日本美術史における「美人画」は、浮世絵や近代絵画でも多く描かれ、現代においても高い人気を集めている。しかし言葉の意味からすれば本来、男女の区別がないにも関わらず、大半が女性像であるのも事実だ。「何故、美男画というカテゴリーは成立しなかったのだろう?」そうした疑問点から企画された展覧会が、埼玉県立近代美術館にて開かれている。
『美男におわす』では、美少年や美青年のイメージを「愛しい男」や「魅せる男」といった5つのテーマのもと、約190点の作品にて紹介している。それらは浮世絵や日本画、また彫刻や挿絵と多岐にわたるが、中には現在の「ボーイズラブ(BL)」の源流といえる男性同士の性愛を主題とした雑誌『COMIC JUN』(1978年創刊)や、女性が将軍に就き、男性ばかりを集めた大奥を描いたよしながふみのマンガ『大奥』の複製原画なども展示し、従来の美術の範疇にとらわれずに人々が理想とした男性像などを探っている。また背徳の香りを帯びた少年や少女を描くことで知られる山本タカトや、いわゆる「イケメン」を表現し続ける木村了子といった現代のアーティストの作品も見どころだ。
美男画が成立しなかった理由……そのひとつに男性は中身が大事とする価値観が根強いことがあげられるという。そして男性を何らかの武功や業績と結びつけて描く傾向があり、そこへ誰もが共感するような悲劇のストーリーなどが加わると、にわかに美しくヒロイックな男性、すなわち美男として位置付けられるようになる。例えば源義経や天草四郎もそうした人物かもしれない。また日本では近代に入って写実画が誕生すると、生身の肉体としての美醜を描き分けていくが、それでも美男画が誕生することはなかった。
『美男におわす』とは、与謝野晶子の『かまくらや みほとけなれど 釈迦牟尼は 美男におわす 夏木立かな』という歌に由来している。ここで与謝野は鎌倉の大仏の姿に「美男」を見い出しているが、まさに1人1人がそれぞれに異なる美男像を持っているのではないだろうか?この展覧会は「男性の外見が美しくなくてはならない」や「美男とはこうである」と一方的に定義づけるものではない。価値観が多様化するいまだからこそ、「美男」と呼ばれるモチーフを追うことで、男性像を自由に語るきっかけにしたい。
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『美男におわす』
開催期間:2021年9月23日(木・祝)~11月3日(水・祝)
開催場所:埼玉県立近代美術館
埼玉県さいたま市浦和区常盤9-30-1
TEL:048-824-0119
開館時間:10時~17時半 ※展示室への入場は17時まで
休館日:月
入場料:一般¥1,200(税込)
※臨時休館や展覧会会期の変更、また入場制限などが行われる場合があります。事前にお確かめください。
https://pref.spec.ed.jp/momas/