映画『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』が暴く、隠蔽された水質汚染の真実

  • 文:上村真徹
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洋画・邦画ともに注目作品の多い12月。環境汚染問題をめぐる弁護士と巨大企業との闘いを描いた実録映画『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』の見どころやあらすじを紹介する。

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【あらすじ】巨大企業の不正と環境汚染を暴き出したのは、ひとりの弁護士だった

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デュポン社による環境汚染に苦しめられる住民たちを救うため、弁護士ビロット(中央)は7万人を原告とする一大集団訴訟に踏みきる。© 2021 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.

2016年1月6日のニューヨーク・タイムズ紙に掲載された1本の記事。そこには、米国ウェストバージニア州を蝕む環境汚染問題をめぐり、ひとりの弁護士が巨大企業と長年繰り広げてきた闘いの軌跡が綴られていた。その衝撃の内容に心を揺さぶられ映画化を決意したのが、『アベンジャーズ』シリーズのハルク役でも知られる実力派俳優マーク・ラファロ。彼が主演とプロデュースを兼任し製作された実録ドラマ『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』が、12月17日から劇場公開される。

1998年、オハイオ州の名門法律事務所に勤める弁護士ロブ・ビロットは、ウェストバージニア州パーカーズバーグで農場を営むウィルバー・テナントから調査依頼を受ける。大手化学企業デュポン社の工場廃棄物によって土地を汚され、190頭もの牛を病死させられたというのだ。普段は企業側の弁護を務めているビロットは依頼を一度は断るが、農場での驚くべき実態を目の当たりにし、訴訟を起こすことを決意する。

廃棄物に関する開示資料を入手し、“PFOA”という謎めいたワードを不審に思ったビロットは、もしかするとそれは環境保護庁の規制外の化学物質ではないかと推測。事態の深刻さに気づき粘り強く調査を進めた結果、デュポン社が発ガン性のある有害物質の危険性を40年間も隠蔽し、その物質を大気中や土壌に垂れ流してきた事実を探り当てる。そしてビロットは7万人の住民を原告団とする一大集団訴訟に踏みきるが、強大な企業との法廷闘争はロブを次第に追い詰めていく。

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【キャスト&スタッフ】マーク・ラファロの信念に共鳴した鬼才監督や実力派俳優たちが集結

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ビロットの孤独な戦いを見守ってきた上司タープ(左)は「デュポンをやっつけろ!」とハッパをかける。© 2021 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.

俳優であり環境保護主義者でもあるラファロにとって、ニューヨーク・タイムズ紙に掲載されたロブ・ビロットの記事との出会いは必然的な運命だった。ビロットの闘いを映画化することは、自らの仕事と環境に対する熱意の両方を融合できるものだと感じたラファロは、記事では説明されていない部分のヒアリングを兼ねてビロット本人に取材を敢行。映画のストーリーに必要な肉付けを進めると共に、自ら演じる主人公ビロットの役作りの参考とし、スーパーヒーローでも聖人でもない生身の人間として共感できるキャラクター像を構築した。

ラファロが本作のメガホンを託したのは、『エデンより彼方に』『キャロル』などメロドラマの名手として知られるトッド・ヘインズ監督。「実は内部告発もののひそかなファンだった」というヘインズは、冷静かつ客観的な描写で真実を浮き彫りにしていく卓越した語り口で、新境地となる社会派リーガル・ドラマを力強く描き出している。さらに、ラファロを脇から盛り立てるキャストにもビッグネームが集結。『レ・ミゼラブル』のオスカー女優アン・ハサウェイがビロットの最大の理解者である妻サラに扮し、同じく『ミスティック・リバー』のオスカー俳優ティム・ロビンスがビロットの上司タープを威厳たっぷりに熱演。さらに『インデペンデンス・デイ』のビル・プルマンが、ビロットの弁護団に加わるベテラン弁護士役でいぶし銀の存在感を見せている。

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【見どころ】単純明快な勧善懲悪にとどまらない、現実の苦さも内包したリアルな実録ドラマ

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巨大企業との過酷な闘いに苦しむビロットを、妻サラ(右)は献身的に支える。© 2021 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.

企業や政府といった巨大権力の不正を告発する映画は、これまでも『大統領の陰謀』『インサイダー』など数多くの名作が作られてきた。こうした内部告発ものを個人的に好んでいるヘインズ監督は、本作で「事実に忠実であること。登場人物たちや彼らの経験の特異性、個性に敬意を払うこと。それでいて観客がきちんとストーリーを追えて、引き込まれる作品にすること」を念頭に置いたという。そうした的確かつ真摯なアプローチの甲斐あって、本作は真実の重みと苦さを感じさせると同時に、闇の中の真実をひたむきに追求するロブの信念と苦悩をありのまま伝え、見る者の心を激しく揺さぶる。

こうしたアプローチに徹していたのは監督だけではない。ラファロはビロットがたどった法律の曲がりくねった道程を、くまなく理解し、仕事と家族を大きな危険にさらしてまでデュポン社に立ち向かった彼の行動規範と信念を体現。また、ロブの妻サラを演じたハサウェイも「こういうダビデとゴリアテ的な物語に私たちが期待するのは、最後にゴリアテが倒れること。でも、そんな簡単な物語ではなかった。このストーリーはもっと現実を、そして私たち全員に関わる何かを映し出している」と語っているが、これがまさに本作の特徴を代弁している。悪を糾弾する正義漢は完全無欠&不屈のヒーローではなく、巨大権力を相手に正義を貫くには代償も伴う…そうした真理から目を背けないことによって本作は、単純明快な勧善懲悪にとどまらない重厚かつ真実味のある社会派ドラマに仕上がっている。

世界ではSDGsへの注目と共に環境保全意識が年々高まっている。そんないまだからこそ、強大な権力と資金力を誇る巨大企業の環境汚染を果敢に告発した弁護士の気高き闘いを心に刻みたい。

『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』

監督/トッド・ヘインズ
出演/マーク・ラファロ、アン・ハサウェイほか 2019年 アメリカ映画
2時間6分 12月17日(金)TOHOシネマズ シャンテほかにて公開

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