WEBメディア『cakes』での連載が2017年に書籍化され、ベストセラーとなった燃え殻の半自伝的小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』が、実写映画化された。Netflixでの配信と劇場公開を前に、主人公の佐藤を演じた森山未來と、原作者である燃え殻の対談が実現。忘れられない恋の記憶を、90年代半ばのカルチャーとともに描き出した本作に込められた思いを語る。
「成仏しました」と監督に伝えました(燃え殻)
――森山さんは佐藤役をオファーされたとき、どのような印象を受けましたか?
森山:恋愛ドラマをやってみたいと思っていた時期にお話をいただいたのですが、原作を読んで、これは単純な恋愛ものではないと思いました。自分の過去を振り返って、人からもらった言葉や印象的だった風景、カルチャーを回想しながら、それらをずっと見つめていく、というような……。
燃え殻:恋愛をひとつの線として走らせながらも、それ以上に自分や周りの人間の人生を書きたいという思いはありました。
森山:この小説はすごく「エモい」と言われているじゃないですか。
燃え殻:はい、言われますね(笑)。
森山:パンチラインもすごいですし、エモくてセンチメンタルなところが魅力となって幅広い読者の方に受け入れられたんだろうなと思いつつ、これをどう演じればいいのだろうかと、最初は結構考えました。エモいものをエモい感情で表現することほどダサいものはないから、センチメンタリズムに埋没せずに、いかにこの時間を過ごせるだろうか。そこからのスタートでしたね。
燃え殻:みなさんが「エモい」と言ってくれる理由について、センチメンタルじゃない答え合わせになっちゃうんですけど、インターネットで発表した小説なので、どうしてもPV数をとる必要があったんですね。だから、自分のなかから出てくる言葉に対して塩胡椒でも砂糖でもなんでもかけてやるぞ、みたいなところがあって。
森山:とにかく読んでもらう必要があったんですね。
燃え殻:PV数が伸びなければ、どこの馬の骨ともわからない者の連載をやる理由がないという状況で。インターネットで画面をスクロールして読んでもらうとき、次の画面まで山がないなんてありえないんですよ。でも、それを普通の小説のように縦書きにしてみたら、山ありすぎだろ……! と自分で思いました(笑)。僕としては連載を乗り切るためにやっていたことでしたが、小説家の人には怒られましたし、アレルギーがあった読者の方も少なくないと思います。でもそうやって自分が生き残るために書いたものを、森山さんや伊藤沙莉さんらが全身を使って演じてくださったことで、もっと多くの人たちが自分ごととして感じられる映画になったんじゃないかなと思います。
――連載が終わったとき、編集者に「成仏しましたか?」と聞かれたそうですね。
燃え殻:そのときは全然すっきりしなかったんですよ。でも、この映画を観たあとに生前葬が行われたような感覚になって、森(義仁)監督に「成仏しました」って伝えました(笑)。映画のなかでは背景になってしまうような普通の人たちにも、それぞれに名前があって、人生がある。自分はこれが書きたかったけど書けなかったんだなと思いましたね。
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「モテキ」に出ていた自分に、この役をオファーするということは?(森山)
――小沢健二やラフォーレ原宿などをはじめ、90年代半ばのカルチャーやスポットが大事な要素として出てくる作品です。燃え殻さんと同じ世代の読者はもちろん、幅広い世代の人にも愛されている小説という印象があります。
森山:もしかしていまの若い人たちにとっては、“大人になれなかった”ことがかっこいいとか悪いとかというよりも、“大人にならされている”って感覚の方が強いのかもしれない。27歳の沙莉ちゃんがこの小説を読んで、「いまよりも自由そうでいいな」と思ったらしいんですよ。この物語の主人公と同世代じゃない読者の人たちもハマっている理由は、そのへんにもあるのかなと思いました。
燃え殻:僕は女子高生から「私はまだ恋愛をしたことがなくてラブホテルにも行ったことがないけど、この小説を読んで懐かしく思った」という感想をもらって、すごくうれしかったことがあったんです。人と関わるときにこういう気持ちやぎこちなさを感じたことがあったとか、逆にこれから先の人生でこんなことが起こるかも、とか若い子なりに感じながら読んでくれたんだな、と思って。読みながら例えば小沢健二をBUMP OF CHICKENに置きかえる、なんてことをしてくれていたかもしれないですよね。
