韓国人であることを嫌悪する姿を描く。人も物も、名前をもつとなにが変わるのか。社会の規範に鋭く斬り込む。

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能登半島先端からヒマラヤまで、写真家・石川直樹の旅の記録『地上に星座をつくる』。

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『地上に星座をつくる』 石川直樹 著 新潮社 ¥1,925(税込)

写真家の石川直樹が2012年から文と写真で綴った70本の旅の記録をまとめた一冊。山形でマタギと山へ入り、チベットで年を越し、さまざまなルートでヒマラヤ遠征を繰り返す。その石川がヒマラヤより寒いと驚いたのが、流氷の始まりの地、ロシアの都市マガダンだ。世界を飛び回っているが、東京では短い距離を移動しただけで膝や腰が痛くなるという。能登半島にある銭湯から路上で牛の解体が始まるバングラデシュの日常まで、冷静な観察眼をもち旅の興奮を伝えている。

酒飲みの韓国人作家が綴る、食への愛情に満ちたエッセイ『きょうの肴なに食べよう?』

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『きょうの肴なに食べよう?』クォン・ヨソン 著 丁海玉 訳 KADOKAWA ¥1,650(税込)

無類の酒飲みで韓国の蒸溜酒ソジュを好み、自分の味覚はソジュとともに育ったという韓国人作家による食エッセイ。季節ごとに愛する肴について思い入れたっぷりに綴る。春の朝いちばんにつくる3種類の海苔巻き、舌が痺れるほど辛い夏のビビン麺、秋に木枯らしが吹き始めたら真っ先に食べたい鍋焼きうどん、大きなお玉ですくって飲みたくなる冬のカムジャタン……。忙しくても懐に余裕がなくても、おいしいものを求める気持ちさえあれば、いくらでも楽しめるのだと教えてくれる。

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社会の抑圧を少女視点で描く、 2018年ブッカー賞受賞作『ミルクマン』。

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『ミルクマン』アンナ・バーンズ 著 栩木玲子 訳 河出書房新社 ¥3,740(税込)

北アイルランド出身の著者が1970年代の自身の体験をもとに、政治や宗教、性別などいくつもの分断が存在する社会の息苦しさを伝えるブッカー賞受賞作。舞台は明記されないが、体制派と反体制派が対立する地域で生まれ育った18歳の少女が、身の回りで起きたことを赤裸々に語る。本を読みながら歩いていた彼女はミルクマンと呼ばれる男から声をかけられた。男はたびたび少女の前に現れ、新たな視点を投げかける。少女の独白を、時代を超えた普遍的なテーマに昇華した筆力が見事。

北欧の人気ブロガーがつくった、心地よい部屋づくりの教科書『北欧式インテリア・スタイリングの法則』。

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『北欧式インテリア・スタイリングの法則』フリーダ・ラムステッド 著 久山葉子/机 宏典 訳 フィルムアート社 ¥2,640(税込)

世界がゆらいでいる時こそ「『秩序と枠組み』をキープすることが特に大事」。そう述べるのはスウェーデンのインテリアデザイナーでスタイリストのフリーダ・ラムステッド。北欧一のインテリアブロガーとしても知られ、フォロワーは15万人を超える。

その彼女が、一般読者に向けたインテリアの基礎知識の本を探し求めてきたという経験を踏まえ、「プロが直感と呼ぶものを、具体的で実用的なルールやテクニックに翻訳」したのが本書だ。2019年にスウェーデンで発行されると、瞬く間に話題となった。

文字中心の2色刷りで、写真はなく図解はイラストのみ。なんとも潔いレイアウトだが、家具やスタイルの好みに関係なく、誰でも活用できる部屋づくりのヒントや家の印象をがらりと変える小さなコツが詰まっている。

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パンクの女王パティ・スミスが、心の軌跡を綴る回顧録。

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『Мトレイン』 パティ・スミス 著 管 啓次郎 訳 河出書房新社 ¥2,860(税込)

2007年にロックの殿堂入りしたミュージシャンで「パンクの女王」と称され、詩人、写真家としても活躍するパティ・スミス。彼女が過去を振り返り、自らの内面を洗練された筆致で綴る。カフェをやりたいと夢見た1970年代。古い夢に回帰させてくれた村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』を空港のトイレに置き忘れてしまったこと。刑事ドラマを観たくなるのはどんな気分の時か……。『Mトレイン』のMはMind(心)を意味する。彼女の心の軌跡を旅するような気分になる回顧録だ。

人の愚行が害悪をもたらした、 衝撃的な7つの科学的事例。

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『禍いの科学 正義が愚行に変わるとき』ポール・A・オフィット 著 関谷冬華 訳 大沢基保 日本語版監修 日経ナショナル ジオグラフィック社 ¥2,200(税込)

科学の分野は、人間が知識や経験を蓄積することで進化し続けている。その科学に対する信頼に冷や水を浴びせるのが本書だ。35年間にわたりワクチンの研究を続け、科学の力と限界を知る著者は、人間が運用を間違えたために利益よりも遥かに多くの害悪がもたらされた7つの科学的事例を紹介する。内容はまさに驚くべきものだ。

たとえばマーガリンはバターの代用品として生まれたが、それはアメリカ人最大の死因である心臓病が、脂肪やコレステロールの少ない食生活に移行することで回避できるというもくろみからであった。安価なこともあり大ヒットしたが、心臓病の発症率がさらに上昇を続けたのは、マーガリンには動物性脂肪よりもはるかに有害なトランス脂肪酸が含まれていたからだ。しかし消費者がトランス脂肪酸の危険性を認識できるようになったのは21世紀になってからだった。

