腕時計は何年も使い続けるものであり、複数を所有していても場所を取ることもない素敵な耐久消費財です。では、私たちのライフステージの各段階において腕時計を入手するにあたり、年齢に対応づけられた“このタイミングが旬な腕時計”って存在するものでしょうか?
40代はどんな基準で時計を選ぶべき?
今回は、40代におすすめしたい腕時計をご紹介します。40といえば“不惑”の歳。古代中国の思想家、孔子が説いた『論語』の一説に“四十にして迷わず”とあることから、物事の捉え方に迷いがなくなる年齢とされております。実際には、あれこれヨロヨロ迷いっぱなしの場合が多い気がしますが、腕時計選びに関しては自分の視点でビシッと迷わず決めたいところです。そこで、あえてブランドの格付けや歴史、価格帯の次元という枠組みにとらわれず、これを個人的な好き嫌いで直観的にチョイスできたら素敵かも。という視点で5本の腕時計を選んでみました。
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40代におすすめの腕時計① ハミルトン ベンチュラ エルヴィス80 オート
アメリカ発祥のブランドであるハミルトンがベンチュラのオリジナルモデルを発売したのは1957年のこと。小型の電池を動力として、電磁石の反発力でテンプを駆動する画期的なエレキ式タイムピースを搭載したベンチュラ。その斬新性を存分にアピールすべく、ケースデザインも奇抜な三角形のものが採用され、イカした腕時計の代表作としてその意匠は現代に受け継がれています。
1950年代後半といえばアメ車には巨大なテールフィンが装備され、威勢の良い出っ張りみたいなものが流行った時代でもありました。本作はオリジナルモデルのアイコニックな三角形のフォルムと、電気でビリビリ駆動している感を演出する三角波形ビジュアルを過激にブーストしたもの。一見燃費の悪そうな外観ですが、中身は80時間の連続駆動を可能にする自動巻の機械式ムーブメント採用していることから電池は不要。ちょっと不良っぽい雰囲気ですが、持続可能性の観点からは優等生の腕時計なのです。
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40代におすすめの腕時計② クロノトウキョウ クロノグラフ CH001W
クロノトウキョウは独立時計師の浅岡肇氏が創設したブランドで、彼自身がデザイン・設計した製品を世に送り出しています。待望のクロノグラフモデルはSEIKOの機械式8振動ムーブメントを採用。既発売の3針モデルから連なる世界観を構築しつつ、浅岡氏の腕時計に対する並々ならぬこだわりが注がれた力作です。
微妙にカーブさせた文字盤外周の稜線に沿って少し秒針を曲げてあったり、インデックスドットのエッジの目の覚めるような立ち方など、各部の追い込みは欧州高級メゾンを凌駕するもの。見れば見るほどディテールが湧き出してくるけれど、すべての要素の均整も保たれています。クロノトウキョウの腕時計は、手にした角度を変えながら肉眼で眺めていくと短い時間軸の中でその表情が変わり、それが脳の中で合成されてさらにリッチな知覚体験が得られるのが気持ちいいのです。写真で見るよりもさらに奥深さがあって、3次元の立体物として所有する喜びのある腕時計だと思います。
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40代におすすめの腕時計③ シャネル J12パラドックス
J12が、シャネル初の機械式腕時計として登場したのは2000年。特殊なセラミック素材を用いた独特な質感と均整の取れた腕時計らしいプロポーションを持ち、ファッションアイコンでありながら古典としての存在感も示すという稀有な存在です。J12のデザインを手掛けたのは18歳で入社して以来40年間にわたりシャネルのアーティスティックディレクターを務めた故・ジャック・エリュ氏。2007年に彼がこの世を去ってからもJ12は基本的なフォルムを変更することなくディテールを更新しつづけ、現在のモデルに至っています。
J12 パラドックスは、本来はホワイトかブラックの単色だったケースのカラーコードを打ち破り、コンビネーションになっているモデル。その製造方法はホワイトとブラックのケースを物理的に切断し、1つのケースとして合体させたもの。硬度の高いセラミックス素材をカットして接合するという大胆なアイデアを、繊細な技術で実現するクリエイションには脱帽です。
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40代におすすめの腕時計④ エルメス H08
エルメスのメンズウオッチに新たに加わったエルメス H08は、モダンテイストのスポーティーウオッチ。全体的なフォルムは1970年代のクッションケースを現代的な視点で再解釈したもので、柔らかなエッジと心地よい丸みを帯びているのが特徴。本シリーズには前衛的なグラフェン複合素材をケースに使用した超軽量モデルも用意されていますが、チタニウムのボディとチタニウムのバンドの組み合わせという伝統的な軽金属素材のモデルも非常に魅力的です。
ケースの仕上げはサテンフィニッシュをベースにして、放射状のヘアラインおよび鏡面仕上げを施すことで全体の造形が見事に際立ち、ブレスレットもH型のコマとリンク部分の仕上げを使い分けることで腕時計全体が放つ反射光のダイナミックレンジが広く、トーンも豊富に見えるのは流石だと思います。ダイヤルとミニッツディスクは同系色ながら異素材を用い、所有者は写真では捉えきれない質感の豊かさを肉眼で楽しむことができます。
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40代におすすめの腕時計⑤ タグ・ホイヤー モナコ
タグ・ホイヤーは、かつてホイヤーというブランド名でした。その当時、斬新な四角いケースに収められた防水型の自動巻きクロノグラフとして1969年に登場したのがモナコ。F−1マシンが公道でレースする、地中海沿岸にある国の名前を冠したモデルです。その人気に火がついたのは、映画『栄光のル・マン』でスティーブ・マックイーンが腕にしていたことによりますが、クオーツ式腕時計の市場侵略などの影響により70年代後半に販売終了。その約20年後に限定復活して以降、次々と現代に蘇らせました。そして2015年、初代デザインを忠実に再現したモデルが本品です。
四角いケースに四角いベゼル、四角いインダイヤルと赤いクロノグラフ針。この腕時計は、モータレーシングを彷彿とさせる雰囲気なのが魅力。時代の流れにより昔ながらの内燃機関の旗色は変化し、いずれ電池で動かすクルマの時代に変わっていくでしょう。でも、だからこそ化石燃料の黄金時代のテイストを環境負荷の極めて少ない機械式の腕時計で味わうというのは素敵なアイデアだと思います。
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というコトで、40代の男性におすすめの腕時計5本を紹介しました。今回の選定コンセプトとしては、前回の原稿で30代におすすめした腕時計のような自分にとって定点となる腕時計と出会っているという前提で、ちょっと偏りのある視点でセレクトしてみました。現在の腕時計が置かれた状況は、客観的に見れば必要性のレベルは下がる一方です。だからこそ、わがまま勝手に自らの主観を大切にして一本の新しい腕時計を選択し、それを偏愛する姿勢は自分を愛することにつながるのだと思います。
ライター
1964年東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒。松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間務める。在職中から腕時計やカメラの収集に血道をあげ、2002年に独立し「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」などの雑誌やウェブの世界を泳ぎ回る。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)など。
1964年東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒。松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間務める。在職中から腕時計やカメラの収集に血道をあげ、2002年に独立し「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」などの雑誌やウェブの世界を泳ぎ回る。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)など。