名作には、揺るがぬコンセプトがある。一方で時代の空気もデザインに反映してきた。今回は、ブライトリング「ナビタイマー」の足跡を通じ、愛される理由を検証しよう。
腕時計の黎明期、それまでクロノグラフ機能のスタートとストップを担うプッシュボタンはリューズと一体だったが、1915年に独立したボタンを世界で初めて開発したのが、ブライトリングだ。現在のクロノグラフモデルの礎を築いた同社が、52年に発表したのが「ナビタイマー」。まさに“計器”と呼ぶにふさわしい面持ちで、精悍な印象を漂わせる。三つ目を基本デザインとしながら、年代ごとの特色に合った意匠を備える。
またロゴの変遷によって、ブランドの歴史をたどることもできる。民間ジェット機と同じ年に登場した初代は、国際オーナーパイロット協会の公認を示すAOPAウィングロゴ。60年代中頃からは2機の飛行機が並び、クオーツショックを経た後に復活を遂げると、馴染みのあるウィングロゴへ。ネオクラシックを体現する、「B」のみを印した現在のロゴは、2018年以降のモデルに付く。
細かな意匠の違いはあれど、どの時代も変わらず共通するのがナビタイマーの象徴である航空用計算尺。GPSもレーダーもない時代ならいざ知らず、現代では実用の機会は多くない。しかし男のロマンとも言い換えられる空の旅を支えたこの機能こそが、まさにパイロットウォッチの象徴。多くの男性に愛されたデザインは、着実にいまも残る。
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1952年 ナビタイマー
腕時計型クロノグラフに、航空用計算尺を初めて搭載した初代「ナビタイマー」。1942年の「クロノマット」をベースに、視認性を高めるブラックダイヤルを採用。ベゼルを囲むビーズの数で、製造年代が区別される点も当時の特徴。国際オーナーパイロット協会会員向け製品のため、AOPAウィングロゴを記す。
1962年 ナビタイマー コスモノート
米国人宇宙飛行士、スコット・カーペンターが監修。24時間ダイヤルは、昼夜の概念がない宇宙空間できちんと昼夜の区別ができるようにするためのアイデアだ。1963年製からはシルバーのインダイヤルで、視認性を向上。
1965年 ナビタイマー
1960年代中頃に入るとロゴは2機の飛行機が並ぶ「ツインジェット」ロゴに。ベゼルは現在に通じるノコギリ状へと進化を遂げた。“パイロットに人気のクロノグラフ”として市場で認知され、多くの著名人も愛用。
1969年 ナビタイマー クロノマチック
ホイヤー・レオニダスとビューレン・ハミルトンの協力を得て開発された実験的モデル。機械式自動巻きとクロノグラフ、ふたつの機構をひとつにまとめた。二階建て式のつくりの関係でリューズは左に配置。
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1977年 ナビタイマー クォーツ LCD
クオーツショックによる事業活動の一時停止を前に、その最後期の1970年代初めにLED式デジタル表示を有するクオーツモデルを発表。写真は77年の液晶ディスプレイ(LCD)搭載モデル。ラップタイマー機能も装備。
1986年 オールド・ナビタイマー
手巻きのレマニア・ムーブメント「Cal. 1872」を搭載し、「オールド・ナビタイマー」と称して市場に再登場。ここで初めてロゴが“B+ウィング”に。写真は“縦三つ目”が特徴の1991年モデル「オールド・ナビタイマー Ⅱ」。
2011年 ナビタイマー 01
2009年に発表された、初となる自社開発製造の「キャリバー01」を搭載。デザイン面においては、クロノグラフ針は視認性をより高めるべく、先端だけでなく全体を赤に変更。またロゴがプリントからプレートに進化。
2018年 ナビタイマー B01 クロノグラフ 43
高級感あふれる鏡面仕上げのケースから、パイロットウォッチらしからぬエレガンスを感じる一本。そのつくりは、ディテールにまで見事に徹底されている。ダイヤルに描かれるロゴはポートレートロゴの変更に伴い、ここまで頑張ってきた羽を休め、クラシカルなデザインに一新。またインダイヤルの数字はなめらかなフォントになり、方向も統一して視認性を重視した。自社製ムーブメント「キャリバー01」搭載。
※この記事はPen 2021年12月号「腕時計、この一本と生きる」特集より再編集した記事です。