ここ数年で古着のステータスは確実に高まっている。その取り入れ方、愉しみ方を知る3人の目利きが一堂に会し、尽きることのない古着対談が実現した。
バイヤー、スタイリスト、デザイナー。業界内でも古着好きとして知られる3人だが、その接し方はそれぞれだ。古着をいかに解釈し、どのように取り入れているか? その付き合い方について語り合ってもらった。
石井 諒 アイテム一つひとつを「個」として見られるところでしょうか。だから僕のお店ではミリタリーものはほとんど買い付けしないんです。ユニフォームとして大量に複製されるものなので。もちろんそれにはそれのよさがあるんですが。
池田尚輝 僕は、この取材を受けるにあたり、改めて古着の魅力について考えてみたんですが、つまり“DIY欲求”が満たされるってことなのかなって思ったんです。
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一点モノ選びで築く、自分らしいスタイル
石井 DIY欲求ですか?
池田 石井さんがおっしゃるように古着はその多くが一点モノです。その一点を自分のものにするかどうかを判断するわけです。言ってしまえば、一人ひとりがバイヤーなわけですよ。
石井 確かに。
池田 自分でチョイスしたものでこのアウトフィットをつくったんだ、っていう意識が自分で生活をビルドするような感覚につながる。そこが古着の面白みのひとつだと思ったんです。
島瀬敬章 それぞれが自分のワードローブのバイヤーってことですね。
池田 パンクが流行った時代もDIY精神というのがあったじゃないですか。自分たちでレーベルをつくってレコードを発表して、フライヤーをつくってコンサートをプロデュースする。事前に決められたものがお上から降りてきて、プラットフォームに従って組み立てるのではなく、あくまで『これは自分で判断してつくったんだ』っていう達成感。それが気持ちを満たしてくれるんだと思うんです。で、その作業って、たくさんの成功や失敗を経験してきた大人だから楽しいっていうのもある気がする。
島瀬 すごく納得です。僕もそれに近いことを考えていました。だから僕は、きちんとセレクトされた古着屋ではなく、玉石混淆なお店も大好き。東東京でおもに展開されている「たんぽぽハウス」はいい意味でジャンクなものが多くあって、自分が試されている気がする。池田さんの言う通り、自分でビルドしている感覚が楽しめます。
池田 いまはトレンドの移り変わりがものすごく早い。シーズン立ち上がりには新鮮に見えた服が、終わり頃にはもうワクワク感を失ってしまっている。そういうのが、古着だと回避できる可能性がありますよね。そのもの自体が時間というふるいにかけられて生き残ってきたものだし、シーズンもさほど関係ないですから。
島瀬 とはいえ自分で古着を探すって結構体力いりますよね。面白いお店はたくさんあるし、都内でも広範囲に広がっていますから。
池田 その点、いまはインスタグラムなどでチェックできるから、それはすごく便利ですよね。
石井 確かにインスタグラムと古着店の相性はすごくいいと思います。池田さんのいう情報の流れの速さが、むしろこちらでは追い風になっている。足を棒にしなくても見つけることができるようになっています。
島瀬 デザイナーとしてのジレンマは、アイデアを実現するまでにどうしても半年程度かかってしまうこと。いま感じていることを即座に具現化することができないわけです。でも古着の場合は違う。「いまこういう気分だな」というものを見つけたら、すぐに買うことができる。さっき池田さんはトレンド関係なく楽しめるとおっしゃっていましたが、トレンド=気分をすぐに反映させることができるんです。石井さんのお店「デモオレ」はまさにそれを象徴するお店だと僕は思います。
池田 確かにそれはありますね。
島瀬 そういう意味でも、古着はもう無視できない存在になっている。新品だ、古着だという線引きではなく、ひとつの同じファッションとして。
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確実に評価が高まった、古着を取り巻く状況
石井 古着そのものの概念も変わってきていますしね。ちなみにうちのお店ではほとんど“ヴィンテージ”という言葉を聞かなくなってきた。実はお客様にとっては新品か古着かということもそれほど大きな問題ではなさそうです。つまり、そういったフォルダ分け自体があまり意味をなさなくなってきているのかもしれません。
池田 おそらく少し前まで古着ってファッションとしてのステータスがもっと下だったんだと思います。若者がリーズナブルにファッションを楽しむためのものにとどまっていた。
石井 それは僕がいままで古着屋を営んできて感じてきたことですね。ファッションの中でのステータスとしては、事実低かったと思います。だから一部の商品を古着ではなくヴィンテージと呼ぶことにより自己肯定していたのかもしれません。
池田 そうですよね。でも我々がいま、親しみをもって古着と呼んでいるものには、もう少し尊敬の念がこもっている。その服が生まれた背景と、いまこの時代まで残っていることのすごさを考えれば、もはやステータスが下とは思えない。
島瀬 まさに!
池田 だから「若返ったつもりで久しぶりに古着屋巡りでもしてみるか」っていう感覚で接するのではなく、もう少し尊敬の念をもって触れてみるとまた違って見えてくると思うんです。
石井 古着がより一般化し、いままで馴染みのない方たちの価値観も変わっていくと思います。
島瀬 まだ皆さん知らないだけで、いい古着をたくさん置いているお店はたくさんある。これからもっと認知されていくんじゃないですか。
池田 そうすれば、もっとファッションが楽しくなるでしょうね。
※この記事はPen 2020年7/15号「東京古着日和。」特集より再編集した記事です。