総合診療医が教える、「寝たきり」になる可能性がある3つの危険な症状

  • 文:山中克郎
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あなたのその症状、ほうっておいては危険ではありませんか? 症状が出たら重要なのは、病院に行く必要のない状態と、早急に病院に行くべき状態をきちんと見分けること。

そこで、その見分け方を指南する本書『その症状、すぐ病院に行くべき? 行く必要なし? 総合診療医・山中先生がつくった家庭でできる診断マニュアル』(山中克郎 著/CCCメディアハウス刊)より抜粋。

「寝たきり」になる可能性がある3つの症状をお届けする。

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寝たきりになる可能性があるというと、脳梗塞や脳出血、あるいは心筋梗塞のような、死に至ることもある病気を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。そして、頭が割れるように痛いとか、突然気を失ったというような、激烈な症状を思い浮かべる
かもしれません。

ところが実際には、特に高齢者の場合は、ふらついて転んだというような些細なことがきっかけで、寝たきりになってしまうことがあります。しかもその原因は、風邪薬を飲んだとか、ビタミンB12不足とか、これもまた些細なことだったりします。あるいはまた、ものが二重に見えるという目の症状が、寝たきりになるような重大な病気の兆候であることもあります。

「寝たきり」という結果と、その前触れである症状の、重大さが一致していないことがあるのです。そのため症状を見逃してしまったり、症状に気づいても放置してしまったりすることがあります。一見些細な、あるいは関係なさそうな症状であっても、「もしかしたら」と考えてみることが大事です。

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「寝たきり」になる可能性がある症状 その1
→めまい

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めまいには、脳に原因がある「中枢性のめまい」と、内耳に原因がある「末梢性のめまい」、そのほかの原因のめまいがあります。救急室にやってくる患者さんの約1割が中枢性のめまいで、約4割が末梢性のめまいです。残りは、片頭痛が原因の片頭痛性めまいや、心因性(ストレス、疲労などが原因)のめまい、胸郭出口症候群によるめまいなど、さまざまです。

重要なのは、めまいが中枢性かどうかを見極めることです。中枢性のめまいは脳の血管に障害が起こって生じるため、対処法を誤ると寝たきりになったり死に至ったりする可能性があります。

めまいに加えて以下があるかどうか、当てはまる項目をチェックしてください。

□1. 家具や手すりにつかまっても、まったく歩くことができない。

□2. 受け答えがどことなくおかしい。話しているうちに眠ってしまう。

□3. うまくしゃべれない(ろれつが回らない)。

□4. ものをうまく飲み込めない、食べたり飲んだりするとむせる。

□5. ものが二重に見える。

1〜5のどれか1つでもチェックが入った場合は、救急車で病院に行ってください。医師には、めまいに加えてどんな症状があるか、チェックが入った項目を告げてください。中枢性のめまいである可能性が高いと考えられます。

中枢性めまいの原因には、小脳梗塞、小脳出血、脳幹梗塞などがあります。小脳は、複数の筋肉を同時に滑らかに動かしたり、体のバランスをとったりする機能などを司っています。脳幹は、呼吸や心臓の動き、意識などの機能を司っています。ここに出血や梗塞(血管が詰まって酸素や栄養がいかなくなること)が起こって、周囲の細胞が死んでしまうのが、小脳や脳幹の出血と梗塞です。

小脳や脳幹が障害されると、意識障害(ぼんやりしている、受け答えがおかしい、反応がない、など)、めまい、立てない、歩くとふらつく、座った姿勢がとれない、ろれつが回らない、目の動きがおかしい、ものが二重に見える、音が聞こえにくい、ものをうまく飲み込めない、手足や顔がしびれる、吐き気・嘔吐など、さまざまな症状が現れます。

ただし、これらの症状がすべて現れるわけではなく、小脳や脳幹のどこに障害が起こったかで、出る症状は異なります。

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1〜5のどれにもチェックが入らなかった人は、以下に進んでください。

