「奇妙な風習? そう、人はたいてい、自分たちの慣習を当たり前だと思っているが、そうした慣習も、一歩離れたところから見るとかなり奇妙に感じられることがある。」(P6)
世界各地の“奇妙な”風習や儀式、祝祭、食文化など150の事例を取り上げている本書『世界の奇習と奇祭 150の不思議な伝統行事から命がけの通過儀礼まで』。我々の常識をことごとく覆す、風変わりでショッキングな慣習がずらりと並び、なかには、いまなお受け継がれているものもある。アメリカ在住のエディター兼コラムニストのE・リード・ロスがジョークを交えながらユーモラスに伝えている。一部を紹介しよう。
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カエルのジュース
南米ペルーの一部地域では、カエルのジュースが飲まれているという。公用語のスペイン語で「フーゴ・デ・ラナ」といい、カエル一匹丸ごとを数種類のハーブや蜂蜜と一緒にミキサーにかけて作られる。古代より勃起障害に効果があると伝わり、「ペルーのバイアグラ」とも呼ばれる。このジュースは現地で大人気だそうで、原料として使われるカエルの種が絶滅の危機に瀕するほど。ペルー政府が種の保護対策を講じているとのことだ。
ワニのかみ傷
パプア・ニューギニアのセピック川ほとりに住む先住民族は、人間の先祖がワニであると信じている。この地域の若い男たちの体にはでこぼこした傷跡がある。少年から大人になるにあたって、竹で作った道具で体に切り込みを入れる儀式が行われるのだ。傷跡はワニの歯形を意味し、先祖とされるワニへの敬意や大人の男の証明の意味合いがあるという。若い女がかみ傷をつける村もある。ワニにかまれるほどの痛みに耐えることで、人は強く、賢くなると考えられているという。
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結婚するならトイレ禁止
東南アジア・ボルネオ島に暮らすティドゥン族の新郎新婦は結婚式後の3日間、トイレへ行くことが禁止される。大も小も。72時間、我慢できない場合には、不幸に見舞われると信じられている。しかも、家族や友人らが監視し、抜け駆けは許されない。結婚式直前の飲食を控えるのが推奨される“対策”だそうだ。
死者と踊る
アフリカ南東部沖に浮かぶマダガスカルでは、“死者のパレード”が開催される。亡くなった親族のミイラ化した遺体を掘り起こし、真新しい服を着せ、香水をつける。そして、死者とともに踊るのだ。「ファマディハナ」と呼ばれる数百年続く儀式で、世代間の絆を深め、死者の霊があの世へいくために必要だと考えられている。しかし、この儀式が伝染病を引き起こした疑いが指摘され、政府は法的に禁止することも検討しているという。
本書の帯には、「嘘のような伝統行事」「理解不能の風習」「規格外の祭りと風習の数々」との文字が踊る。確かに、ページをめくっていると我々の慣習とはかけ離れた内容にゾクゾクし、好奇心が刺激される。一方で、冒頭で引用した一文のように、それぞれの慣習を実践する人々にとっては「当たり前」「常識」であることを思えば、世界の多様さを実感する。ディープな旅へ連れて行ってくれる一冊だ。
『世界の奇習と奇祭 150の不思議な伝統行事から命がけの通過儀礼まで』E・リード・ロス 著 原書房