ファッションの面白さは、その表現にこそ見出せるもの。服をデザインするのも、それをセンスよく組み合わせるのも、自分という存在や伝えたいメッセージを外の世界へと発信する行為だ。今回は、写真家の水谷吉法に今季のコレクションから発想を広げてもらった。ボッテガ・ヴェネタ、エルメス、サンローラン、ルイ・ヴィトン、グッチのアイテムと注目の若手写真家。ジャンルを超えクロスオーバーする、魅惑のセッションをご堪能あれ。
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色・デザイン・素材に刺激され、異なる視点で街や自然を視る
「大自然」とは少し異なる、家の近所にある自然や生き物。あるいは誰の日常にでもある、なにげない街中の風景──。水谷吉法は色や造形に着目して日々撮影した写真を何年にもわたりTumblrにアップし、2015年に「COLORS」というシリーズにまとめ、発表した。自らの周辺世界で知覚した違和感や好奇心をトリガーに“日常”をビビッドな色彩感覚とグラフィカルな構図で切り取ってみせる、気鋭の写真家だ。
「モードの最新アイテムからインスパイアされた、独自のイメージをつくるという今回のテーマに対しては、写真を始めた頃からずっと続けている『COLORS』の撮影スタイルが、スムーズかつスピーディに進める上で最適だと考えました。各プロダクトの色や素材、デザインが多彩なため、あらゆる要素が存在する街や自然にアイデアを求めたんです」
ファッションデザイナーたちが世に投げかけた“メッセージ”を受け、水谷は、改めて街や自然を見直すきっかけを得たと話す。
「作家として活動しているため、今回のようにテーマや期間などさまざまな制約がある依頼撮影は、難しさや怖さのようなものを感じていました。しかし普段と異なる撮影だからこそ、新たなチャレンジとして刺激的でもあった。ファッションアイテムから着想を得るというアプローチは、これまでとは違う視点で街や自然を“視る”行為へとつながり、新鮮さと面白さを感じました」
アートとファッションの蜜月が叫ばれて久しいが、水谷は写真とファッションの本質的なクロスオーバーを可視化してくれた。
「異業種ミックス自体は新しくはないですが、個人的には興味があります。斬新で面白いものを創造できる可能性があり、認知やターゲットの拡大にもつながりますから。今回は未掲載のものを含め、多くのイメージを撮影できました。それくらい豊かなインスピレーションを与えてくれるプロダクトに出合えた。困難な時代ではありますが、これからもファッションには新たな価値観とワクワクを提供してほしいです」
水谷吉法
1987年、福井県生まれ。日本大学経済学部卒業後、東京綜合写真専門学校で学ぶ。日常を切り口にしながらも多様なテーマに挑み、数々の写真賞を受賞。国内外での注目度が高まる若手写真家。
※この記事はPen 2021年11月号「挑むモード、触発するアート」特集より再編集した記事です。