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□6. 以下の1つ以上に当てはまる過去に脳梗塞や脳出血、心筋梗塞になったことがある。家族に脳梗塞や脳出血、心筋梗塞になった人がいる。高血圧。糖尿病。脂質異常(高脂血症)。タバコを吸う。男性。55歳以上の女性。

□7. 20分以上めまいが続いている。

□8. 歩けることは歩けるが、非常に困難。

□9. 耳が聞こえにくい、または耳鳴りがする。

□10. 吐き気がする、または吐いた。

□11. 以下の1つ以上に当てはまる:片頭痛がある。スピンする運動(遊具のコーヒーカップなど)が苦手。めまいがするとき、光をまぶしく感じる。

6にチェックが入った場合は、すぐ病院に行ってください。7〜 11のどれかにチェックが入った場合は、1〜2日以内に病院に行ってください。医師には、該当する項目を告げてください。

6にチェックが入った場合は、脳梗塞を発症する危険性があります。脳梗塞は、脳のどこかに梗塞が起こった状態です。栄養バランスのとれた食事、適度な運動、禁煙、充分な睡眠と休養、節度ある飲酒を心がけて、高血圧、糖尿病、脂質異常(高脂血症)などを防ぐ、または改善することで予防できます。

7〜11のどれかにチェックが入った場合は、メニエール病、前庭神経炎、片頭痛性めまいなどの可能性があります。メニエール病は、内耳にリンパ液が溜まることで発症します。激しいめまい、難聴、耳鳴り、吐き気・嘔吐などの症状が、繰り返し起こります。ストレスや疲れ、睡眠不足などがきっかけとなって症状が出るとされています。めまいや吐き気を止める薬はありますが、メニエール病自体を治す薬はまだありません。

前庭神経炎は、耳の奥にある前庭神経(平衡感覚を司る)の炎症によって起こります。ウイルス感染が原因という説が有力で、めまいの前に風邪のような症状が出ることもあります。ぐるぐる回る回転性のめまいが数日間続き、吐き気や嘔吐を伴うこともあります。ただし、難聴や耳鳴りはありません。何もしなくても2〜3週間で治りますが、めまいがひどいと生活に支障が出ますから、症状を和らげる薬を処方してもらうといいでしょう。

片頭痛性めまいは、片頭痛に伴って起こるめまいです。

6〜11のどれにもチェックが入らなかった人は、以下に進んでください。

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□12. 腕のしびれや、肩・胸・背中(肩甲骨の辺り)の痛みがある。

12にチェックが入った場合は、1〜2か月様子を見てください。胸郭出口症候群によるめまいの可能性があります。

12にチェックが入らなかった人は、以下に進んでください。

□13. 頭の位置を変えると、めまいがする(立ったとき、起きたときなど)。

□14. 繰り返しめまいが起こるが、1〜2分で治まる。

13、14のどちらか、または両方にチェックが入った場合は、良性頭位性めまい症の可能性があります。三半規管内にある小さな石(耳石)の位置がずれることによって起こるめまいで、心配ありません。この場合は、2週間ほど様子をみます。2週間ほどで、たいていは放っておいても治りますが、すぐに治したい人は「エプリー法」を試してみるといいでしょう。「エプリー法」でインターネットを検索すると、たくさんのサイトがヒットしますし、YouTubeに動画もあります。

13、14のどちらにもチェックが入らなかった場合は、心因性のめまいなどの可能性があります。慌てなくて結構ですが、総合診療科やかかりつけ医を受診し、医師に相談してください。

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「寝たきり」になる可能性がある症状 その2
→頭が痛い

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頭痛はよくある症状ですが、突然起こった激しい痛みには注意が必要です。特に、まるで雷に打たれたかのように、突然発症して一気に痛みが最高に達する〝雷鳴様頭痛〞は、素早く対処しないと、寝たきりになったり死亡したりする危険性があります。

その頭痛が〝突然〞起こったかどうかは、何をしていたときに起こったか、はっきりわかるかどうかで判断できます。「メールしていたとき」「ニュースを見ていたとき」というように、〝そのとき〞を特定できれば、突然起こった頭痛です。

