本来、長生きは、おめでたいことのはずだ。ところが人生100年時代のいまは、「長生き=リスク」と認識されている。長生きリスクとは、長生きすることによって定年後の生活費や医療費、介護費用などの負担で老後の資金が足りなくなり、生活が経済的に困窮する事態のことだ。
日本人の平均寿命は以前と比べて大幅にのびている。1990年の平均寿命は男性75.92歳、女性81.90歳だった。それに対して2020年の平均寿命は男性が81.64歳、女性は87.74歳だった。1990年と比較すると男性で5.72歳、女性で5.84歳のびている。コロナ禍でも過去最高を更新して男女ともに約6歳のびているのだ。特に女性の平均寿命は世界一だ。「長い老後へのお金がない」など、長生きを避けたいという意見も増えているのが現状だ。長生きリスクを考えると、老後の生活が辛いものと感じてしまう。長生きリスクを軽減するための3つの備えを紹介しよう。
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長生きリスクへの備えその1
→公的年金を繰り下げ受給する
2022年の4月から年金の繰下げ上限年齢が75歳に拡大されることをご存じだろうか。繰上げの上限は60歳と変わらないので受給開始期間は、15年間選べるようになるのだ。ちなみに厚生年金の加入可能年齢は70歳までだから、ギリギリまで仕事を続ければ年金も増える。
年金を繰下げするメリットは、なんといっても増加率だ。1ヶ月あたり0.7%の増額が適用される。2022年の改正も同様に0.7%増額される。対象者は、2022年4月1日以降に70歳に到達する方(昭和27年4月2日以降に生まれ)となる。繰下げ受給をするとどのくらいの増加率になるのかは、下記を参考にして欲しい。
・年齢別の増額率
70歳0ヵ月~70歳11ヵ月42.0%~49.7%
71歳0ヵ月~71歳11ヵ月50.4%~58.1%
72歳0ヵ月~72歳11ヵ月58.8%~66.5%
73歳0ヵ月~73歳11ヵ月67.2%~74.9%
74歳0ヵ月~74歳11ヵ月75.6%~83.3%
75歳0ヵ月~84.0%
仮に70万円の年金を75歳まで繰下げると123.8万円になる。この増加率は魅力的だ。
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繰下げ受給すると年金は増えるけれど注意点は?
また、2022年4月からは、繰上げ受給の減額が0.5%から0.4%に変更される。はやく年金を受給した方にもメリットのある改正なのだ。注意して欲しい点は、繰上げ受給は老齢基礎年金と老齢厚生年金を同時にする必要があるということ。一方繰下げ受給の場合は、老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰下げできる点だ。
申し出時の年齢を遅らせれば遅らせるほど増加率が上がるので年金額は増えていく。もちろん年金額がいくら増えても亡くなってしまったら受給できない(ただし老齢厚生年金は、遺族年金としてパートナーには支払われる)。人の寿命は予想できないので必ず繰下げ受給が良いとは言えない。今ある資産と今後の支出を考えて判断するといいだろう。参考までに日本人の健康寿命は、男性で72.14歳、女性で74.79歳だ。健康で働ける期間がどのくらいなのかも考慮したい。
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長生きリスクへの備えその2
→健康寿命をのばすことを意識する
最初の緊急事態宣言の頃、いつも長蛇の列だった皮膚科の待合室がガラーンとしていた。コロナの院内感染を恐れる方が多く、受診者が少なくなっていたのだ。私の顧客でも、医療事務をしていたがコロナ禍でリストラにあった方がいる。緊急事態宣言中は、本当に多くの方が家の中に引きこもっていたのだと感じた。緊急事態宣言中はしかたがないことだが、閉じこもりは心身の健康に良くない。「健康寿命」をのばすためにも社会に関わることが大事だ。
筆者は40~50代から、会社以外の人脈を作っておくことが大切だと感じている。会社の中の人間関係だけでは退職したら、それっきりだ。会社以外の友人と会える場所があるといい。人と会うことで、移動したり歩いたり体も動かすし、友人と食事することも大切だ。食事をひとりで食べていると摂取する食品の数が少なくなりがちになるからだ。友人と会食することで食事中の会話も楽しむことができるのも健康に良いことだ。健康寿命をのばすことが一番の節約になる。
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健康でいれば1,600万円もお得?
老後の医療費と介護費用をどのくらい準備したらいいのか? 老後の医療費として200~400万円は用意しておくと安心だろう。筆者は医療保険よりも預貯金で準備することをお勧めする。なぜなら、医療保険がおりない入院や手術もあるからだ。筆者も先日入院をして15万円くらい費用がかかったが、医療保険からの給付はなかった。そもそも病気ではなく、陽性のポリープを除去したからだ。
医療費だけでなく介護費用についても考察しよう。生命保険文化センターの調査によると一時費用の介護費用は、平均で69万円、介護費用の月額平均は、7.8万円でその介護期間の平均は、54.5ヶ月だ。計算すると7.8万円×54.5万円で425.1万円に一時費用69万円を足すと494.1万円になる。
医療費と介護費用で、700万円から900万円程度準備しているといいだろう。ただしこれは1人分だ。夫婦ならば2人分で1,600万円となる。もちろん、ぴんぴんコロリで亡くなれば、この資金は必要ないということだ。筆者は子どもにお金を残すことは全く考えていないのだが、医療・介護費用は準備しておいて使わなかったら、そのくらいの相続はあってもいいかと思う。
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長生きリスクへの備えその3
→投資の基本である長期投資をする
長期投資は、投資の基本だ。長期投資のメリットとして最も高いのが「複利効果」を活かせることだ。複利とは、元本だけでなくその利子にも利子がつく状態のことをいう。雪だるまを作る時、くっついた雪の上にさらに雪を重ねて作るだろう。そのイメージで利子がさらなる利子を呼んでくる状態なのだ。株価の上昇が続いている時に運用で得た利益をそのままさらに運用に回せれば、どんどんお金が増えていく。そして長期間になればなるほど、その効果は高まりお金が増えるのだ。最初は少ない資金でも、20年30年と続けると雪だるまを作る時のように転がせば転がすほど大きくなっていく。
ちにみに銀行の普通預金は「単利」だ。もともとの元本に対して利子がつく状態で、これではお金が増えるスピードはとても遅い。金融庁の「資産運用シミュレーション」は、視覚的にも分かりやすいので是非、いろいろシミュレーションしてみて欲しい。
ただし注意して欲しいことは、「長期投資=失敗しない」と、いうことではない。長期投資でも選んだ銘柄が良くなければ元本割れすることもある。銘柄の選び方、そしてひとつの資産に集中しないなど注意点は、いくつかある。最もいけないのは、ランキングの上位で選ぶなど自分で考えずに投資してしまうことだ。まずは、何の目的で投資をするのか? そして目的にあった銘柄なのかを調べてみよう。
【執筆者】
川畑明美●ファイナンシャルプランナー 「私立中学に行きたいと」子どもに言われてから、お金に向き合い赤字家計からたった6年で2000万円を貯蓄した経験をもとに家計管理と資産運用を教えている。HP:https://www.akemikawabata.com/