総合診療医が教える、「がん」の可能性がある3つの危険な症状

  • 文:山中克郎
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あなたのその症状、ほうっておいては危険ではありませんか? 症状が出たら重要なのは、病院に行く必要のない状態と、早急に病院に行くべき状態をきちんと見分けること。

そこで、その見分け方を指南する本書『その症状、すぐ病院に行くべき? 行く必要なし? 総合診療医・山中先生がつくった家庭でできる診断マニュアル』(山中克郎 著/CCCメディアハウス刊)より抜粋。

「がん」の可能性がある3つの症状をお届けする。

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日本人の2人に1人が罹る可能性あり

日本人が一生のうちにがん(悪性腫瘍)になる可能性は、男性が62パーセント、女性が46パーセントと、ほぼ2人に1人。誰もがなる可能性のある、とても身近な病気です。がんには、以下の3つの特徴があります。


① 自律性増殖:自分勝手に増殖し続ける。
② 浸潤と転移:周囲に染み出すように広がったり、離れたところに飛んだりする。
③ 悪液質:栄養をどんどん奪って、体を衰弱させる。


良性腫瘍は、①の自律性増殖はするものの、②と③はしないという違いがあります。また、がんは多くの場合、ある程度進行しないと症状が現れないという特徴もあります。したがって、早めに検診を受けることや、がんの可能性がある症状が現れた時には、素早く対処することが重要です。ただし、なかには必要ない検診もあります。

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「がん」の可能性がある症状 その1
→やせた

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やせる(体重減少)とは、半年から1年ぐらいの間に、元の体重の5パーセント以上が減ることをさします。たとえば体重60キロの人であれば、半年から1年で3キロ以上やせたら、体重減少と判断します。5パーセント以下の体重減少や、ダイエットやつわりなど、病気でなくやせる理由がある場合は、心配ありません。やせる病気には、がんをはじめ非常に多くの種類があります。そのため、やせたというだけでは、病気の絞り込みができません。やせたことに加えて以下があるかどうか、当てはまる項目をチェックしてください。

□1. 黒い便、または血便が出る。

□2. 早足で歩いたり、階段を上ったりすると、動悸や息切れがする(労作時呼吸困難)。

□3. 3週間以上咳が続いている。

□4. 胸が痛い、息苦しい。

□5. 唇が紫色になる(チアノーゼ)。

□6. 38度以上の熱がある。

□7. 1か月以上微熱が続く、寝汗をかく。

□8. 血痰が出る。

1〜8のどれか1つでもチェックが入った場合は、すぐ病院に行ってください。医師には、体重減少に加えてどんな症状があるか、チェックが入った項目を告げてください。

胃がんや大腸がんなどの消化器がん、肺がん、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺炎、肺結核、心不全などの可能性があります。

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1の黒い便や血便は、胃や腸などの消化管からの出血によって起こる症状です。2の労作時呼吸困難は、貧血によって起こる症状で、動くと息切れがします。消化管からの出血によって貧血を起こしていると、1と2の両方の症状が現れます。特に危険なのは胃や十二指腸からの出血で、大量出血を起こすと死に至ることがあります。

労作時呼吸困難は、COPDなどによっても起こります。COPDは、主にタバコの煙を長期間にわたって吸入したことによって発症する、肺の炎症です。喫煙者本人だけでなく、受動喫煙によって周囲の人が発症することもあります。肺のなかの気管支に炎症が起きて咳や痰が出たり、気管支の先にある肺胞が障害されて、酸素を取り込んで二酸化炭素を排出するガス交換がうまくできなくなったりします。

3の長引く咳は、肺がん、COPD、肺炎、肺結核、心不全などで起こります。

4の胸の痛みや息苦しさ、5のチアノーゼは、心不全などで起こる症状です。

6の発熱は肺炎などで、7の微熱と寝汗は肺結核などで、8の血痰は肺がんや肺結核などで起こります。寝汗とは、汗びっしょりになって夜中に下着を替えるほどの汗をさします。

