日本と台湾。各ジャンルに精通するクリエイターそれぞれが考えるクリエイティブのいまと、未来のクリエイティブを予想する短期連載<日本×台湾クリエイター未来予報>。
第一回のゲストは台湾を代表する現代美術作家のマイケル・リン(林明弘)と、日本の建築界を牽引するアトリエ・ワンの塚本由晴。
長年の友人でもあり、今秋KITTE丸の内で開催されるイベント『Taiwan NOW』のために協働で創作した大規模インスタレーション作品《Untitled Gathering (Tokyo 2020)》が注目を集めている。
両者には「創」をテーマに、クリエイションの今と未来について語ってもらった。
人と人との関係性や対話を大切にしたいから、作ったのはプレイグラウンドにも舞台にもなり得て、みんなでシェアできる椅子。
――マイケル・リン
今回『Taiwan NOW』のために制作した《Untitled Gathering (Tokyo 2020)》は、テーブルとベンチ、スツール、そしてステージから構成されています。自由に腰掛けることもできるし、イベントで演目が行われる時にはその舞台にもなる。
スツールは、台湾の伝統的な寺廟で神様の誕生日会に映画が上映される時、近所の人々が椅子を持ち寄ってくる様子にインスピレーションを受けています。じつは神様のためだけに映画を上映しているんですが、人々が自由にやって来て、そこにひとつのコミュニティができるんです。野外で蚊が寄ってくるから「蚊の映画館」とも呼ばれているんですよ。そんなアンフォーマルな集会をイメージしています。由晴さんともそんな作品をつくろうと話をしていました。
マイケルは“場を創り出す”ことに、私たちアトリエ・ワンは“取り巻いているもの”に興味がある。オリジナリティについて一歩引いた視点があるのも同じ。
――塚本由晴(アトリエ・ワン)
マイケルは基本的に、アート作品を作るというよりは、そこに人が集まってきて場を創り出すというところに興味がある。そういう意味では私たちアトリエ・ワンも“取り巻いているもの”に興味があるので、関心が一致しているんです。
彼は、すでにある環境の中に入り込んでいって、その可能性を拡げて楽しい場所を創ったり新鮮な体験を生み出して、そこに人が関わっていくから、アーティストでいながら、オリジナリティについて一歩引いた視点がある。
建築もそうですが、京都の町屋のようにその土地ごとに最適化された優れた建築形式があって、それらは集合的な知識が詰まっているから誰のものでもないんですよね。その都度、その時代の人々が使いながら息を吹き込んでいけば良いんです。そういう意味で、私たちが考える建築のオリジナリティは、マイケルのそれと通じるものがあると思います。
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由晴さんが「長い椅子を作ろう」と言ってくれたから、「シェアできる椅子」をつくろうと思った。以前からアトリエ・ワンの本を読んできたので、私は彼らの生徒のようです。東京に行ったら必ず会いに行きます。
――マイケル・リン
コロナ禍で今回は制作現場に行けませんでしたが、アトリエ・ワンとはこれまでに何度も協働してきた信頼関係があるので、きっと大丈夫だろうという確信はあります。
それでも、一番はじめに由晴さんと今回の作品が展示される現場を見に行けたのは良かったですね。皆が自由に座って休めるような空間を作りたいと話していて、その時に由晴さんが「長い椅子を作ろうか」と言ってくれたんです。私も「シェアできる椅子、それは面白い」と思いました。
モチーフになっている「台湾花布」は、台湾で伝統的に日常の至るところに使われてきたもので、台湾特有の言語であるとも言えます。布に花や植物の柄がプリントされているというのは日本をはじめ他の国々にも見られます。
共通の言語がなくても、こうしたそれぞれの文化を表現できるのがアートです。でも、建築家の方が社会と直接的に繋がっているという意味で、私は建築家のことをうらやましいと思っています。初めて由晴さんたちに会ったのは2003年のことでしたが、その前からアトリエ・ワンの本を読んでいたので、私は彼らの生徒も同然ですね。今でも東京に行ったら必ず会いに行きます。
日本と台湾は親和性がある。台湾ならではの難しさがあるぶん、「自分たちでやろう」という気持ちが強いところが好きですね。
