「大人の名品図鑑」ジョニー・デップ編#4
ジョニー・デップ──端正な顔立ちと、憂いを帯びた瞳。役柄に“成り切る”演技はまさに一級品で、ハリウッドの頂点にあっても“異端児”と呼ばれる唯一無二の存在だ。ファッション好きとしても知られ、身に着けるものにも映画同様に熱い視線が注がれる。そんな彼が、プライベートや映画の中で身に着けた名品を追う。
ジョニー・デップの人生や私生活が初めて綴られた『デップ』(二見書房)で、著者クリストファー・ハードは「デップは自分の心の声にしたがって仕事を選ぶ。金や名声のためじゃない。映画を観た人の記憶に残る、確かな仕事をするためだ」とジョニーを評する。また「役者歴にアカデミー賞に輝く作品など一つもない。─ 中略─では、なぜこの男は世界中の雑誌の表紙を飾るのか? ケンタッキー州からやってきた、このはみだし者の青年は、人生のある時点で90年代を代表する『クール』な男になった」とも書く。
子供が喜ぶ映画に出演したい一念でジャック・スパロウ船長を演じたパイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』(2003年)とその続編以外は、いわゆる大作はない。むしろその逆のような小さな作品をあえて選んでいるようにさえ見える。それでもオリバー・ストーン、ジョン・ウォーターズ、ティム・バートンやラッセ・ハルストロムなどの有名監督とも仕事をこなしている。「昔むかし、一人の美しい若者がいた。それはもう、だれもがうっとりするくらい。そこで男は自分の顔を縛りあげて、人びとから身代金をせしめたとさ」とジョニーのことを謳ったのは、多くの作品を一緒に撮ったティム・バートン。名監督を魅了する何かをジョニーは持っているのだろう。
『ラスベガスをやっつけろ』(98年)は、名監督? いや異色の監督テリー・ギリアムとジョニーがタッグを組んだ作品だ。原作はジャーナリストのハンター・S・トンプソンが実話に基づいて書いた小説で、71年に『ローリング・ストーン』誌に掲載されると、当時の若者の必読書になった。この作品で、ジョニーが演じたのはラウル・デュークというジャーナリストだが、もちろんデュークは著者のハンター・S・トンプソンのこと。そのデュークと弁護士のドクター・ゴンゾー(ベニチオ・デル・トロ)は、1971年にオフロードレースの取材のためにラスベガスに出掛ける。レンタカーで借りた真っ赤なオープンカーのトランクにアルコールとドラッグを大量に詰め込んで取材先に向かう。ラスベガスの高級ホテルのスイートルームに宿を取るが、ドラッグで幻覚を見ている二人は歯止めがきかなくなり、やりたい放題。ホテルの部屋もぐちゃぐちゃに荒らし、ついには仕事も投げ出してしまう。その後ゴンゾーが去って、仕事を放棄したことで無一文になってしまったデュークは、支払いをしないままホテルから逃走する。
こんな破天荒はストーリーが続いていく。筋はあってなきがごとし、ドラッグ・カルチャーの記録としてカルト視されている原作を再現した、“トンデモ”映画と呼んでいい強烈な作品だ。
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ビームス プラス✖️チューブのパッチワークジャケット
ジョニーはこの映画で原作者のハンター・S・トンプソンを演じるために、彼の付き人になって仕草や癖を盗んだという。髪をわざと剃り上げたのもハンターを真似するためだ。この作品で印象的だったのが、ジョニーが作品中、ずっと着用していたパッチワークのハンティングジャケットだ。ハンターの実際の写真が残っているのだが、パッチワークのジャケットは彼自身が着ていたと思われるアイテム。しかもパッチワークと言っても、わざとさまざまな色の生地が組み合わされたもので、襟などは途中で別布を使った、とても凝ったデザイン。どこかで見た覚えがあると調べてみたら、アメリカのアウトドアブランドの老舗L.L.ビーンの歴史を書いた『GUARANTEED OF LAST』で、同じようなパッチワークの手法を用いたジャケットが紹介されている。キャプションには1970年代の作品とあるので、70年代にはこのようなアイテムがアメリカで多く製作されていたのだろう。
まったく同じものではないが、同じ感覚でデザインされたコーチジャケットを今季、ビームス プラスがつくっている。デザイナー・斉藤久夫が手がけるブランド、チューブとのコラボレーションアイテムで、パッチワークの仕方が前述の映画に登場したハンティングジャケットを連想させる。それをコーチジャケットという古くて新しいアイテムに落とし込んでいる点も素晴らしい。70年代をよく知る斉藤久夫とビームス プラスらしいアイテムではないだろうか。
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問い合わせ先/ビームス プラス 原宿 TEL.:03-3746- 5851
https://www.beams.co.jp/beamsplus/
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