1〜8のどれにもチェックが入らなかった人は、以下に進んでください。

□9. 日中、特に朝起きた時にやる気がしない、気持ちが沈み込む、といった状態がほぼ毎日、2週間以上続いている。

□10. これまで楽しかったことが楽しくない、何に対しても興味がわかない、といった状態がほぼ毎日、2週間以上続いている。

9と10のどちらか、または両方にチェックが入った場合は、1〜2日以内に病院に行ってください。医師には、体重減少があることとチェック項目を伝えてください。

うつ病などの可能性があります。うつ病はよく知られた病気ですが、実はよく見逃されている病気でもあります。というのは、うつ病の人が〝うつ病らしい〞うつや不安といった症状を訴えて来院することは稀で、体重減少をはじめ、さまざまな身体症状を訴えてくることがほとんどだからです。そのため身体の病気と診断されることが多く、初診時にうつ病と診断される人は約30パーセント、5年後でも約50パーセントというデータがあるほどです。うつ病は、「うつ・不安」(205ページ)も参照してください。

9〜10のどちらにもチェックが入らなかった人は、そのほかの症状、たとえば1か月以上続く下痢などがある場合は、慌てなくて結構ですが、病院に行って原因を調べてください。

また、体重減少以外の症状がなくても、50歳以上の人はがんの危険性があります。食欲があって食べるのにやせてくる場合は、糖尿病、甲状腺機能亢進症、膵がんなどの可能性があります。いずれにしても、1〜2週間のうちに病院に行き、検査を受けてください。

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「がん」の可能性がある症状 その2
→食欲がない

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食欲がない場合、まず注意しなければならないのは、本当に病気かどうかです。というのは、妊娠可能な女性の場合、自分では気づいていないけれど、つわりだったということがあるためです。ただし、これについては本書では扱いません。

もう一つ注意が必要なのは、がんの可能性です。日本人には胃がんが非常に多いため、特に50歳以上の人で食欲がない場合は、がんの可能性を頭に置く必要があります。胃がん予防には、50歳を過ぎたら胃カメラの検査を受けることをお勧めします。

もちろん、実際にはがんの人がそれほどたくさんいるわけではなく、胃潰瘍などの場合がほとんどです。食欲がないことに加えて、以下のような症状があるか、当てはまる項目をチェックしてください。

□1. これといった理由がないのに、体重が減少した(半年から1年の間に体重の5パーセント以上)。

□2. 黒い便、または血便が出る。

□3. 早足で歩いたり、階段を上ったりすると、動悸や息切れがする(労作時呼吸困難)。

□4. 以下のような症状がある:みぞおちや背中が痛い。糖尿病を発症した、または糖尿病が悪化した。黄疸がある(皮膚や白目が黄色くなった)。

□5. 以前、がんになったことがある。

1〜5のどれか1つでもチェックが入った場合は、すぐ病院に行ってください。医師には、チェックの入った項目を告げてください。

胃がん、膵がん、脳腫瘍などの可能性があります。胃がんは、食欲がないことに加えて、みぞおちの痛みや、おなかが張った感じがすることがあります。胃から出血していると、労作時呼吸困難や立ちくらみといった貧血の症状が出たり、タール状の黒い便や赤い血便が出ることがあります。大量に出血すると死に至る危険性があるため、早急に対処しなければなりません。

膵臓は、血糖を調節するインスリンを分泌しています。そのため膵がんになると、血糖の調節がうまくいかなくなって糖尿病を発症したり、糖尿病が悪化したりします。また、がんによって胆汁の流れが妨げられると黄疸を発症しますし、食物の流れが妨げられると嘔吐します。

脳腫瘍は、良性と悪性がありますが、どちらにしても腫瘍が大きくなると脳が圧迫されて、さまざまな症状が現れます。症状は腫瘍がどこにあるかで異なり、視床下部を巻き込むようなケースでは食欲中枢が障害されて、食欲が低下します。

