ブランパン「フィフティ ファゾムス」開発の背景とは? 元祖ダイバーズウォッチの軌跡

  • 編集&文:八木悠太
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名作には、揺るがぬコンセプトがある。一方で時代の空気もデザインに反映してきた。今回は、ブランパン「フィフティ ファゾムス」の足跡を通じ、愛される理由を検証しよう。

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いまでこそ、スポーツウォッチは市場の中心。だが、1953年に発表されたモダンダイバーズウォッチの元祖といえるモデル、ブランパン「フィフティ ファゾムス」が開発された当時には、スポーツウォッチという概念がなかった。商売になるかもわからないニッチなジャンル。50〜80年までCEOを務めたジャン=ジャック・フィスターの情熱がなければ、この名作は生まれなかっただろう。

開発のきっかけは、フランス海軍からの要請。コンバットダイバーと呼ばれる精鋭部隊にとって、コンパス、水深計、そして正確無比な腕時計は欠かせない道具であった。先述したように当時の市場では潜水時計のニーズはなく、どこの時計会社も消極的だったが、ダイビングを愛するフィスターだけは違った。高い防水性、水の侵入を防ぐリューズ、自動巻き、ブラックダイヤル、視認性の高い夜光マーク、経過時間を計る逆回転防止型ベゼル、耐磁設計など、彼らの要望にきちんと応えたフィフティ ファゾムスを開発した。

その機能性は海を越えた米国海軍でも正式採用され、当時のものは現在コレクターズアイテムとなっている。驚くべきはいまもそのデザインと情熱を脈々と受け継ぎつつ、新素材や技術的な解決策を駆使し、潜水時計の限界に挑戦し続けていることだ。

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1953年 フィフティ ファゾムス

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フランス海軍の依頼で1953年に誕生したダイバーズウォッチのパイオニア。黒の文字盤、自動巻き、視認性の高い数字とマーク、ロック機構付きの回転式ベゼルといったオーダーは、特殊部隊の使用が前提のディテールだ。すべてをクリアした機能美が、唯一無二のデザインにつながっている。当時の特許技術であったねじ込み式リューズの使用を避け、独自のダブルOリングで高い防水性を実現したアイデアも光る。

1957年 フィフティ ファゾムス ミルスペック

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機能性の高さから多くの軍隊に採用されたフィフティ ファゾムス。アメリカ海軍に正規納入された1957年発表の「ミルスペック」は、機能的にも見た目にも、6時位置の水密性インジケーターが特徴。ケース内に水が入ると白から赤に色を変え、時計に異常があることを警告する。

1965年 フィフティ ファゾムス ブンド ノーラディエーション

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旧西ドイツ海軍が採用したことでも知られる「フィフティファゾムスRPG1」こと「ブンドノーラディエーション」。1960年代初頭に人体に有害とされた発光塗料ラジウムの未使用をデザインで視覚的に表現した。写真はカレンダー表記の珍しい仕様。

1997年 トリロジー フィフティ ファゾムス

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一度は消えかけたDNAが、1997年に復活。高い職人技を必要とする立体的な浮き彫りベゼルが最大の特徴。当時では珍しいドーム状サファイヤクリスタル風防など、新生であることを印象づける意匠や技術が満載。

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2003年 フィフティ ファゾムス 50周年記念限定版

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2003年にはフィフティファゾムス50周年を記念して、50本限定モデルをリリースした。ファーストモデルの意匠を色濃く反映しながら、文字盤には50周年を記念したネームが入る。自動巻き「Cal.1151」を搭載。

2017年 フィフティ ファゾムス オートマティック

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2017年発表の限定モデルは、1957年にリリースされたフィフティ ファゾムス ミルスペックを彷彿させる復刻デザイン。文字盤には同様に、浸水したことを警告する水密性インジケーターを配置。ヴィンテージ感を醸し出す40.3mmという、やや小ぶりなサイズ感も人気を博した。

2020年 フィフティ ファゾムス オートマティック

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自動巻き、チタンケース&ブレスレット、ケース径45㎜、パワーリザーブ約120時間、300m防水。¥1,980,000/ブランパン ブティック銀座 TEL:03-6254-7233

2015年のオークションでブランパンが購入した、1960年代のアメリカ海軍向けタイムピースが着想源。当時は航空宇宙産業だけに確保されていたチタン製のモデルで、これをたたえてケースとブレスレットに採用したモデルを発売。力強い太めの時針と分針、先端の赤い秒針から漂うヴィンテージな佇まいにも心惹かれる。

2021年 フィフティ ファゾムス ノー ラディエーション

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自動巻き、SSケース、ケース径40.3mm、パワーリザーブ約100時間、ラバーストラップ、300m防水、世界限定500本。¥1,529,000(完売のため参考価格)/ブランパン ブティック銀座

今年登場した注目作は、6時位置のシンボルからしても、ブンド ノー ラディエーションへのオマージュであることは一目瞭然。日焼けしたようなクリーム色の夜光塗料を採用し、ヴィンテージ感を演出。

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※この記事はPen 2021年12月号「腕時計、この一本と生きる」特集より再編集した記事です。