<日本×台湾 クリエイター未来予報>VOL.2 羅申駿(JL DESIGN) ✕ YOSHIROTTEN

  • 文:近藤弥生子
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「Taiwan NOW」バーチャル会場アトリウムで展示されている『みんなの花』。JL DESIGN×呉仲倫(ウ・ヂォンルン)× 王希文(オーウェン・ワン)

日本と台湾。各ジャンルに精通するクリエイターそれぞれが考えるクリエイティブのいまと、未来のクリエイティブを予想する短期連載<日本×台湾クリエイター未来予報>。

第二回のゲストは台湾を代表するデザインエージェンシー「JL DESIGN」のファウンダー羅申駿(JL)と、日本のグラフィックアーティスト、アートディレクターのYOSHIROTTEN。
ジェームズ・キャメロンらがハリウッドで設立したVFX制作会社「デジタル・ドメイン」で大中華エリアの総責任者を務めた経歴を持つ羅申駿と、写真家・森山大道の作品をデジタルで再解釈した企画展「SHINJUKU_RESOLUTION」が中国大陸を巡回中のYOSHIROTTEN。
デジタルクリエイションの最先端にいる両者に、バーチャルリアリティ空間における「築」をテーマに、クリエイションのいまと未来について語ってもらった。

<築/バーチャルリアリティ空間>の未来予報

2030年、日本のリアル空間に台湾のバーチャル世界が重なった街「AR日台タウン」が話題に。両国の文化が入り交じった新空間に、台湾からアバターで訪れる人もいれば、ARメガネをかけてリアルに訪れる日本人もいるという、リアルでもバーチャルでも楽しめる空間演出が必要な時代になっている。

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デジタルの世界にいながらも、人がもっと人らしくいられるものが優れたバーチャルリアリティ。
――羅申駿(JL)

バーチャルリアリティ(以下、VRと記載)について私がもっとも影響を受けたのは、ヴィジュアルアーティストのクリス・ミルクによるTEDのスピーチです。彼は、VRとは監督の目線ではなく、観ている人が直接ストーリーを感じ、体験することができるものだと語っていました。私は“VRの中にいるけれど、人がもっと人らしくいられるもの、非常にリアルに感じることができるもの”こそが優れたVRだと思います。

いまも、私たちの周りにはたくさんのデジタル機器がありますが、それらを使うことで、人と人の距離は離れていっています。昔は当たり前のように直接電話をしていたのが、「いま電話してもいい?」って一度メッセージを送るようになりましたよね? VRに関しても、現在はまだデバイスによる制限がありますが、もうこの先3〜5年くらいで、そういったデバイスをまったく感じさせずに自由な世界を作り上げ、それを体験させられるようなVRのあるべき姿が実現されるんじゃないでしょうか。

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台湾のアカデミー賞と呼ばれる「Golden Horse Award」では、2019年、2020年と2年連続で受賞式典のビジュアルデザインを手がけた。写真は2020年度のキービジュアル。

現実じゃない世界を作れるのがVRの面白いところ。そこに飛び込んで作りたいものがたくさんあります。
――YOSHIROTTEN

2018年に「FUTURE NATURE」という個展を開催した時に没入型の体験作品も作ったので、VRを用いて、会場に来られなかった人にも体験してもらえるような取り組みができたらもっと良かったと思っていました。

会場に来てもらいたい気持ちもありますけど、もし来られなくても、同じ時間帯に同じ空間に集うことができて、そこで僕がテーマにしたものを伝える方法はあるのかなと。

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2018年に開催した個展「FUTURE NATURE」

コロナ禍を経験して、VRやARといった表現をもっと取り入れていこうという世の中の流れは加速しましたよね。僕も9月に新潟県・佐渡島の芸術祭でAR展示「Floating Future in SADO」をやりました。

佐渡島の自然に興味関心を持ってもらうためにARの技術を用いて、現実世界の中にバーチャルな作品を展示するという試みです。バーチャル空間を浮遊するグラフィックは、この時代、この世界を俯瞰してみる未来そのものの存在を表現しています。実際にタブレットを通して見る自分の作品と佐渡の風景には、リアルでは気づかなかった新しい発見がありました。

