「大人の名品図鑑」ジョニー・デップ編#5
ジョニー・デップ──端正な顔立ちと、憂いを帯びた瞳。役柄に“成り切る”演技はまさに一級品で、ハリウッドの頂点にあっても“異端児”と呼ばれる唯一無二の存在だ。ファッション好きとしても知られ、身に着けるものにも映画同様に熱い視線が注がれる。そんな彼が、プライベートや映画の中で身に着けた名品を追う。
帽子、眼鏡、胸元の長いストールと、手首に何重にも巻いたブレスレット。これがジョニー・デップのプライベートな着こなしにおける三種、いや四種の神器と言って間違いないだろう。
ストールは大判、あるいは長尺のものを何重にも巻く。加えて、きちんと巻いているというよりは無造作に見えるように巻いているのがジョニー流と言える。
いろいろなブランドのもの愛用していると思われるが、そのひとつが今回紹介するファリエロ・サルティだ。イタリアのトスカーナで1949年に生まれたブランドで、創設者はブランド名になっているファリエロ・サルティ。テキスタイルメーカーのサルティ社を設立、最上級の糸を使い、卓越した技術と染色技術で製作された生地は世界中の有名オートクチュールメゾンやデザイナーブランドで使われるようになり、織物工場として業界ではすぐに知られるようになった。
創設者の孫にあたるモニカ・サルティがクリエイティブ・ディレクターに就任し、祖父の名を冠したブランドを立ち上げたのが2000年。ファクトリーの持つ伝統の技術を生かして、体を軽く柔らかく包み込む“ストール”をつくり上げた。実はそれまで“巻物”と言えば、細長いカジュアルなウールのマフラーか、小判のシルクスカーフしかなかった。そんなファッション界に初めてストールコレクションを発表し、単なるアクセサリーアイテムではなく、着こなしを彩りながら存在感あるアイテムへと昇華させたブランドだ。ファッション好き、しかもスカーフ好きなジョニーがこのストールブランドに注目したのも頷ける。
ジョニー・デップの“首元”が気になる映画
そんなジョニーのことだから、映画でもストールを巻いているのではと探してみたが、なかなか見つからない。ブレスレットが映画でも巻いているのだが、ストールは巻いていない。ようやく見つけたのが『ギルバート・グレイプ』(93年)を監督したラッセ・ハルストレムと再びタッグを組んだ『ショコラ』(2000年)。この年のアカデミー賞にもノミネートされた良作だが、ジョニーはこの映画でジプシーの一団のリーダー、ルーを演じている。そのルーがギターを弾くときにネイビーのシャツの首元に細布が覗く。もちろん映画では専門のスタイリストが付いているが、いつもの大判のスカーフではないところも実に洒落ている。
ストールのような“巻物”ではないが、首元に対するジョニーのファッションセンスを感じる映画がある。『妹の恋人』(93年)という作品だ。アメリカの田舎町の自動車工場に勤めるベニー(アイダン・クイン)は、両親の死で心を病んでしまった妹ジューン(メアリー・スチュアート・マスターソン)と暮らしている。そこに転がり込んできたのが、友人の家に居候していた青年サム。このサムをジョニーが演じている。サムは喜劇役者に憧れる風変わりな青年で、字があまり読めず、ほとんどクチもきかない。しかしキートンやチャップリンをはじめとしたさまざまな映画の登場人物のモノマネが得意で、パントマイムさえこなす。そんなサムにジューンは自然に心を開くようになり、やがて彼と恋に落ちる。こんなジョニーらしいファンタジックなラブストーリーだ。
キートンに憧れるサムのファッションが秀逸だ。ヴィンテージものと思われる帽子、パンツやジャケット、サスペンダーを着こなし、シャツにポルカドットのネクタイや、スカーフと思われる細布をネクタイ風に結んで、ほかの登場人物のスタイルとはまったく違った、独特のクラシックな雰囲気を醸し出すことに成功している。さらにポルカドットのネクタイを結ぶときは首元までボタンをしめずわざとラフに、逆に細布のときはスカーフのようにきれいに結ぶ。この映画の衣裳を担当したスタイリストもジョニー自身も、ネクタイ、あるいはスカーフといった“巻物”に対して相当な“手だれ”だと思われる。着せられている感じがまったくしないどころか、ジョニーが役に“成り切る”ための道具に完全になっている。
役柄もファッション、それをとってもジョニーの一部になっている。これが彼を唯一無二の存在にしているのだろう。
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