ミリタリーウォッチは”実用時計の理想形“
女性用の腕時計はファッションとして進化した。そして男性用の腕時計は戦場で磨かれた。ミリタリーウォッチとは、平たく言うと“軍用時計”ということになるが、特に陸軍系が主である。
圧倒的な兵力を投入し、面で敵陣を掌握していく陸軍は、どうしても多くの人員が必要である。しかも戦場は山あり谷あり悪天候ありという過酷な環境にある。つまり、大量の兵士に供給する物資でありながら、過酷な環境に耐えうるタフさと精度を備えている必要があった。それは即ち、安価で高性能の時計ということであり、”実用時計の理想形“といえるだろう。
ミリタリーウォッチが広く戦場に持ち持ち込まれたのは第二次世界大戦であり、今でもその時代のミリタリーウォッチをルーツにしたり、デザインの参考にしたりするモデルは多い。
メンズウォッチの原点であり、実用時計の基本であるミリタリーウォッチは、純粋な腕時計の姿を残しているのだ。
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ロンジン「ヘリテージ ミリタリー」
第二次世界大戦ごろに、フランス海軍がロンジンに製作を依頼したモデルを復刻したのが、この「ヘリテージミリタリー」である。
新品でありながらすでに日焼けし変色したかのような味わい深い風合いのダイヤルを持ち、12時位置の“FAB.SUISSE”の文字も、オリジナルモデルに合わせた。意味は“SWISS MADE”のフランス表記である。
小ぶりなケースや肉厚でどっしりとしたベゼル、さらには視認性のよい大型針でカレンダーもないなど、いい意味で“タイムレスな普通の時計”としての顔がある。これならカジュアルなファッションはもちろん、スーツスタイルのハズシとしても活躍してくれるだろう。
ハミルトン「カーキ フィールド メカ」
いわゆる“ミリタリーウォッチ”といえばコレ。ハミルトンは第二次世界大戦時にアメリカ全軍に時計を供給しており、優れた時計を武器にして日本などと戦った。このモデルは1960年代モデルの復刻版であり、頑丈な手巻き式ムーブメントや着用感に優れるファブリックスストラップ、あるいはケースが反射して敵に発見されない考慮された艶消し仕上げのケースなど、タフなデザインになっている。ちなみに時刻の24時間表記はミリタリータイムとも呼ばれており、ミリタリーウォッチで好まれるスタイルだ。
こなれた価格でありながらブランド知名度も高いので、時計初心者から支持されているが、ミリタリーウォッチの手本としての価値も高く、コアな時計好きにもファンが多い。
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カシオ「G-SHOCK GW-M5610U-1JF」
1991年に勃発した湾岸戦争では、多国籍軍の兵士の姿が繰り返し放映されたが、腕にG-SHOCKを付けていたことでも話題になった。G-SHOCKは1983年デビューだが、日本よりもアメリカでヒットしていた。アメリカでは軍人や警察官など戦う男たちに支持され、その事実を戦争報道で目の当たりにしたことで、日本でもその実力が正しく評価されることになる。さらに1994年にはSWAT隊員の活躍を描いた映画「スピード」でも使用され、日本でもG-SHOCK人気は確実なものとなった。今も現役兵士にはG-SHOCKファンが多いが、やはりオリジンである5000/5600系を受け継ぐモデルこそが“ミリタリー”と呼ぶにふさわしいだろう。
ルミノックス「ORIGINAL NAVY SEAL 3000 EVO SERIES」
日本ブランドのG-SHOCKの対抗馬として、現役兵士たちから支持されているのが、アメリカブランドの「ルミノックス」である。ルミノックスはアナログウォッチであるため、瞬時の判読性などでは有利。しかもアメリカ海軍の特殊部隊ネイビーシールズの開発要請から生まれたという逸話もあるので、本物感を求めるユーザーから人気を集めている。
この「ORIGINAL NAVY SEAL EVO 3000 SERIES」は、ケースに軽くて頑強なカーボン素材「Carbonox」を使用し、自己発光システム「ルミノックス・ライト・テクノロジー」で、暗闇での視認性を確保する。徹底的に機能的な時計だが、1968年まで使用されていた夜光塗料オールドラジウムの色合いにすることでレトロな雰囲気を演出するなど、本気の時計だがファッション感度も高いのが特徴だ。
ベル&ロス「BR03-92 ブラックマット」
ここまで紹介してきた4本は、どれもが何らかの形で、実際に戦場で戦ってきた時計たちである。つまりは“血のにおい”がするミリタリーウォッチだ。しかしベル&ロス「BRシリーズ」の始まりは違った。2005年にデビューしたこのモデルは、戦闘機などに使われる航空計器をそのまま腕時計にするという斬新なコンセプトから生まれた。そしてその洗練されたデザインとコンセプトは、瞬く間に話題となったのだった。
しかしその実、BRシリーズは非常に堅牢な時計でもあった。角型ケースの4隅のビスは、実際にケースを強固に組み合わせるために使われ、大きなダイヤルは視認性に優れる。そのため徐々にフランス警察の特殊部隊などに愛用されることになる。ファッション的なアプローチから始まった時計だが、その個性が評価され”本物”となる。なんとも現代的な物語を持ったミリタリーウォッチである。
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