『「坊っちゃん」の時代』(共作:関川夏央) や『孤独のグルメ』(原作:久住昌之) 、それに『神々の山嶺』(原作:夢枕獏)といった漫画で知られ、2017年に69歳にて亡くなった谷口ジロー。60歳を超えた日のインタビューにて「何でも漫画にしてみたいと思っています。」と語った谷口は、ハードボイルドから時代劇やSF、それに現代の日常生活や動物の生態を描いた作品などを手がけ、ロングセラーとして幅広い世代を超えて支持されている。
世田谷文学館で開催中の『描くひと 谷口ジロー展』では、初期から晩年へと至る貴重な直筆原画など約300点を公開。ため息が出るほどに緻密で繊細な原画を目の当たりにしながら、谷口の約50年にわたる漫画家人生を追うことができる。また初期の劇画的な作品と『孤独のグルメ』といった後に描かれた作品にはタッチの違いが見られて、一様に緻密といえども作風に変化があることも分かる。生涯を漫画に捧げた谷口はまさに「描くひと」に他ならないが、常に新しい題材を求めていく進取の精神に富んだひとでもあった。
その谷口の漫画世界にて注目したいのが、原点の動物をモチーフとした作品だ。谷口は20歳の時に上京すると、動物漫画で知られる石川球太のアシスタントとして漫画家としての道を歩み始める。また「昭和の絵師」とも呼ばれた上村一夫の元では『動物漫画 シートン動物記』の全12巻のうち4巻を担当。初のオリジナル長編の『ブランカ』も生体を改造された軍用犬を描いた物語だった。以来、谷口は生命の象徴としての動物や、人間と動物の絆などを繰り返し作品のテーマとしているが、まさに魂を吹き込むように動物を描いていたのかもしれない。どれもが動物本来の野性味がある「生きた犬」のように見えるのだ。
1995年に発売された『歩くひと』のフランス語版が熱烈なファンを獲得し、『ブランカ』や『遥かな町へ』などが各国語に翻訳されると、谷口は「Jiro Taniguchi」として世界で愛読者を増やしていく。そして2000年代には海外でさらに人気が高まり、イタリアやドイツ、韓国などの漫画祭にて次々と賞を受賞していった。また中国では2018年に『孤独のグルメ』が舞台化し、フランスでは『神々の山嶺』がアニメ化されて今年秋に公開されるなど、作品は亡くなった後も世界へと羽ばたいている。ラストに谷口が闘病期間中に描き、全5章のうち1章のみが完成した『光年の森』が出品されているが、森や子どもたちを淡く細やかなタッチで描いた画面を見れば見るほど、次へのさらなる展開も感じられて、早すぎる死がなんとも惜しまれてならない。---fadeinPager---
『描くひと 谷口ジロー展』
開催期間:2021年10月16日(土)~2022年2月27日(日)
開催場所:世田谷文学館 2階展示室
東京都世田谷区南烏山1‐10‐10
TEL:03-5374-9111
開館時間:10時~18時 ※展覧会入場、ミュージアムショップの営業は17時半まで。
休館日:月(祝日の場合開館し、翌平日休館)、年末年始(12/29〜1/3)
入場料:一般¥900(税込)
※臨時休館や展覧会会期の変更、また入場制限などが行われる場合があります。事前にお確かめください。
https://www.setabun.or.jp