――単なる旅動画ではなく、今回の特別な体験をどのように表現されたのでしょうか?
風景の映像は得てして写真的というか、美しい景色を並べたものになりがちです。1カット1カットはとても綺麗な映像でも、距離感や動線が分かりづらいものが多いなと思っていたので、今回は旅の動線を特に意識しました。自分なりに旅のスケジュールを作り、それに沿って撮影と編集をすることで各スポットの距離感や、『とある旅人が見た世界自然遺産』を際立たせて見ている人が映像に没入していくような特別な体験を心がけました。
――実際に撮影・編集で苦労した点はありますか?
各地の魅力的な場所が多すぎて取捨選択することが大変でした。撮影前にある程度構成を固めて撮影に挑むのですが、実際に現地に行くと想定と違っていたり、一度諦めた場所がやっぱり魅力的だったりするので、現地で再度ロケハンをしてその瞬間で一番いい場所で撮影していきました。そのため編集の際も撮影素材が膨大なので、ここでも取捨選択が大変でしたね。
――リアルではなく、映像だからこそ提供できる新しい旅の可能性とはどのようなものだとお考えですか?
コロナ以降気軽に旅をすることが難しくなったいま、一回の旅の重要度や貴重さが増していると思います。少ない旅をより有意義なものにするためにも、今回のような映像で旅を擬似体験してリアルな旅を楽しんでもらいたいなと思います。
また、リアルな旅では季節や時間の制限、場所の制限が多く、現地で断念することが多々あると思います。また肉眼で見られないものが映像では見ることができる(星空やドローンなど)ので、映像は旅を補完するだけでなく映像でしか体験できない現地の息遣いが感じられるものだと思います。
――16:9とVRでどのように表現方法を変えましたか?
VRではより主観的な旅を擬似体験してほしかったので、とある旅人の目線を意識して撮影していきました。実際の人間と同じ目線の高さで撮影することによって、よりその空間にいるかのように没入できる工夫をしています。また、1カットを長くすることでしっかり空間を見渡せるようにしています。
16:9では旅人目線はもちろん意識をしながら、VRでは少なかった各地の魅力に極力よって撮影し、それをテンポよく編集にいれることで、じっくり見渡すVRとたくさんの魅力を間近で感じる16:9と差別化を図っています。
――最後に、動画の見どころを教えてください。
今回は『とある旅人』をテーマに制作しているので、それを踏まえて映像を見ていただけると美しい風景を線で結んでいく動線が感じられると思います。VRでは360度映像に加えて音も360度にしているので、イヤホンやヘッドホンを使って見ることで、より現地にいるかのような没入感が得られると思います。
また、世界自然遺産を日本の伝統色で切り取るというテーマもあるので、各地の色を感じながら見ていただきたいです。そして実際に現地に旅に行かれた際には、みなさんが感じる各地の色を探してみて下さい。
和田健太郎●1987年、福岡県生まれ。映像ディレクター。日本大学藝術学部映画学科卒業。Nest+Visualに所属し、広告、MV、映画などを制作しながら、プロジェクションマッピングやVRなどデジタルコンテンツを幅広く手がける。おもな作品に、PUMAブランドムービー「MY PUMA」、BSフジ「つじつま」など。