2021年7月、ベルリンに新たな「王宮」がお目見えした。第二次世界大戦後に跡形もなく失われたプロイセン王家の居城を"再建"したこの宮殿の中に、現代建築の茶室がオープンし、話題を呼んでいる。
構想から20年近く、8年間の工事を経て完成したこの王宮。15世紀から君主の居城が置かれてきた歴史ある場所に、2800もの装飾彫刻を施したバロック様式のファサードや銅製の丸天井など、19世紀当時の王宮の細部を再現して建てられた。
しかし、この豪奢な彫刻に覆われた入り口から足を踏み入れると、そこに広がるのはモダンなコンクリートの空間だ。約3万㎡もの空間の中には、これまで市の中心部からかなり離れたところにあった州立アジア美術館と民族学博物館のコレクションや、ベルリンの歴史に関する展示品が陳列されている。9月から一般公開が始まった茶室が展示されているのは、最上階のアジア美術館の空間の最も奥にある、日本のコーナーだ。
日独160周年を記念して行われたコンペで選ばれた、金沢に拠点を置く浦建築研究所が設計を担当。同じく金沢在住の陶芸家や蒔絵師などとともに完成させたこの茶室「忘機庵」は、一見して茶室とはわからない不思議な形をしている。表面に錆加工を施した、金属製の八角形の小部屋。このフォルムは、ベルリンの歴史を刻む建築からインスピレーションを得て生まれたものなのだ。
それはベルリン市内中心部に残る、カイザー・ヴィルヘルム記念教会。第二次世界大戦の戦火で壊れた部分をあえてそのまま残すことで、戦争の生々しい傷跡と平和への思いを伝えるこの教会の壊れた尖塔の形を模している。
6畳の茶室の前には、陶板で作られた縁側が張り出し、その上に打ち水をしたかのように一部に艶やかな釉薬がかけられている。そっと茶室の中を覗き込むと、障子のように柔らかく光を通す、八角形の明かりとりが目に入った。
11月12日まで入場無料で見学が可能なこのフンボルトフォーラムは、いつも満席。オープンから1カ月で10万人以上が訪れた。茶室では今後茶会なども開かれる予定だという。この空間の中で、いっとき日常の心配事を忘れてほしいと「忘機庵」と名付けられた茶室は、日本とドイツの文化をつなぐ架け橋となるだろうか。
---fadeinPager---
Museum für Asiatische Kunst
住所: Schlossplatz, 10178 Berlin
電話:(030) 266 424 242
開館時間:10時~20時(金・土〜22時) 火休
www.smb.museum