日本の庶民・農民の服は麻だった。着古しの布を見る小展覧会が表参道で開催中

  • 写真・文:高橋一史
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11月3日(水)から30日(火)まで東京・表参道「GYRE」内ギャラリーで開催中の、麻素材にフォーカスした展覧会。


ファストファッションの服づくりに異を唱えたイギリスのドキュメンタリー映画『スローイング・ダウン・ファストファッション』のなかでも出てくる話ですが、たいていの人は着ている服の素材を知らないもの。
枕カバーなどのホームグッズの素材もたぶん気にされてません。
誰もが洒落た服装をしている日本でも広く知られるのは、コットンとウール、高級品としてカシミヤくらいでしょう。
麻の布となれば、家のなかを見回して一点も見つからなくても不思議はなく。

ましてや麻の服を持ってるのはかなり珍しいと思われます。
実は私のワードローブには、麻がわんさかあるんですけども。
毎年、探しては買い足してます。
理由は後述します。
手頃な価格で買える、お薦めの麻シャツ情報ものちほど。
(無印良品です ←ネタバレ)

なぜ縄文時代から20世紀初頭までつくり続けられ着続けられたのか。
そしてなぜ姿を消していったのか。
麻には優れた特性と欠点の、対極的な両面があるんです。
だからこそバランスのとれたコットンやウールの普及に叶わなかった。

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近世麻布研究所所長の吉田真一郎さんが集めた着古しの庶民・農民服がずらりと並びます。撮影はすべてプレスプレビューにて。

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私が好きな「柿渋染」を発見。いい茶色なんですよ!紫外線(日光)で変色する味わいも魅力。

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表参道の商業施設「GYRE」にある無料ギャラリーで開催中の 「衣・食植」は、江戸時代の大麻布(たいまぬの)を中心に日本古来の布を収集し研究する吉田真一郎さんのコレクションを並べたもの。
資料価値があるらしく、博物的興味がある人に向く展覧会になってます。
大麻布を復活させるアピールもあるそう。

ところで、
「大麻布ってあの大麻!?」と思いの人、正解です。
葉を乾燥させるとドラッグにある、あれです。
茎から取れる繊維が布になります。

「栽培とか何言ってんの!?」とお考えの人、正解です。
平成22年度厚生労働省の資料「大麻・けしの見分け方」によると、
『大麻(アサ)は、その茎から丈夫な繊維がとれるので、昔から繊維をとる植物として栽培・利用されてきました。しかし、大麻(アサ)は、大麻取締法でいう大麻草「カンナビス・サティバ・エル」のことであり、現在、日本では無許可の栽培や所持等は法律で禁止されています』
とのこと。


厳しい栽培許可が必要となれば市場に多く流通させるのは不可能で、メジャーになることはありえません。
もっとも品種改良により、麻薬要素を取り除いた大麻草も存在するようですが。

実は麻と一口にいっても、様々な種類があります。
この話もあとでしますね。
そろそろ皆さまがウンチク話にお疲れのことと思いますので、しばらく写真をスクロールなさってくださいませ。

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コンパクトなギャラリーで、買い物の合間に立ち寄るにもぴったり。

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沖縄の「琉球絣」の和服。

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日本古来の植物繊維の解説コーナー。

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布に織られる前の状態も展示された大麻布。

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沖縄伝統工芸でいまもつくられる芭蕉布。パリッとハリがある高級品。

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高価な理由は採取から織りまですべての工程が人力で、膨大な手間が掛かるから。

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展示物はほぼすべて衣服。食や住そのものの展示物はありません。

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NHK番組『美の壺』を毎回録画して見る人(私だ)、文化として布に興味がある人に合う展覧会だと感じました。
一方で同じ麻でも、古布を継ぎ接ぎして縫い付け、何代にも受け継がれた東北の貧しい農民服「ボロ」のようなド迫力は期待なさらないほうがいいかと。
その道が好きな人はあっさりとした印象をうけると思います。

現代的なファッション目線とも距離がありますね。
流通する麻の世界基準では、モダンな布にできるリネン、ラミーが主流なことを考慮すると、素朴な大麻布(ヘンプ)を復活させる意義が私にはよく見えてこなかったです。
(関係者の人、すみません)

麻の良さ

1. 通気性抜群で汗をよく吸い、濡れてもすぐ乾き身体の熱を放出して涼しい。
2. もともと頑丈なうえに濡れるほどタフになる特殊な性能があり、作業着にぴったり。
3. 痩せた土地・寒冷地でも栽培でき、必要な水が少なくすぐ育つ(庶民が着てきた最大の理由)。

麻の欠点

1. すぐシワになり、アイロンを掛けないと回復しない。
2. 涼しすぎて秋冬には向かない。
3. 染めにくく繊細な織りもできず、デザインのバリエーションが少ない。

メリットよりデメリットが上回ると考えられたのが、近年までの麻が置かれた状況だったと思います。
ファッション性を重視すると使いにくかった。
その流れが変わってきたのは、SDGsの観点が生まれてきてから。
栽培にエネルギーが少なく傷みにくいロングライフな繊維は、いまの時代に合ってます。
服のメイン素材にするのは難しくても、暮らしのなかで私たちが使ってきた布を麻に置き換えることはできそう。

クッションや枕カバーにいいですよー、熱こもらないし皮脂汚れも洗濯で落としやすい。
麻使っちゃうと、染み込んだ汚れが落ちないコットンがイヤになる。
私が夏服を中心に麻製品を買い続けるのは、生活に役立つ実用性がいちばんの理由です。

さて、記事の冒頭でお話したお薦めの麻シャツは、以下のもの。
布はフランス〜ベルギーで栽培されている「フレンチリネン」です。

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無印良品公式サイトの販売ページより抜粋。¥2,990(税込)

柔らかくてさらさらで、なにより色の深みが抜群。
私はこれのバンドカラータイプをTシャツのように部屋着にもしてます。
外で着てて麻が得意なファッションデザイナーに会ったとき、「どこのシャツですか?」と聞かれたほどの完成度。
それでこの値段ですから。

麻の入門編に、寝具も豊富な無印良品はちょうどいいと思います。
まずは素材の魅力を知り、各所で深堀りしていくのも楽しい経験では?

GYRE

https://gyre-omotesando.com/

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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