制作過程においては、やってみたいけれど技術の制限があってできないこともありましたが、VRが一番面白いのは現実じゃない世界を作れるところですね。そういうところに飛び込んでいって作りたいものはたくさんあります。

「さどの島銀河芸術祭2021」のAR展示「Floating Future in SADO」。

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「VRとリアルの世界が同時に存在するか?」ということは、議論の余地がない。どれだけデジタルが進歩しても、創作の原点はストーリーテリング。だれに何を語り、どのようなインスパイアを与えたいのか。
――羅申駿(JL)

「VRとリアルの世界が同時に存在するか?」ということは、議論の余地がないですね。テクノロジーが追いついていないだけで、必ず起きることです。デバイスの制限を取り去って皆でコミュニケーションする日が、必ず訪れるでしょう。ツールは時代とともに変化していきますが、だれに何を語るか、どのようなインスパイアを与えたいのか、それこそが大切。私たちにとって、揺るぎない創作の原点です。


「JL DESIGN」は海外の案件も多いですし、領域を超えた協働も多いので、クライアント、クリエイターといったパートナーなど、プロジェクトに関わる人数がとても多いので、どのようにシンクロして、共通認識を作り上げていくかをとても大切にしています。私たちが手がける作品の多くが「台湾初」とされるものですが、クライアントがその方向性を示してくれるわけではなく、それを引き出すのが私たちの仕事です。


たとえば今回東京で開催された「Taiwan NOW」でも、「祝福」というキーワードを引き出し、それをどのように表現するかを考えました。
「JL DESIGN」はデザインエージェンシーなので、プロジェクトで大事なのはより良いコミュニケーションです。といっても、会話だけではなく、「相手の立場に立って、どのように相手を理解するか」がコミュニケーションです。コロナ禍でフィジカルなコミュニケーションができなくなり、ビデオ通話でしかメンバーと会えなくなった時は、会議でもできるだけ雑談を増やしました。相手の状況を知ることが大事なので、出席者全員にカメラをオンにしてもらったりね。

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「Golden Melody Awards」は、2014年、2015年、2018年、2019年と、数多くの受賞式典のビジュアルデザインを手がけた。写真は2019年受賞式典の舞台。

自然にかなうものはないけれど、デジタルを通して違う見方をすることで、その凄みだったり、人間の創造について再認識できる。それを同時に楽しむことがいいんじゃないかって思います。
――YOSHIROTTEN

2019年に、NIKEのAIRMAXのAIRの部分を洞窟に見立てて、その空間を探検できるようなVR作品を作ったことがあります。探検しているとまたそこに別のAIRMAXがあるというのをループし続けるんですけど、それってずっとAIRMAXを観続けるということになるんですよね。

2019年「TRIP TO AIRMAX CAVE Interactive map」


もちろん最強なのは自然で、それにかなうものはありません。ですが、デジタルを通して違う見え方をすることで、リアルの凄みを知れるし、人間の創造についても分かるし、それを同時に楽しむことに良さがあるんじゃないかなって思います。

写真家の森山大道さんとの企画「SHINJUKU_RESOLUTION」も、大道さんの写真自体がもう素晴らしくて、僕が入っていける領域はないんですけど、データをいただいてPhotoshopで見ていたら、写真だと粒子に見えるものが、データだと四角いピクセルになっていたんです。そういう解釈で見ると、70年代からいまに至るまで大道さんが撮った新宿の街が、現実なのかデジタルなのか分からないような、その街をリアルに眺めるのとはまた違う感覚がありました。


「SHINJUKU_RESOLUTION」はちょうどいま、中国大陸でも上海、広州、そして成都と巡回展が開催されていますが、コロナ禍で作品を現地に送ることが難しいというのもあって、デジタルデータのやり取りだけで完結しました。

とはいえ15、6年前から、海外とメールだけのやり取りで協働するようなプロジェクトも多かったですね。いまではビデオ通話ができるようになりましたが、大事なのは協働する人同士がクリエイションへの感覚を共有し合うこと、共通認識を作ることかなと思います。

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2021年「SHINJUKU_RESOLUTION」Daido Moriyama Photo Foundation × YOSHIROTTEN

