<日本×台湾 クリエイター未来予報> VOL.5 曾国宏(Sunset Rollercoaster) ✕ MOODMAN(DJ/クリエイティブディレクター)

  • 文:近藤弥生子
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11/14まで開催された台湾ナウのニューメディアアート「バーチャル劇場:三魂の途」。曾国宏(ツェン・グゥオホン)は劇中の音楽を提供した。

日本と台湾。各ジャンルに精通するクリエイターそれぞれが考えるクリエイティブのいまと、未来のクリエイティブを予想する短期連載<日本×台湾クリエイター未来予報>。

最終回となる第五回は、台湾の人気バンド「Sunset Rollercoaster」のギターボーカルであり、この秋に開催された「Taiwan NOW」の『バーチャル劇場:三魂の途』で作中音楽を提供した曾国宏(ツェン・グゥオホン)と、DJとして80年代末から日本の音楽シーンを見つめてきたMOODMANをゲストに迎え、「音楽」をテーマにクリエイションのいまと未来について語ってもらった。

<音/音楽シーン>の未来予報

2030年の日本と台湾では、音楽を始めとするコンテンツは国境を越えてCo-Write, Co-Creationすることが当たり前になっている。若い人たちを中心に、オンラインセッションツールやバーチャル空間を通じた繋がりで文化交流を行い、そこから新しい音楽や映像、3D作品を生み出している。さらにオンラインの繋がりだけで共作をおこなってきた日台の音楽グループが、グラミー賞を受賞する。

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楽曲作りはオンラインだけで完結できます。それでも自分にとって揺るぎないのは、音楽を作る過程や聴く場所で人と人が感動の化学反応を生み出すために、リアルな場が必要だということです。
――曾国宏(Sunset Rollercoaster)

いままさに日本のバンド「never young beach」や、「Yogee New Waves」と新曲を制作しています。コロナ禍で日本には行けませんが、オンラインミーティングのツールや、チャットアプリでコミュニケーションを重ねています。(「never young beach」の安部)勇磨さんはとても面白い方で、よくセルフィーを撮って送り合っています。

このインタビューを受けているいまも、ツアーのために中国大陸にいますが、一昨日にタイのミュージシャンとのコラボを終えたばかりです。楽曲作りがオンラインだけで完結するというのは、いまでもまったく問題なくできますね。制作コストを下げることもできますし、時にはリアルな現場のオプションとして、プラスの働きをしてくれます。

それでも自分にとって揺るぎないのは、音楽を作る過程やそれを聴く場所で、人と人が感動の化学反応を生み出すためには、リアルな場が必要だということです。だから私は音楽制作の過程でも、最後の収録だけでもいいから一度は会いたいですね。そして効率が良くなった分、浮いた時間で友情を深めたい。以前、(「Yogee New Waves」の角舘)健悟さんが渋谷の焼肉屋さんに連れて行ってくれたんですが、いまでもあの味が忘れられません。焼肉を食べてお酒を飲む体験は、インターネット上ではできませんよね。

2016年発表の3曲入りEP『Jinji Kikko』。そのなかの1曲『My Jinji』のMVは2020年2月に発表され、YouTubeでは120万回再生を記録。彼らの代表曲と呼ばれるようになった。

リアルな場所で制作した音楽やライブには希少価値が付き、オンラインツールを使える人が増えたことで、プロとアマチュアの境界線が曖昧になり、新しい才能が生まれていく。
――MOODMAN

私も同じです。形になるものを作る場合、少なくともフィニッシュワークは対面で行った方が良いというのが現時点での感想です。制作作業という点では、実は音楽よりも映像の制作機会が多いのですが、もともとドライなタイプなので(笑)、コロナ禍でも対面にこだわらず、そこまで支障なく制作を続けてきました。その結果、オンライン化が進んだとはいえ環境は一人ひとり違うし、可能であれば仕上げは同時に享受した方がブレがないな、と改めて思っています。

世代や制作環境、つくる音楽の種類によってはまったく会わなくても大丈夫というアーティストもいると思うし、実際に良い作品も生まれています。ただ、オーケストラやブラスバンドのように、“集まらないとできない音楽”というか、バラバラに録っても成り立つけど「それで良いんだっけ?」みたいな音楽もありますよね。