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1〜5のどれにもチェックが入らなかった人は、以下に進んでください。

□6. 日中、特に朝起きた時にやる気がしない、気持ちが沈み込む、といった状態がほぼ毎日、2週間以上続いている。

□7. これまで楽しかったことが楽しくない、何に対しても興味がわかない、といった状態がほぼ毎日、2週間以上続いている。

6と7のどちらか、または両方にチェックが入った場合は、1〜2日以内に病院に行ってください。医師には、食欲がないことに加えて、チェックが入った項目があることを伝えてください。

うつ病などの可能性があります。うつ病では、食欲がない、やせた、だるい、腰が痛いなど、さまざまな身体症状が出るのが普通で、うつや不安といった症状を訴えて来る人はむしろ稀です。そのため、内科の病気と診断されてしまうことが多々あります。うつ病を見落とさないためには、可能であれば総合診療科を受診してください。「うつ・不安」(205ページ)も参照してください。

6、7のどちらにもチェックが入らなかった人は、以下に進んでください。

□8. 食後に、胸焼けする。または、みぞおちが痛くなる。

□9. 夜間や早朝など空腹時に、みぞおちが痛くなる。何か食べると痛みが軽くなる。

□10. 以下のような症状がある:口が渇く、水を大量に飲む、尿の量が多い、吐き気がする、など。

□11. 以下のような症状がある:体や手足に力が入らない。動悸、大量の発汗、手の震え。下痢、排便回数の増加。イライラする、など。

□12. 以下のような症状がある:何を食べてもまずく感じる、食べ物の味がわからない、何も食べていないのに口の中に苦い・甘い・渋いなどの味がする、など。

□13. 数年かけて徐々に、以下のような症状が出た: 気分の落ち込み、倦怠感、体重減少、吐き気、など。

□14. 以下のような症状がある:お酒を飲む量を増やさないと酔わない。飲みたい気持ちが強く、隠れてでも飲む。お酒を飲まないでいると、発汗や手の震え、不眠などが現れる。お酒を飲みだすと止められない。体調が悪くなってもお酒をやめられない、など。

□15. ジギタリス(心不全などの薬)、テオフィリン製剤(喘息や気管支炎などの薬)、抗コリン薬(腹痛や下痢などの薬)、抗うつ薬のうち、どれか1種類以上を飲んでいる。

8〜15のどれかにチェックが入った場合は、慌てなくて結構ですが病院に行ってください。医師には、チェックが入った項目を告げてください。

8にチェックが入った場合は、胃潰瘍などの可能性があります。胃潰瘍は、胃酸と粘膜保護のバランスが崩れて、胃酸が自分の胃の粘膜を攻撃している状態です。食後にみぞおちや背中の痛みが起こることが多いですが、症状がない人もいます。胃潰瘍が悪化している最中には、食後と空腹時とを問わずに胸焼けやみぞおちの痛みなどがある場合もあります。重症になって潰瘍から出血すると、黒い便や血便が出ることがありますが、この場合は危険性が高いため、すぐに病院に行ってください。「胸焼け」(108ページ)も参照してください。

9にチェックが入った場合は、十二指腸潰瘍などの可能性があります。十二指腸潰瘍では、胃潰瘍とは逆に、空腹時に胸焼けや腹痛が起こり、何か食べると症状が軽減します。潰瘍によって十二指腸が変形すると食物が通りにくくなって、吐き気や嘔吐が出ます。重症になって潰瘍から出血すると、黒い便や血便が出ることがあります。この場合は危険性が高いため、すぐに病院に行ってください。「胸焼け」(108ページ)も参照してください。

