
全編フルリモートでの製作や、コロナ禍を織り込んだストーリー設定など、各局が感染対策を講じながらの模索と試行錯誤が続いた2020年のドラマシーンを経て、2021年のテレビドラマはおしなべて豊作だったように思う。
印象的だったのは、原作のないオリジナル脚本のドラマが充実していたことだろう。
SNSで大きな話題となった坂元裕二脚本の『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)をはじめ、宮藤官九郎脚本の『俺の家の話』、森下佳子脚本の『天国と地獄〜サイコな2人〜』(いずれもTBS系)、金子茂樹がその筆力を一躍世に知らしめた『コントが始まる』(日本テレビ系)など、作家性の高い実力派の脚本家が、思い切りその腕を振るう作品が目立った。
一方、気骨あるドラマ製作に定評のあるNHKは、『今ここにある危機とぼくの好感度について』『きれいのくに』『半径5メートル』など、マーケティングが先行しがちな民放よりも、かえって自由度の高い良作を連発。深夜ドラマで独自路線を貫くテレビ東京も、『ソロ活女子のススメ』『生きるとか死ぬとか父親とか』『うきわ ―友達以上、不倫未満―』など、相変わらず意欲的な作品が目立った。
WOWOWやBS各局、さらにはABEMAやParaviなどプラットフォームの多様化にともない、ドラマ枠やオリジナル作品が増え続けている群雄割拠のドラマ戦国時代。それでは、来たる10月期はどのドラマに注目したらいいだろうか。
大本命は、診断放射線技師たちの奮闘を描いた人気作の続編『ラジエーションハウスII 〜放射線科の診断レポート〜』(フジテレビ系)や、小松左京の名作を大胆にリメイクする『日本沈没―希望のひと―』(TBS系)、『あなたの番です』の制作陣が再集結した『真犯人フラグ』(日本テレビ系)あたりだろう。
だが、ここでは原作や出演者の人気度、話題性、バジェットなどにかかわらず、ドラマ好きの筆者が個人的に期待している“大穴”作品を3本紹介したい。
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1.『アバランチ』(カンテレ・フジテレビ系、10/18スタート)

カンテレ・フジテレビ系で10月から新設された連続ドラマ枠“月10”の一作目。謎のアウトロー集団「アバランチ」の過激かつ痛快な活躍を描き、人々の正義感に訴えかける劇場型ピカレスク・エンターテインメント……という、あまり聞いたことのないジャンルと触れ込みが気になるところだ。
しかし、何といっても注目したいのは、チーフ監督を藤井道人が務めるという点。映画『新聞記者』『ヤクザと家族 The Family』で、センセーショナルな題材と社会性のあるテーマをエンターテインメントにまとめあげた手腕は、今もっとも注目したい若手監督の一人である。
本作は脚本家がまだ発表されておらず、藤井監督がドラマのストーリー作りにどこまで関わっているかはわからない。だが、現時点で公開されている登場人物は、綾野剛が演じる主人公の羽生誠一のほか、警視庁の窓際部署の管理職に左遷された元エリート(木村佳乃)や、同じく左遷された警察官(福士蒼汰)、元自衛官(高橋メアリージュン)、元所轄刑事(田中要次)と、どちらかと言えば“体制”の側だったはずの人間ばかり。彼らがなぜアウトロー集団という裏の顔を持ち、どんな活躍をするのかがポイントだろう。
一歩間違えば、「必殺仕事人」現代版のような、荒唐無稽なダークヒーローものになってしまう危険性を孕んでいるが、描き方によっては、国家権力の無策や横暴、正義の暴走と分断といった日本のいまを反映させた“藤井監督らしさ”のある社会派ドラマを見せてくれるポテンシャルも感じる。謎だらけなぶん、どう転ぶかに注視したいドラマだ。
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2.『和田家の男たち』(テレビ朝日系、10/22スタート)

ネットニュース記者の息子・優(相葉雅紀)、テレビ局報道マンの父・秀平(佐々木蔵之介)、新聞記者の祖父・寛(段田安則)という3世代のマスコミ一家を舞台に、男だらけの家族が繰り広げる異色のホームドラマである。
まず、3世代の価値観や置かれた状況の違いを、新聞・テレビ・ネットの新旧メディアに象徴させるという設定がうまい。世代論を通したメディア論、あるいはメディア論を介した世代論を描くことができるだろう。
また、あえて女性不在の家族の物語にすることで、これまでのテレビドラマがあまり扱ってこなかった(そして男性が向き合うことから逃げていた)「父性」と直面する物語になるのではないかという予感がある。
あるいは、秀平と優が血の繋がらない父子であることや、多忙だった秀平に代わり優が家事全般を万能にこなしていたという設定からは、「祖父」「父親」「息子」というステレオタイプな血縁の役割に頼らない、男性同士がケアする共同体の可能性を描いてくれる期待感もある。
こうした期待値が高くなるのは、脚本家が大石静だからだ。90年代に『長男の嫁』『ふたりっ子』などのホームドラマを多く手がけ、2010年代には『セカンドバージン』『知らなくていいコト』『恋する母たち』など女性の生き方をめぐる話題作を連発してきた彼女が、男だらけのホームドラマをいかに描くか楽しみだ。
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3.『阿佐谷姉妹の のほほんふたり暮らし』(NHK・11/1スタート)

本作のドラマ化をニュース記事で見たとき、てっきりテレビ東京の製作だと思い込んでいたので、のちにNHKだと知ってびっくりした。
小説や漫画ではなくエッセイをドラマ化してしまう企画力や、阿佐ヶ谷姉妹という人選、木村多江と安藤玉恵というキャスティング、そもそもが擬似姉妹である彼女たちの共同生活という“中年女性のシスターフッド”を描いたテーマ性。すべてがテレ東っぽい。
実際、脚本を担当するふじきみつ彦は『バイプレイヤーズ』シリーズや『きょうの猫村さん』などを手掛けており、これはもう実質テレ東ドラマと言っていいのではないか。
オダギリジョーが脚本・監督・編集を務め、犬役で出演も果たした『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』(NHK)も相当攻めたドラマだったが、近年、他局にはない自由でサブカル感満載な企画ゆえに、「テレ東のドラマかと思ったらNHKだった」(その逆も然り、最近はここにWOWOWも加わる)ということがしばしばある。
きっと『阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし』もその極致のようなドラマになるに違い。もちろんそれは「面白くなる」ということだ。
新ドラマの出来栄えは、蓋を開けてみないとわからない。各ドラマの初回オンエアが出揃ったら、ぜひあなたもお気に入りを見つけてSNSで感想戦を繰り広げてほしい。
【執筆者】福田フクスケ
フリーランスの編集&ライター。週刊SPA!の編集を経て、現在は書籍編集。構成・編集協力した本に、田中俊之・山田ルイ53世『中年男ルネッサンス』(イースト新書)、プチ鹿島『芸人式新聞の読み方』(幻冬舎)、松尾スズキ『現代、野蛮人入門』(角川SSC新書)など。ご依頼は fukusuke611@gmail.com まで