森山:恋愛とカルチャーがテーマの作品というと、僕は『モテキ』(※)というドラマ、映画に出ています。自分にオファーするということは、それと似たものを求めているのか、それとも差別化を求めているのか、みたいなことも当然考えたわけですよ。でもいざ蓋を開けてみたら、プロデューサーも監督も、この時代のリアルな東京を知らない人たちで。そういう人たちがあえてこの小説を映画化する面白さがあると思ったんですよね。結果的にピックするカルチャーが厳選されていて、一つひとつが立っている。知っていても知らなくても楽しめる、バランスの良さを感じました。
――原作にはない、尾崎豊を歌うシーンもありますね。
燃え殻:超好きなシーンでした。僕より先に試写を観た知り合いに「尾崎豊のシーン、良かったよ!」って言われて、あれ? オザケンじゃないの!? とは思ったんですけど(笑)。
森山:『I LOVE YOU』はまさに世代を超えた曲ですもんね。
※同名の漫画を原作とする、2010年放送のテレビドラマと2011年公開の映画。森山が演じる"サブカル系"の主人公に思わぬモテ期が到来するも、さまざまな女性に翻弄される様をコミカルに描いた。
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過去にきっちり落とし前をつけて、デロリアンで現在に帰ってくる(燃え殻)
――映画ではコロナ禍の東京も描かれていますよね。現代から1995年へと時間をさかのぼっていくにつれて、コミュニケーションツールも変化しています。
燃え殻:スマホ、ガラケー、ピッチ、ポケベル、公衆電話、そして文通ですからね。
森山:SNSでいかようにも連絡がとれるからこそ、コミュニケーションが遠のく感覚ってあると思うんですけど、コロナ禍を経ているいまはまた違うディスコミュニケーションや分断が生まれている気がします。だから、映画で2020年までを描けたことはよかったと思います。
そういえば、かおりとラフォーレで待ち合わせしたときに目印にしたWAVEの袋に、スタッフさんが当時の雑誌『H』を入れてくれて。空き時間に読んでいたら文通コーナーがあったんですよ。
燃え殻:「このバンドが好きな人を探してます!」とか?
森山:そういうのもあったし、「私の魅力は処女です」みたいなものもあって。
燃え殻:そんなことまで。すごいなぁ。
森山:ものすごいエネルギーを感じました。でもどの時代にも通底しているのは、「人と関わりたい」という切実さ。そこは時代やツールが変わっても変わらないものだと思います。僕、ひとつ聞いてみたいことがあるんですけど、タイムリープ感があるものって最近人気があるじゃないですか。もちろん昔からあるけど、ここ数年でいえば『君の名は。』のような大ヒット作もあるし、流行ってる理由って何なんやろうな、って。
燃え殻:どうなんだろう……。“ここではないどこかへ”という思いはあるのかもしれないですよね。健全な状態だと行ったことのない土地に行ってみたいという発想になると思うんですけど、政治や経済にみんな疲弊しているから、“ここではないどこか”が自分の知っている過去だったりするのかな、って。それこそ『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のデロリアンで言えば、過去に設定する人が多いんじゃないですかね。
森山:いまじゃないどこかに行きたい、って感覚が高まっているってことになるのかな。
燃え殻:あの頃はいまより幸せだったと、どこかで思っている可能性がありますよね。でも『ボクたちはみんな大人になれなかった』に関していうと、過去を回想しながらも、あの頃彼女に言えなかった「ありがとう、さようなら」をちゃんと言いたいという思いを込めたつもりです。
森山:そのために、“セルフデロリアン”をやったわけですよね。
燃え殻:小説に書いたみたいに「今度CD持ってくるね」でなんとなくフェードアウトしていく人間関係が多いからこそ、きっちり落とし前をつけてデロリアンで現在に帰ってくる、というイメージでした。
森山:演じる側としてはリアルタイムで起こっていることを受け止めながら、それをノスタルジーにしていかなきゃいけなくて。短い撮影期間のなかでキラキラしたり郷愁に浸ったり、わけのわからない感情になりました(笑)。
燃え殻:人力のデロリアンがバグった感覚ですね(笑)。映画にしてもらったことで、エンディングで主人公を肯定する感覚が、より強まったように感じています。
『ボクたちはみんな大人になれなかった』
監督/森義仁
出演/森山未來、伊藤沙莉ほか
2021年 日本映画 2時間4分
11月5日よりシネマート新宿、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほかにて公開、NETFLIX全世界配信開始。
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