全6回にわたり、北海道砂川市で生まれたSHIROの街づくりにフォーカスする企画がスタート。1回目は、立役者である3人にプロジェクトの経緯を訊いた。
世界中から人が集まり感動体験を持ち帰る、そんな街をつくりたい
酒粕や昆布など自然素材を活かした化粧品で国内外にファンをもつSHIRO(シロ)。2009年、北海道・砂川市に誕生したこのブランドは、生産者に直接会い、その素材の力を最大限引き出しながら、自分たちが本当に使いたい製品だけを生み出してきた。そんなシロが誕生の地で始めたのが「みんなのすながわプロジェクト」だ。
22年春に現工場近くの小学校跡地に新工場を建設することを決めた会長の今井浩恵は、この場所を製造施設のみならず地域住民が交流し、砂川を訪れる人にとっても感動できる魅力的な場所にしたいと考えた。「砂川はSHIROが生まれた土地であり、私も人生の多くの時間を過ごした場所。そこに住み頑張っている人たちと一緒に、目に見える形で持続可能な街づくりを実現したい」と語る今井が声をかけたのは、砂川市議会議員の多比良和伸だ。砂川生まれの多比良は、祖父母の時代に石炭産業で栄えた故郷が、産業の衰退とともに人口減少に悩むさまを見てきた。
「今井さんから話を聞いた時はうれしい反面、不安でもありました。雇用を創出して人が集まるのか?企業からの発信は町全体の魅力につながるのだろうか?ところがシロには市内外の関心のある人をすべて巻き込んで具体的に進めていくパワーや行動力があった。具体案を見て、しだいにやれるという確信に変わってきました」
プロジェクトのテーマは、「わたしがつくるみんなの砂川」。シロで年働いた後、砂川中学校に勤務する望月亜希子は、自身も移住者であり、移住者の増加や教育を中心に据えた街づくりを目指す。地域の子どもたちのための職業体験イベント「すながわジャリボリー」を開催してきた経験を活かし、今回プロジェクトの副実委員長を務める。「何よりも大切なのは当事者意識。この街をつくっていくのは自分であるという思いを込めて『みんなのすながわプロジェクト』と名付けました。ここは札幌と旭川の間で交通の便がよく、自然や体験学習の環境に恵まれている。いつかは子育てといえば砂川と言われる街にしたい」と、望月は話す。
住民の声を集めて、プロジェクトが動き始める
プロジェクトの信念には、「誰も何も排除しない・みんなで作る・地産地消・育てて地元に渡す・持続可能」などが掲げられている。住む人が本当に求めている場所とは?世界に発信できる魅力とは?砂川ではそんな議論が常に行われている。「地域活性の場づくりでは子どもに目が向きがちですが、住民の声を聞いてみると、大人も居場所を求めている。都会には時間を気にせず読書やリモートワークができるカフェがありますが、砂川にはない。新工場の付帯施設には大人の居場所も混在させたい」と今井は言う。
敷地内の多目的ホールでは学びや遊び、創造体験のコンテンツも計画中だ。また、ワークショップを行う中で、コミュニティとして子育ての悩みを相談できる場所、性について考え対話する場の必要性など多様性に富んだアイデアが出た。地元住民と移住者、観光客の分断についても意見が交わされたが、改めて市民が誇りに思える場所を掘り下げることで不安は消え、多くの人が砂川に訪れることへの期待へと変化した。
「雪に閉ざされる冬のアクティビティも考えるべき」など雪国ならではの意見もあり、プロジェクトは日々、前進している。他にも砂川市の在来種を守り増やすためのプロジェクトや、バス交通網の拡充などの計画も進行中だ。
「SHIROが世界展開を進めることで、砂川をブランドのファンが世界中から訪れる場所にしたい。そして砂川から感動体験を持ち帰ってもらうためにも街全体を魅力的なものにしたいんです」と今井。誰かがやるのではなく、たくさんの〝私〞が主体的に動きつながる「みんなのすながわプロジェクト」。今後は地域住民だけでなく、全国から街づくりのプロも募る。砂川を知らなくてもシロの街づくりに興味がある、得技を活かしてゼロから形にしたい、そんな人材を募集中だ。まずは公式サイトをのぞいてほしい。
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今井浩恵(いまい・ひろえ)●1995年にシロの前身、ローレルに入社した今井。26歳で社長に就任。2009年オリジナルブランドを設立、21年に会長に。
多比良和伸(たひら・かずのぶ)●砂川市出身の現市議会議員である多比良。歯科技工士国家資格取得後、アメリカで修行し独立開業。36歳で市議会議員に当選し現在3期目。
望月亜希子(もちづき・あきこ)●2019年までシロに在職した望月は砂川市立学校の特別支援教育支援員を務めている。
みんなのすながわプロジェクトby SHIRO
https://shiro-sunagawa.jp