――塚本由晴(アトリエ・ワン)
マイケルはそう言ってくれるけど、私はアーティストはすごいし、自分にはなれないとも思っています。建築家は法律や設計上の規制など、社会的な段取りに乗っ取らなければならないという意味で、社会に巻き込まれている部分が多い。それは裏を返せば、段取りに任せていけば進むということでもあるんです。
建築は一つの大きな産業になってしまったから、それぞれが考えなくても進むようになっている。私もそれを常に疑おうとは思うけど、アーティストは「どんな段取りをするか」というところから自分で創り出すことが必要になりますよね。
これまで、台湾には何回も行きました。台湾ならではの難しさがあるぶん、「自分たちでやろう」という気持ちが強いところが好きですね。日本は長年かけて築き上げられた構造の影響で社会に閉塞感が漂ってはいるけれど、私もそういうところへの挑戦や批判はし続けていきたいと思っています。だから、台湾とは親和性があるでしょうね。
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日本と台湾。国を超えたクリエーションの未来とは?
コミュニケーションの手段として、オンラインツールが一般的に使われるようになった現在。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)の技術も急速に発展している。VR上でのコラボレーションは今後、さらに一般的になっていくだろう。《Untitled Gathering (Tokyo 2020)》の制作でも、両者がリアルで対面する事なく、リモートで協働された経緯から、最後に<日本×台湾クリエイター未来予報>について聞いた。
<創/クリエイション>の未来予報
2030年、日本の空間デザイナーと台湾のグラフィックデザイナー、サウンドクリエイターに創作されたバーチャル世界が話題となっている。彼らは音声自動翻訳ツールなどを使い、物理制限のない空間にリアルタイムで協同作業しているため、お互いの文化背景を持ちつつも、融合したような新しい空間を創り出している。
リモートには慣れているけれど、バーチャル空間より「人と人との関係」が織りなす雰囲気を大切にしたい。そこに技術が追いつけると良いですね。
――マイケル・リン
2030年という近未来に、バーチャルな空間に集まって創作をしていると思うかって?
そうですね、私のアシスタントはもう20年以上パリに住んでいて、リモートで仕事をするというスタイルは確立されてきたし、さまざまなデジタルツールを使いながらプロジェクトを実行してきましたが、対話だったり、互いに影響し合うことだったり、お酒を飲むことだったり、「人と人との関係」が織りなす雰囲気というものをとても大事にしているので、そこがクリアになるかどうかは未知数だと思います。
文化というものは人と人が互いに影響しあって生まれていくものですからね。
バーチャルの世界は、対象が人間に限定されているのがネック。もし資本主義を超えて行けるのなら、面白いと思いますよ。
――塚本由晴(アトリエ・ワン)
今回の協働もZOOMなどのツールで会議を重ねていったわけで、それはもちろん、誰かに情報をシェアしやすかったり、使い勝手は良いんだけど、業務しかできていないのが残念でしたね。雑談がない。
私はもともと、仕事終わりににマイケルと飲みに行くのが楽しみでしたからね。創作に関して言うならば、バーチャルの世界は今のところ、対象が人間に限られているのがネックではないでしょうか。人間だけの世界でハプニングもないですよね。
ただ、もし「所有」といった概念など、資本主義を超えていけるのなら面白いと思います。
Taiwan NOW(台湾ナウ)
メイン会場:東京都千代田区丸の内2丁目7−2 KITTE
他、バーチャル会場(オンライン)/ 台湾・高雄(12月25日予定)
会期:10月30日〜11月14日
https://www.taiwannow.org/
Taiwan Nowの公式SNSで日本と台湾の{あるかもしれない}未来の予報を発信中
Instagram @taiwan_now_pr
Twitter @taiwan_now_pr
※開催日時・内容などは変更となる場合があります。事前の確認をお薦めします。