『孤独のグルメ』最終話の聖地巡礼レビュー。「たまたま見つけた店」に入ることで得られるもの

  • 文:絶対に終電を逃さない女
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Ⓒテレビ東京

『孤独のグルメ Season9』最終話を飾る舞台となったのは、神奈川県伊勢佐木長者町の「トルーヴィル」。これまで11話中8話の聖地巡礼をしてきたが、最後に私の好物である町洋食と来た。もしかしたら最終話は聖地巡礼する人が増えるかもしれないと考え、今回は放送前に行くことにした。

駅から数分歩くと、レンガ色の建物に「ファミリーレストラン トルーヴィル」の看板が見えてくる。開店直後だったが、店内には既に何組かのお客さんが入っていた。外に立てられたコルクボードには料理の写真がいくつも貼られていて、その色褪せ具合に、古いアルバムのような懐かしさを覚える。

店内に入ると、幼い子供と両親の家族連れが目に入る。まさにファミリーレストランだ。ステンドグラス風の窓から光が差し込み、ドアに付いた鈴が開け閉めするたびに風鈴のように涼しげに鳴る。窓越しに外の行列が徐々に伸びていく。

4種類のランチメニューはスープ・サラダ・コーヒーor紅茶付き。五郎の言葉を借りれば、「私の胃袋の初恋相手」であるオムライスにもやはり惹かれたが、Aランチを選んだ。五郎が食べたAランチは「ハンバーグステーキ チーズのせ」だったが、この日はハンバーグ、ポーク、白身魚の「ミックスグリル」。これまでの聖地巡礼では毎回五郎と同じものを食べてきたが、最後は、その時自分が食べたいものを食べるという五郎の姿勢こそを見習いたい。

ミックスグリルという概念の充実感。五郎は「ハンバーグステーキ チーズのせ」と「牛ヒレの生姜焼き」の並びを眺めて「お〜これは心躍るフォーメーション」と感嘆したが、ミックスグリルはそれ一品で心躍るフォーメーションなのだ。

デミグラスソースがたっぷりかかった、ハンバーグ、ポークソテー、白身魚のソテー。サラダとマカロニ。ライス。かきたま汁。強いて言うならスープが変化球ではあるが、五郎の言う通り「ド直球の洋食」を、全身で受け止める。「子どもの頃、家族で行ったデパートの大食堂を思い出す。ハンバーグと牛肉、一度に両方。あの頃これが許されたら、飛び上がって喜んだだろう」と五郎はノスタルジーに浸るが、言われてみれば私も子供の頃はハンバーグとポークソテーを一度に両方食べたことはなかったかもしれない。どちらも小さめなので、無理なくそれぞれを楽しめるところが嬉しい。それにしても、子供時代に憧れた食べ物や食べ方は、実現できる歳になった頃には体力的に厳しいことも少なくないが、やはり余裕の五郎は「チキンのシャリアピン」を追加しまさかの単品からミックスグリル化。さらにナポリタンまで平らげる。

「孤独のグルメ聖地巡礼」が孕む矛盾

「たまたま見つけた店が、こんなふうに美味しいと幸せな気持ちになる。平凡な今日という日に、鮮やかな色彩が加わっていく。なんてことない店の風景が、今の俺にはかけがえのない大切なものに見える」

中盤のこのセリフには、「孤独のグルメ聖地巡礼」が孕む矛盾を突きつけられたような気がした。これまで私は「トルーヴィル」含め9軒を巡ってきた。どのお店も抜群に美味しく、聖地巡礼が『孤独のグルメ』の一つの楽しみ方であることは身をもって実感したが、頭の片隅には「これでいいのか?」という疑問が常に渦巻いていた。何も情報がない状態から自分の足で店を探し、気分と直感で決め、食べたい料理を食べたいだけ1人で思う存分堪能する。それが“孤独のグルメ”だとするならば、聖地巡礼はその対極にある行為なのではないか、と。

聖地巡礼だけでなく、私は普段の外食も基本的にネットで調べてから行っている。歩いて探したとしても、気になったお店をその場で検索したりする。スマホで簡単に調べられる時代だから、同じような人は多いのではないだろうか。店選びに失敗したくない。お金を払うのだからその気持ちは当然だ。

なぜ五郎はわざわざそのスタイルにこだわるのだろうと思っていたが、最終話でようやくわかった気がする。外から見える情報や匂いだけをもとに選んだお店が当たりだった時の高揚感。自力で美味しいお店を見つけたという誇らしさ。五郎が“孤独のグルメ”を愛するのは、たまたま美味しいお店に出会えた時の喜びが、美味しさを倍増させるからなのではないだろうか。

美味しいとわかっているお店に行く確実さも捨てがたい。だけどそれだけではつまらない。時には、自分なりの“孤独のグルメ”にも挑戦していきたいものだ。

絶対に終電を逃さない女

1995年生まれ、都内一人暮らし。ひょんなことから新卒でフリーライターになってしまう。Webを中心にコラム、エッセイ、取材記事などを書いている。『GINZA』(マガジンハウス)Web版にて東京の街で感じたことを綴るエッセイ『シティガール未満』、『TOKION』Web版にて『東京青春朝焼恋物語』連載中。
Twitter: @YPFiGtH
note: https://note.mu/syudengirl

連載記事

【第一話】『孤独のグルメ』の最新シーズンが始まったので、(事前)聖地巡礼をしてみた
【第二話】『孤独のグルメ』第2話の聖地巡礼レビュー。井之頭五郎に「攻めの姿勢」の大切さを学ぶ
【第三話】『孤独のグルメ』第3話の聖地巡礼レビュー。東麻布で外国料理店のもつ“力”を感じる
【第四話】『孤独のグルメ』第4話の聖地巡礼レビュー。井之頭五郎の「デカちゃん」ぶりを思い知らされる
【第五話】新型コロナに感染した人間が、『孤独のグルメ』を見て思うこと
【第六話】『孤独のグルメ』第6話の聖地巡礼レビュー。半月ぶりの外食は「普段使いしたい」店で
【第七話】『孤独のグルメ』第7話の舞台は「貴州火鍋」。五郎の桁違いの体力に理解が追いつかない
【第八話】『孤独のグルメ』第8話の聖地巡礼レビュー。名物店主と焼きまんじゅうを高崎の街で味わう
【第九話】『孤独のグルメ』の聖地巡礼を続けてきて、気づいたこと
【第十話】『孤独のグルメ』第10話レビュー。五郎が"孤独のグルメ"を志向する理由を考える
【第十一話】『孤独のグルメ』第11話の聖地巡礼レビュー。過去に行ったことのあるお店が登場したときの楽しさ