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動植物を飼いならした結果、ヒトも家畜化している⁉

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『飼いならす──世界を変えた10種の動植物』 アリス・ロバーツ 著 斉藤隆央 訳 明石書店 ¥2,750(税込)

人間は動物を飼育し植物を栽培することで、より効率的に食糧として利用できるようにした。人類学者の著者は、イヌやニワトリ、コムギなど10種類の動植物を例に、その過程でなにが起きたかを解説。乳牛は産乳量が増え、コムギは粒が大きくなったが、動植物をある型にはめれば種は多様性を失い脆弱になる。衝撃的なのは、ヒトも家畜化しているという指摘だ。社会性を身に付け、攻撃性が低くなったヒトの未来を、改めて問いかける。

エベレスト登頂中に滑落死した、 若き登山家の心の空洞。

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『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』 河野 啓 著 集英社 ¥1,760(税込)

エベレスト登頂に8度目の挑戦中、35歳で滑落死した登山家の栗城史多(くりきのぶかず)。凍傷で指9本を失ってからも「夢は叶う」と言い続けた。映像ディレクターの著者はまず、彼が目指した7大陸単独無酸素登頂の欺瞞を明かす。彼の時間の多くはスポンサー獲得のための営業や講演などが占めていた。登山のネット中継にもこだわったが、彼をそこまで駆り立てたのはなんだったのか。丹念な取材で登山家の心の空洞を解き明かしていく。

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西洋絵画で描かれてきた、 危険な香りのモチーフを解説。

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『背徳の西洋美術史 名画に描かれた背徳と官能の秘密』池上英洋/青野尚子 著 エムディエヌコーポレーション ¥1,980(税込)

西洋美術には、性的な表現や現代の倫理観ではタブー視される内容をモチーフにした作品が少なからずあるが、日本ではあからさまに語られない。本書では美術史家の池上英洋とアートライターとが、ポンペイの壁画に始まり近代絵画まで、不倫、売春、サディズム、少年愛、同性愛などを題材にした作品をセレクト。描かれたモデルの人物像や当時の社会状況、さらに画家の欲望にも踏み込んで解説。アートの楽しみがますます深まる一冊だ。

ギリシャの大衆音楽の世界を、巧みな表現力でマンガに昇華。

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『レベティコ 雑草の歌』ダヴィッド・プリュドム 著 原 正人 訳 サウザンブックス ¥3,300(税込)

弦楽器ブズーキの伴奏で歌うレベティコは、1920年代にトルコから強制送還されたギリシャ人が始めた音楽。本書はフランス人の著者が、レベティコを愛好する人々の姿を描いたオールカラーのマンガ作品だ。第2次世界大戦前の1936年、ギリシャのアテネを舞台にしている。貧困にあえぎ、流血騒ぎが頻繁に起こる当時の日常に、レベティコはすっかり溶け込んでいた。街角やナイトクラブで、演者と聴く人が等しく演奏を楽しんでいる描写からは、物悲しい旋律が聴こえてきそうだ。

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コロナ禍の対応でも注目される、 台湾のIT大臣を徹底解剖。

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『Au オードリー・タン 天才IT相7つの顔』 アイリス・チュウ/鄭 仲嵐 著 文藝春秋 ¥1,540(税込)

新型コロナウイルス発生時、台湾の素早い対応の一端を担ったのがIT大臣のオードリー・タンだ。本書では、タンが指揮を執りデジタル技術を駆使してマスクの実名制販売を実行し、マスク不足解消に一役買った事例を紹介。さらに天才児としての学童期の苦悩や24歳での性転換、才能を自分のためではなく社会のために活かしてきたキャリアを明かす。本人へのインタビューも掲載され、理想を掲げ、合理的に行動する姿勢がよくわかる。

重要事項は占いやまじないで決められる!?  ミャンマー政治の謎に迫る。

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『黒魔術がひそむ国 ミャンマー政治の舞台裏』春日孝之 著 河出書房新社 ¥2,200(税込)

新聞記者としてインド、パキスタン、イラン、タイの現地支局を経て2011年から3年間、ミャンマー最大の都市ヤンゴンに赴任した著者による、ミャンマー政治のルポ。これまで経験したどの国よりもミャンマーでは情報統制が厳しく、取材活動が円滑に進まなかったと打ち明ける。

たとえばテイン・セイン元大統領の生年月日が、誰に聞いてもわからない。大統領府が明らかにしていないのだ。取材した情報省の幹部は、ミャンマーの政治指導者の誕生日はトップシークレットだと語った。それはなぜか。黒魔術で、誕生日をもとに呪いをかけられることを恐れているからだ。

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多国籍タウンへと変貌した、 新大久保のリアルな実態に迫るルポルタージュ

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『ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く』室橋裕和 著 辰巳出版 ¥1,760(税込)

コリアンタウンとして知られてきた東京・新大久保だが、近年はベトナム人やミャンマー人、ネパール人、イスラム系住民らも急増、多国籍タウンへと変貌を遂げた。人口の35%を外国人が占め、新宿区立大久保図書館では23カ国の言語の書籍を扱うという。アジアの文化に詳しい著者は、この街で暮らしながら探索を続け、国籍や年齢、居住年数の異なる膨大な人にインタビュー。彼らのリアルな声とともに生活やビジネスの実態に迫る。