Pen クリエイター・アワード、2021年の受賞者がいよいよ発表! 今年は外部から審査員を招き、7組の受賞者が決定。さらに審査員それぞれの個人賞で6組が選ばれた。CREATOR AWARDS 2021特設サイトはこちら。
福祉実験ユニット「ヘラルボニー」の代表を務める松田崇弥と文登は双子の兄弟だ。4歳年上に、重度の知的障がいを伴う自閉症の兄、翔太がいる。幼い頃から兄と暮らしていたため、ふたりとも福祉への理解は高かった。しかし崇弥が社会人2年目の夏、岩手に帰郷した際、母親に誘われ花巻の「るんびにい美術館」を訪れ、大きな衝撃を受ける。
「そこはアール・ブリュットに特化した美術館でした。実はアウトサイダー・アートについてはよく知らずに、単純に“これはカッコいい!”と感じたんです。同時にこうした作品は、支援や社会貢献的な側面から購入されるケースがほとんどということも知りました。であればむしろ素直に、素敵だという思いから購買行動が生まれるようなブランドを始められればと思い、文登に電話をしたのがヘラルボニーの始まりです」と、崇弥は語る。
2016年、崇弥は会社員として働きながら、建設会社に勤める文登とともに、MUKUというブランドを副業で立ち上げた。まず銀座のネクタイメーカーに相談し、障がいのあるアーティストの作品をモチーフにネクタイをつくった。文登は当時をこう振り返る。
「障がい=劣っているという先入観をいかに“違い”や“個性”に変換していけるか。ブランドを通してそれをどう表現し、どのように社会とつながっていくか。そうしたことへの興味が原動力でした」
副業として続けていくと、徐々に意識は変わってくる。重度の障がいのある作家に個展を依頼し、半年から1年に一度のペースでプレッシャーをかけてまで制作をさせることは、果たして健全なのだろうか? そのようなサイクルを設けなくとも、作家たちが自発的に生み出す素晴らしい作品があるのだから、その著作権をきちんと運用すれば、権利料が作家の収入となるビジネスモデルが成立するのではないか――。
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ファンが増えることで、社会とのつながりは深まる
そんな思いから、ふたりが会社を立ち上げたのは18年。兄の翔太が複数の自由帳に書き続けていた「ヘラルボニー」という不思議な言葉を社名にした。意味をもたない言葉だが、そこから新たな価値を創出できるはずだという信念を込めて。
「僕らが大切にしているのは、作家ファーストで事業を行うこと。作家が幸せになることがいちばん大事で、さらにその親御さんや福祉施設まで一緒に幸せにできれば、それが自分たちにとっての喜びであり、会社のバリューだと考えています」と崇弥。
多様性に注目が集まっているいまの時代にも後押しされ、ヘラルボニーが著作権管理をする作品は、さまざまなアイテムに展開されている。文登は活動の反響をこう語る。
「ヘラルボニーのアイテムを身に着けた人同士が会うと、障がいへのイメージを一緒に変えていく仲間のような感覚を共有できる。そうした支持を力に変えて、もっと認知度を高めていきたいですね」
ファッションの分野に留まることなくコラボレーションの範囲を大きく広げる一方、21年4月には盛岡に自社が運営するギャラリーをオープン。10月には、東京・京橋に東京建物がオープンしたギャラリー「BAG」のこけら落としで展示も行うなど、アート界からも注目を集めている。そんな彼らが次に見つめるのは、障がいのある人たちが輝ける環境づくりだ。
「長い目での話ですが、まずはアートを通して障がいのある人のイメージを変える。そのフェーズが終了したら、彼らがありのままに生きながら、もっと社会とつながれる仕組みをつくっていきたいですね」
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OTHER WORK
初めて商品になった「アートネクタイ」
ヘラルボニーの前身であるブランド、MUKUを発足した2016年、銀座のネクタイメーカー「田屋」と提携し、シルクの織りの技術を駆使したアートネクタイを完成させた。障がいのあるアーティストの作品を純粋に素晴らしいと感じた崇弥と文登は、作品の質を下げないためにも、最高のクオリティをもつネクタイとして仕上げることにこだわった。「貯金を切り崩してでも、障がいのある作家のアートをもっとフランクに、いろいろな人に見てもらいたいと考えていました」。
雨の日も気分を彩る「アートアンブレラ」
バックサテンに色鮮やかな作品をプリントしたアートアンブレラは、持ち手からオリジナルで制作したこだわりの逸品。「大切にしているのは、作家に無理強いをしないこと。あくまで作家ファーストなので、福祉施設に対しても作家に対しても『素晴らしい作品だと思うので契約を結んでどんどん形にしましょう』というやり方は絶対にしません。作家とご家族と我々の求め合う状態が成立して初めて契約を結びます。それが結果として、プロダクトやパブリックアートなどになるのです」。
街を彩る「全日本仮囲いアートミュージアム」
建設現場の「仮囲い」を期間限定の「ミュージアム」と捉え直す、地域活性型のアートプロジェクト。2019年に渋谷、20年にJR高輪ゲートウェイ駅前で実施した。カラフルなアート作品を印刷した屋外用シートによって、建設現場の真っ白な仮囲いが華やぎ、街と人とをつなげる役割を果たした。期間終了後にはアップサイクルされ、トートバッグに生まれ変わって販売された。るんびにい美術館との共同企画によるもので、八重樫道代、小林覚、八重樫季良、高橋南、工藤みどりといった作家たちが参加した。