なぜ、動物が好きなんだろう? 写真家が見つめた愛情のありよう

  • 文:今泉愛子
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『動物たちの家』奥山淳志 著 みすず書房 ¥3,080(税込)。奥山淳志は1972年、大阪府生まれ。98年、岩手県雫石町に移住し、写真家として活動を開始。東北の風土や文化を撮る他、人間が生きることをテーマとして作品を制作。著書に『庭とエスキース』(みすず書房)がある。

【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】

物心ついたときから動物が好きで、これまで犬や猫、鳩、インコ、ハムスターなど、たくさんの動物とともに人生を歩んできた写真家・奥山淳志が、記憶をたどりながら、幼い頃の動物たちとの関係を中心に文章を綴った。合間に、近年撮り下ろした動物の写真が収録されている。

最初に飼ったのは犬のボビーだ。奥山はボビーを初めて抱き上げた時の、全身から伝わってきた四肢の躍動感や左右に振られた尻尾、やわらかい腹の感触を、文章で再現。その瞬間から動物が特別な存在になったと振り返る。

奥山と動物との親密な日々は、彼が大学に入学し、実家を離れるまで続いた。彼は本書で、こう綴っている。「僕の心の中には動物にしか満たすことができない領域がある」。どういうことか、訊いてみた。

「そのことについてずっと考えてきたのですが、自分を満たしてくれる動物のことを愛しているというよりも、満たされて心地よい自分を愛しているのではないかと気がつきました」

人間が動物に向ける愛情は、エゴでしかないのだろうか。

「動物へと向かう気持ちはいつも一方通行だと感じます。動物との関係を通じて人間の愛情のありようについて考えたいと思ったことが、執筆につながりました」

本書を読むと、奥山がこれまで飼ってきたすべての動物と、一対一のていねいなコミュニケーションをとってきたことがわかる。犬や猫だけでなく、ハムスターやインコにもそれぞれに個性があり、本能だけではない心の動きを見せていると感じるのだという。

「犬のように、人間の気持ちを推し量る術をもっていない動物も、人間を存在として認めてくれているような気がします」

動物との日常を鮮やかに捉えた文章は、人間と動物との豊かな関係性を伝えている。

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