コロナ禍でリアルな体験が難しくなってきましたが、その結果としてリアルな場で作り上げる音楽やライブも希少なものとして価値が上がっています。アナログ的なモノや体験の価値が世界中で上がっているのもその流れかと思います。その一方で、オンラインが急速に進化したことで、新たな音楽の場所が創出されたのも事実です。ツールを使いこなせる人の総数が作る側だけでなく、見る側でも増えていることは、新しい才能が発掘される機会が増えていくこととイコールだと思っています。プロフェッショナルとアマチュアの境界線も、良い意味でより曖昧になっていくと思います。

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政府の支援のもと、100回を超える海外ツアーや海外とのコラボレーションを実現することができました。いまは日本も含め五カ国のミュージシャンらと共同で7インチレコードを制作しています。
――曾国宏(Sunset Rollercoaster)

「Sunset Rollercoaster」は、台湾でレコード会社と契約していません。ファンとの交流からマーケティング、ツアーの手配、版権の管理まで、自分たちで何でもやります。レコード会社も、後から自分たちで設立しました。

台湾政府も応援してくれていて、これまでに3種類の補助金の支給を受けています。一つは収録に対する補助金、もう一つは海外ツアーを含むマーケティングの補助で、そのおかげで2019年にはワールドツアー100回目を達成しています。もっとも規模が大きい補助は海外アーティストとのコラボレーションを目的としたもので、それを利用して12インチの両面レコードを5枚制作しました。A面には自分たち「Sunset Rollercoaster」やそれに関連した音楽、B面には日本の「never young beach」のほか、LAやシカゴ、タイ、韓国など、海外のミュージシャンたちの音楽が収録されます。すべての音楽のMVも制作しました。

私たちの音楽は英語で歌うものが多いので、台湾をベースにしながら、海外に出ていくことが必要です。海外に出ることで刺激も受けますし、ほかの国の音楽業界がどうなっているかを知ることもできます。補助金に頼るということではなく、競争力を上げられるという意味で、バンドの成長を大きく後押ししてくれました。

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台湾政府の補助金で制作した12インチのアナログレコード。

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Bossa Nova 芭莎諾瓦 (12-inch LP).jpeg

これまでアーカイブされてこなかった世界中の音楽が発掘されて、そこからミクスチャーが起こる。それはインターネットを選択した人類が引き出した、新しい音楽の楽しみ方なのかもしれません。
――MOODMAN

音楽はそもそもデータ量が映像などと比べて小さいですから、かなり早い時期からオンライン上で完結する制作が行われてきました。Bandcampを筆頭に、いまや個人レベルで音楽を世界へ発表できるプラットフォームがたくさんありますし、私自身もよく海外のアーティストからダイレクトに作品を購入しています。昨年、ごく身近で起こった話しでいうと、浅野達彦さんという尊敬する日本人ギタリストがいるのですが、その方のどちらかというとアンビエントな作品が、なぜか米国のトラップ系の、おそらくティーンエイジャーのラッパーのトラックに使われていたり(笑)。SNS経由で耳に届いて使用許可が来たようなんですが。

インターネットの普及のおかげで、これまで欧米中心だった音楽の世界で、アーカイブから漏れていた世界中の音楽が発掘され、そこからさまざまな化学反応が起こっています。タイポップやシティポップの発掘もその流れにあると思います。

みなさん注目していると思いますが面白いのは、たとえばアフリカのエレクトリックミュージックですよね。GQOMとかアマピアノなどが有名ですが、これまであまり流通してこなかった地域の新しい音楽と、その音楽が引き起こすミクスチャーには、未来を感じます。これはインターネットを選択した人類が引き出した新しい音楽の楽しみ方なのかもしれません。あとは、国際的な著作権の問題ですよね。その点がよりクリアになれば、オンライン上のさまざまなアーカイブを国境もエスニシティも関係なく、フラットに楽しめるようになる。とてもいいことだと思います。

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「Taiwan NOW」の作品への楽曲提供は、自分にとって大きな挑戦。自己認識が築かれる過程を描く、普段の「Sunset Rollercoaster」とはまったく違う音楽をつくりました。
――曾国宏(Sunset Rollercoaster)

今回、「Taiwan NOW」では『バーチャル劇場:三魂の途』の作中音楽を担当しました。日本の現代アートの美術作家、やなぎみわさんが書かれた台本を読んで、LA在住のアーティスト張洪泰(アレックス・チャン・ホーンタイ)を誘い、共同で音楽と映像を制作しました。

これまでミュージシャン同士のコラボレーションは数多く経験してきましたが、領域を超えたものは初めてでしたし、バーチャル環境に音楽を付けるということで、ギターボーカルとは異なる大きな挑戦でした。私は美大の大学院でVRなどのニューメディアを専攻していましたが、実際にVR関連の作品をつくったのは今回が初めてです。