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日本は文化が成熟していますよね。クリエイターたちにクラフトマンシップが浸透しているから、コラボレーションの過程そのものが楽しいです。
――羅申駿(JL)

「JL DESIGN」は手がけているプロジェクトの規模が大きいので、社内だけではなく外部のクリエイターとクロスオーバーします。日本のクリエイターとコラボレーションすることも多いですね。過去に日本は非常に優れた企業が出てきて、日本らしさを形成していきましたよね。文化方面も台湾より成熟しています。デザイン、審美眼、工藝が成熟している文化に身を置く日本のクリエイターたちにとって、クラフトマンシップとはとても自然に成し得るものなのでしょう。彼らと一緒に仕事をしていても、そのプロセス自体が楽しいと感じますよ。

日本は少子化や高齢化など、台湾と近い部分がたくさんあるので、参考にできることもたくさんありますよね。私たちはブランドや文化など、台湾の物語を語る仕事をしているので、他の国々の良さがどこにあるのかを観察して取り入れながら、自分たちらしさを見出していきたいと思っています。

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2020 South by Southwest (SXSW) 台湾館キュレーションチームを務めた。写真は「Taiwan HYPE」展メインビジュアル。

台湾はどことなく日本の街の景色が似ているから、裏路地に迷い込んだようなVR展示ができたら面白そう。予定調和な感じじゃなくて、「あれ? もしかしたらここは渋谷じゃないかも」と気付くような。
――YOSHIROTTEN

台湾へはこれまでに5、6回は行っています。蜷川実花さんが「ASIA FASHION AWARD」でキービジュアルを手がけられていて、僕は蜷川さんが撮影された写真を使ったグラフィックをつくった関係で、そのイベントに参加した時が最後かな。そこでVIPの方にノベルティで配ったZINEがきっかけで、ファッションブランドのグラフィックに使われたりするようなご縁もあったんです。滞在中には何軒も美術館に行ったりしました。デジタル系の展示がすごく楽しかった記憶があります。


台湾はどことなく日本と街の景色が似ているから、渋谷の路地裏の駐車場の隣に台湾の同じようなストリートの一角が隣同士にあって、双方を行き来できるようなVR展示ができたら面白そうだなと思いました。予定調和な感じじゃなくて、彷徨っていたら「あれ? もしかしたらここは渋谷じゃないかも」と気付くような感じができそうですよね。

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2019年「Rainbow Disco Club」で行ったインスタレーション

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羅申駿(JL)/1978年東京生まれ。「JL DESIGN」ファウンダー。世界三大VFX制作会社のひとつ「デジタル・ドメイン」で大中華エリアの総責任者を務めた経歴を持つ。PromaxBDA、Red Dot、Graphic Design in China、金瞳獎といったデザインアワードの審査員実績も多数。2020年からは台湾の証券会社「大慶證券」のブランドディレクターに就任。「JL DESIGN」を国内外の大規模プロジェクトを手がけるデザイン事務所へと育て上げた。「Taiwan NOW」では「バーチャル アトリウム:みんなの花」ビジュアルディレクターを務めた。

https://jl.design/

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YOSHIROTTEN/1983年生まれ。グラフィック、映像、立体、インスタレーション、音楽など、ジャンルを超えた様々な表現方法での作品制作を行う。また国内外問わず著名ミュージシャンのアートワーク制作、ファッションブランドへのグラフィック提供、広告ビジュアル制作、店舗空間デザインなど、アートディレクター、デザイナーとしても活動している。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。
企画展「SHINJUKU_RESOLUTION」Daido Moriyama Photo Foundation × YOSHIROTTENが、現在中国大陸を巡回中。

https://www.yoshirotten.com/

Taiwan NOW(台湾ナウ)

メイン会場:東京都千代田区丸の内2丁目7−2 KITTE
他、バーチャル会場(オンライン)/ 台湾・高雄(12月25日予定)
会期:10月30日〜11月14日
https://www.taiwannow.org/

Taiwan Nowの公式SNSで日本と台湾の{あるかもしれない}未来の予報を発信中
Instagram @taiwan_now_pr

Twitter @taiwan_now_pr


※開催日時・内容などは変更となる場合があります。事前の確認をお薦めします。

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