10にチェックが入った場合は、高カルシウム血症、低ナトリウム血症などの可能性があります。高カルシウム血症は、血液中のカルシウム濃度が高い状態です。がんの骨転移、副甲状腺機能亢進、カルシウムやビタミンDの過剰摂取、骨の病気などによって発症します。低ナトリウム血症は、血液中のナトリウム濃度が低い状態です。水分の取りすぎや利尿剤の使用、腎不全や心不全、肝硬変などによって発症します。いずれも重症になると脳の機能障害などが起こるため、早めに対処する必要があります。「痙攣」(85ページ)も参照してください。

11にチェックが入った場合は、甲状腺機能亢進症などの可能性があります。甲状腺機能亢進症の人の30パーセントで、排便回数の増加や下痢など消化器関連の症状が現れます。特に高齢者では、食欲がないと訴える人が多くなります。

12にチェックが入った場合は、味覚障害などの可能性があります。味覚障害は高齢者に多く、糖尿病、唾液の分泌不足、ビタミンや亜鉛の欠乏、薬剤の副作用、心理的作用など、さまざまな原因によって生じます。そのため、治療法も原因によって異なります。また、嗅覚に障害がある場合も、食欲が低下します。

13にチェックが入った場合は、副腎不全などの可能性があります。副腎不全は、副腎から分泌されるステロイドが欠乏した状態です。特有の症状がなく、風邪や胃腸の病気と間違えられやすいのですが、見落とされて治療が遅れると生命に関わることがあります。

14にチェックが入った場合は、アルコール依存症などの可能性があります。アルコール依存症の人は、食事をほとんど摂らずにお酒ばかり飲む傾向があります。

15にチェックが入った場合は、薬剤による食欲低下などの可能性があります。食欲低下を引き起こす薬剤は、15に記したもの以外にもたくさんあります。高齢者の場合は、複数の薬剤を飲んでいることが多く、その相互作用によって食欲が低下することがあります。薬剤の作用の可能性がある人は、かかりつけ医に相談して、薬を見直してください。

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1〜15のどれにもチェックが入らなかった人は、以下に進んでください。

□16. 以下の1つ以上に当てはまる:今いる場所がどこかわからない。今の年月日がわからない。相手がだれかわからない。

□17. 物忘れが目立つことを指摘されると、怒ったり、ごまかしたりする。

□18. 以下のような症状がある:うまく歩けない、ふらつく、ろれつが回らない、視力が低下した、些細なことで怒ったり泣いたりする、尿失禁がある、など。

□19. 見えない人に向かって話しかけるなど、リアルな幻覚を見る。

16〜19の1つまたは複数にチェックが入った場合は、慌てなくて結構ですが、病院に行ってください。医師には、チェックが入った項目を告げてください。

アルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症などの可能性があります。可能ならば、認知症専門医または総合診療医を受診してください。

これらの病気(認知症)になると、食事に対する興味がなくなったり、食事するという行為ができなくなったりするため、食欲が低下することがあります。また、認知症治療薬の副作用で食欲が低下することもあります。認知症は、第4章を参照してください。

16〜19のどれにもチェックが入らなかった人は、1か月ほど様子を見て、食欲が回復しない、だんだん食欲が落ちる、ほかの症状が現れたなどの場合は、総合診療医またはかかりつけ医を受診して原因を調べてください。

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「がん」の可能性がある症状 その3
→胸焼け

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胸焼けは、文字通り胸が焼けるような感じのことですが、イメージする状態には個人差があります。基本的には、「酸っぱいものが上がるような感じですか?」と尋ねると、「そうです」と答える人が多いのですが、中にはそうでない場合もあります。そうでない胸焼けの中には、食道がんや胃がん、狭心症などが原因のこともありますから、注意が必要です。