やなぎみわさんの台本の物語性は完璧で、自己認識がテーマになっていました。私たちはそれが築かれる過程(歴史だったり、教育だったり)を想起させるよう隠喩的な表現を使うなど、普段の「Sunset Rollercoaster」とはまったく違う音楽をつくりました。

ほかにも、コロナで時間ができたことをきっかけに、色々なソフトをさらにマスターすべく、練習を重ねています。これまではバンドのギターボーカルだけが自分の活動でしたが、今後はプロデューサーなどの役割にも挑戦していきたいと思っています。

バーチャル劇場《三魂の途》トレーラー映像。

2021年12月25日にTaiwan NOW 高雄会場の衛武営国家芸術文化中心で上演される、やなぎみわによる「アフロディーテ 〜阿婆蘭(アポーラン)〜」トレーラー映像

社会が前進していくためには「音楽的な思考」が必要とされてきていることを感じます。領域を超えたコラボレーションが生まれていくのはごく自然な流れだと思いますね。
――MOODMAN

日本に住んでいる自分と海外に住んでいる人の「知っているもの/知らないもの」は当然、違いますよね。インターネット以降、ある都市の、ある地域の、これまで知られていなかった音楽が、一気に、フラットにアーカイブされるという現象がたびたび起きています。私自身もここ20年ぐらいでしょうか、なんだかすごい音楽が発掘されたな、と思うことがしばしばありました。アーカイブされた音楽は、まったく新しい相互理解を生むし、いままでになかったコラボレーションが生まれるきっかけにもなっています。

これはインターネットの本質的な良い面でもありますが、同時に格差や差別が生まれるネガティブな状況を生んでしまう面もある。そういう意味で、音楽が社会に与える影響は大きいし、ミュージシャンがソーシャルに動くケースも世界各地で増えています。「Taiwan NOW」の作品のように領域を超えたコラボレーションが生まれていくのはごく自然なことだと思いますね。LGBTQQIAAPPO2Sなどの意識変容も、音楽業界はかなり早くから動きが起こっています。

世界最大の広告賞「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」に2016年、エンターテインメントライオンズ・フォー・ミュージック部門という音楽などを網羅した部門が新設されました。私は第一回目の審査員を務めたのですが、その時に感じたのは、社会が前進していくために「音楽的な思考」が必要とされはじめているということでした。さまざまな国の音楽をソーシャルな視点から聴いたり考えたりした、面白い経験でした。

日本各地の町工場でみつけた音と映像を再構築し、レーベル化するプロジェクト「INDUSTRIAL JP」。MOODMANはクリエイティブディレクター兼サウンドディレクターを務めている。最新作はLEDを使ったサインなどを制作する「オミノ八潮工場」とハウスミュージックのDJ、TAKECHAのコラボレーション。

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藝術家:曾國宏(クォホーン・ツェン).jpg

曾国宏(ツェン・グゥオホン)/1987年台北生まれ。5人組シティポップ・バンド落日飛車(サンセット・ローラーコースター)のボーカリスト・ギタリストとして脚光を浴びる。一時活動を中止し、さまざまな音楽活動の場を広げたツェンは2015年、再び同バンドを再開。世界中で高い評価を受け、代表曲『My Jinji』はYouTubeの再生回数120万回以上を超えている。今後は日本、タイ、ロサンゼルスのミュージシャンとコラボした5枚の7インチレコードをリリース予定。
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MOODMAN/DJ・クリエイティブディレクター。1970年、東京都生まれ。80年代末からDJとして活躍。90年代より並行して広告業に従事する。ライブストリーミングスタジオDOMMUNEにて「おはようムードミューン」を不定期実験配信中。町工場の音楽レーベル「INDUSTRIAL JP」では2021年春より新プロジェクトを始動。Penオリジナルドラマ「光石研の東京古着日和」では音楽監督を務める。Pen Onlineでは、日々のアナログ体験を綴った「Analog Fieldwork」が好評連載中。

Taiwan NOW(台湾ナウ)

台湾・高雄会場(12月25日予定):衛武営国家芸術文化中心
※東京会場(KITTE丸の内) / バーチャル会場は既に会期終了
https://www.taiwannow.org/

Taiwan Nowの公式SNSで日本と台湾の{あるかもしれない}未来の予報を発信中
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Twitter @taiwan_now_pr


※開催日時・内容などは変更となる場合があります。事前の確認をお薦めします。

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