1913年に生まれ、全くの独学ながら53歳にして油絵を描きはじめ、2005年に91歳で世を去るまで絵筆をとり続けた塔本シスコ。いま、必ずしも良く知られた画家ではないかもしれないが、シスコが丹精を込めて描き残した作品を紹介し、その魅力を広く伝えようとする展覧会が、東京の世田谷美術館にて開かれている。
『塔本シスコ展 シスコ・パラダイス かかずにはいられない! 人生絵日記』にて公開されているのは、シスコがキャンバスや板、段ボールなどに描いた膨大なる油彩やアクリル画だ。加えて色鉛筆やペンによるスケッチやガラス瓶に油彩を施したオブジェ、さらに和装の人形や絵柄を手描きした着物なども展示している。その数約200点。多くは極彩色ともいえる輝かしい色彩を伴いつつ、生命感に満ち溢れていて、熱気さえ帯びている。『シスコ・パラダイス』、すなわち楽園と呼ぶのもあながち誇張とは思えない。
1966年に画家を目指していた息子の賢一が家を出て働きはじめると、シスコは残された作品の油絵具を包丁で削ぎ落とし、その上に見様見真似にて自分の作品を描くようになる。そうしたシスコの行為に賢一は驚きつつも独特な絵画に心を打たれ、制作の後押しをしようと決意。こうしてシスコの絵描きとしての生活がはじまり、自身の体験や旅先の光景、また身近な人や庭の植物、それに愛したネコなどを絵日記を付けるように次々と描いていった。
自身の目で見た生命を描きつづけたシスコは、特に家族を重要なモチーフとしていた。しかし実際の光景だけでなく、着物姿の幼いシスコと姉妹が孫と一緒に遊ぶ『古里の家』といった、異なる時代を1つの画面に表す作品もあって、時間や空間を超えた自由なイメージを構築している。また『NHKがやって来た』には、大勢の近所の人たちに囲まれながらテレビの取材を受ける様子が描かれていて、まるでお祭りのような高揚感がにじみ溢れている。
『ふるさとの海』を制作するシスコを映したホームビデオが見過ごせない。そこでシスコは絵の説明をざっくばらんに語りながら、キャンバスを前に絵筆をとっていて、心から楽しそうに絵を描いている。それを見ているとシスコにとって絵を描くことが人生と生活そのものであり、また喜びと夢の体現であったように思えるのだ。展示は世田谷での会期を終えると、約1年にかけて熊本、岐阜、滋賀の各県の公立美術館へと巡回する。多幸感に満ちた作品が多くの人々に鑑賞されることで、ひょっとすると今後「シスコ・ムーブメント」が来るかもしれないと予感するほどに心を惹かれるのだ。---fadeinPager---




『塔本シスコ展 シスコ・パラダイス かかずにはいられない!人生絵日記』
開催期間:開催中~11月7日
開催場所:世田谷美術館
東京都世田谷区砧公園1-2
TEL:03-3415-6011
開館時間:10時~18時 ※入館は閉館30分前まで
休館日:月
入場料:一般¥1,000(税込) ※日時指定制
※臨時休館や展覧会会期の変更、また入場制限などが行われる場合があります。事前にお確かめください。
https://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/special/detail.php?id=sp00206