以下の当てはまる項目をチェックしてください。

□1. 以下のような症状がある:早朝、または歩いたり階段を上ったりした時などに胸焼けするが、数分で治まる。吐き気、冷や汗、下顎や肩の圧迫感などがある。

□2. 1のような症状が繰り返し起こる。または胸焼けが続く時間が長くなってきた。

□3. 胸焼けに加えて、食欲低下、体重減少(半年から1年で体重の5%以上)などがある。

1〜3のどれかにチェックが入った場合は、すぐ病院に行ってください。医師には、当てはまる項目を告げてください。

1にチェックが入った場合は、狭心症などの可能性があります。狭心症は、血管の内側にコレステロールが溜まるなどして、心臓に酸素や栄養を送る動脈が細くなり、血流が不十分になった状態です。この状態になると、胸の痛みや圧迫感などが生じて、「胸焼けする」と感じることがあります。ただし、この状態はたいてい数分、長くても15分以内には治まります。

2にチェックが入った場合は、不安定狭心症などの可能性があります。不安定狭心症は、狭心症が悪化しつつあり、心筋梗塞を起こす危険性が高まった状態です。心筋梗塞は、動脈が完全に詰まり、酸素や栄養がいかなくなって、その周辺の細胞が死んだ状態です。

3にチェックが入った場合は、食道がんや胃がんなどの可能性があります。食道がんは、胸焼けなどに加えて、水や食物を飲み込みにくい、ものを飲み込むと喉が痛い、胸が痛いなどの症状が現れることがあります。胃がんでは、黒い便や血便が出る、貧血が徐々にひどくなる、などの症状が現れることがあります。

1〜3のどれにもチェックが入らなかった人は、次に進んでください。

□4. 食後に、胸焼けする。または、みぞおちが痛くなる。

□5. 夜間や早朝など空腹時に、みぞおちが痛くなる。何か食べると痛みが軽くなる。

□6. みぞおちの辺りに焼けるような感じがあり、食事をしたり胃酸を抑える薬を飲んだりすると軽快する。

□7. 胸焼けに加えて、以下のような症状がある:咳が3週間以上続く、肩甲骨の内側が痛い、みぞおちが痛い、喉が痛い、胃酸がこみ上げる、など。

□8. アスピリン(解熱鎮痛薬など)、ビスホスホネート(骨粗鬆症薬など)、鉄剤(貧血の薬など)、NSAIDs(解熱鎮痛薬、胃薬など)、テトラサイクリン(抗生剤など)、カリウム製剤(カリウム補給薬など)、キニジン(不整脈の薬など)などを服用している。または度数の高いお酒をよく飲む。

4〜8のどれかにチェックが入った場合は、慌てなくて結構ですが、病院に行ってください。医師には、チェックの入った項目を告げてください。

4にチェックが入った場合は、胃潰瘍などの可能性があります。胃潰瘍は、胃酸と粘膜保護のバランスが崩れて、胃酸が自分の胃の粘膜を攻撃している状態です。食後にみぞおちや背中の痛みが起こり、軽く食べると痛みが軽くなることがあります。胃潰瘍が悪化している最中には、食後と空腹時とを問わずに胸焼けやみぞおちの痛みなどがある場合もあります。また、多くの患者さんに、ピロリ菌が見つかります。痛み止めの服用も、胃潰瘍発症の危険性を高めます。重症になって潰瘍から出血すると、黒い便や血便が出ることがありますが、この場合は危険性が高いため、すぐに病院に行ってください。

胃潰瘍では、薬による治療だけでなく、生活習慣の改善が重要です。過労やストレスを避ける。規則正しく食事をとる。タバコをやめる。コーヒー、紅茶、緑茶、アルコール、強い香辛料、焼肉、脂肪や繊維質の多い食物など、胃酸の分泌を促進したり、胃に負担がかかったりするものは控える。このようなことに注意して生活することで、再発を予防することができます。

5にチェックが入った場合は、十二指腸潰瘍などの可能性があります。十二指腸潰瘍では、胃潰瘍とは逆に、空腹時に胸焼けや腹痛が起こり、何か食べると症状が軽減します。原因は胃潰瘍と同様で、胃酸と粘膜保護のバランスが崩れて、胃酸が十二指腸を攻撃することで起こります。また、ほとんどの患者さんにピロリ菌が見つかります。潰瘍によって十二指腸が変形すると食物が通りにくくなって、吐き気や嘔吐があります。さらに、潰瘍から出血すると、黒い便や血便が出たり、下血や吐血をしたりすることがあります。この場合は危険性が高いため、すぐに病院に行ってください。

6にチェックが入った場合は、胃炎などの可能性があります。急性胃炎は、暴飲暴食やストレス、ピロリ菌などによって、胃の粘膜が炎症を起こすことで発症します。みぞおちの痛み、吐き気や下痢などを伴うこともありますが、多くの場合は安静にしていると2〜3日で軽快します。慢性胃炎は、解熱鎮痛薬の副作用、ストレス、ピロリ菌などによって胃の粘膜が弱った状態です。みぞおちの痛みや吐き気のほか、お腹が膨れた感じ、ゲップなどが現れます。放置すると進行して胃潰瘍になることがあります。

7にチェックが入った人は、胃食道逆流症(GERD、ガード)などの可能性があります。胃酸の影響で食道が炎症を起こした状態を「逆流性食道炎」、同様の症状があるものの炎症を起こしていない状態を「非びらん性胃食道逆流症」と呼びます。

GERDは、胃酸を含む胃の内容物が食道に逆流する病気で、食後や、仰向け、前かがみになると悪化します。口の中に酸味や苦味を感じたり、咳や声枯れが生じたりすることもあります。肥満、腰痛ベルトなど腹部を圧迫する器具、特定の食べ物(油もの、糖・炭水化物、香辛料、ペパーミント、柑橘類、チョコレートなど)、アルコール、薬が引き金となって発症することがあります。

以下のような点に注意すると、症状が軽快します。

可能であれば、腰痛ベルトなどをやめる。引き金となる食べ物やアルコール、薬を避ける。夜遅く食事をしない(寝る前2時間はものを食べない)。水を飲むと楽になる人は、水を飲む。寝ると胃酸が込み上げる場合は、クッションなどを当てて上体を少し起こして寝る。

8にチェックが入った場合は、薬剤やアルコールなどによって食道が障害されて、炎症や潰瘍を起こしている可能性があります。薬を変えられるかどうか、処方した医師に相談してみてください。市販薬やサプリメントでも食道に炎症が起こることがありますから、思い当たるものがある人は、飲むのをやめて様子を見てください。また、強いアルコールはやめましょう。

4〜8のどれにもチェックが入らなかった人は、1〜2週間様子を見てください。それで軽快すれば大丈夫です。胸焼けが治まらない、だんだん胸焼けがひどくなる、ほかの症状が現れたなどの場合は、総合診療医またはかかりつけ医を受診してください。

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『その症状、すぐ病院に行くべき? 行く必要なし? 総合診療医・山中先生がつくった家庭でできる診断マニュアル』山中克郎 著 CCCメディアハウス ¥1,650(税込)

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【執筆者】山中克郎

1959年三重県生まれ。85年名古屋大学医学部卒業後、名古屋掖済会病院、名古屋大学病院免疫内科、バージニア・メイソン研究所、名城病院、名古屋医療センター、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)、藤田保健衛生大学救急総合内科教授・救命救急センター副センター長などを経て、現在は諏訪中央病院総合内科/院長補佐。笑顔を絶やさない診察は評判で、いつしか「スマイリー山中」と呼ばれるようになった。「総合診療医 ドクターG」(NHK)などにも出演。共編書に『UCSFに学ぶできる内科医への近道』(南山堂)、著書に『八ヶ岳診療日記』(日経BP社)、『医療探偵「総合診療医」─原因不明の症状を読み解く』(光文社新書)、『症状から80%の病気は分かる 逆引き みんなの医学書』(祥伝社黄金文庫)、共著に『ERの哲人─救急研修マニュアル』(シービーアール)などがある。