以下のうち、当てはまる項目をチェックしてください。

□1. 突然、これまでにないほど激しい痛みを感じ、5分以内に痛みが最大になった。

□2. 年齢が50歳以上で、なおかつ今回のようなひどい頭痛は初めて経験した。

□3. 頭痛のあと失神した、意識が朦朧(もうろう)となった。

□4. 頭痛のあと、ろれつが回らなくなった、または体の片側に力が入らなくなった。

□5. 頭痛の前に頭を打った、または頭にケガをした。

□6. 運動中、または性交中に激しい頭痛が起こった。

□7. 激しい頭痛に加えて、38度以上の熱がある、または頸にこわばりがある。

□8.頭痛に加えて、急に視力が低下した、または目がひどく痛い。

1〜7のどれか1つでもチェックが入った場合は、救急車で病院に行ってください。8にチェックが入った場合は、すぐ病院に行ってください。自力で行けない場合は、救急車で行ってください。医師には、チェックが入った項目を告げてください。

1〜7にチェックが入った場合は、くも膜下出血、脳出血、脳梗塞、内頸動脈や椎骨動脈の解離、下垂体腫瘍からの出血、脳静脈洞血栓症、細菌性髄膜炎、巨細胞性動脈炎など、8にチェックが入った場合は急性閉塞隅角緑内障(急性緑内障発作)などが考えられます。

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くも膜下出血は突然死の原因になる病気で、脳動脈瘤(脳の血管にできた、瘤のような膨らみ)が、突然破裂することで発症します。

脳出血は、脳の血管が破れて出血し、その血液の塊が脳細胞を圧迫し、壊してしまうことによって、さまざまな症状が出ます。

脳梗塞は、脳の血管が詰まり、血液が流れなくなって酸素や栄養が届かず、周囲の脳細胞が死ぬことで発症します。血栓による脳梗塞(血の塊が血管に詰まった状態)の場合は、4時間半以内に血栓を溶かす薬を投与すると高い治療効果が見込めるため、処置の可能な病院にできるだけ早く行く必要があります。

動脈解離とは、3層構造になっている血管の層が、剥がれてしまった状態です。最悪の場合には、血管そのものが破れてしまうこともあります。内頸動脈解離と椎骨動脈解離は、この動脈解離が首から頭にかけての重要な血管に起こった状態です。

下垂体腫瘍からの出血は、ホルモンの分泌を司る脳の中の小さな器官・下垂体に腫瘍ができ、そこから出血した状態です。腫瘍そのものはほとんどの場合良性ですが、出血すると、激しい頭痛や急激な視力の低下が起こります。

脳静脈洞血栓症は、血液が脳から心臓へ戻る経路の途中にある脳静脈洞という箇所が、血液の塊で詰まることによって発症します。

細菌性髄膜炎は、細菌によって髄膜(脳と脊髄を覆う膜で、外側から硬膜、くも膜、軟膜から成る)と、くも膜下腔(くも膜と軟膜の間の空間)に炎症が起こった状態です。初期には頭痛、発熱、吐き気など風邪のような症状が現れ、発症から13〜20時間ほど経つと、皮下出血、湿疹(皮疹)、息苦しさ、光をまぶしく感じるなどの症状が出ます。

巨細胞性動脈炎は、側頭動脈(頸から頭にかけての側面を走る動脈)に起こることの多い炎症です。原因は不明ですが、50歳以上の人に発症し、リウマチ性多発筋痛症を伴う場合が多いことなどがわかっています。

急性閉塞隅角緑内障(急性緑内障発作)は、眼球内部の圧力が高くなることで発症し、早急に圧力を下げないと失明する危険性があります。

1〜8のどれにもチェックが入らなかった人は、頭痛に加えて以下のような症状があるかどうか、当てはまる項目をチェックしてください。

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□9. 吐き気がする、または吐いた。

□10. 太陽や電灯などの光を見ると、まぶしくてイヤだ。音がうるさくてイヤだ。人に話しかけられるのがイヤだ。

□11. 仕事や家事ができない。寝込んでしまった。

9〜11のうち、2項目以上にチェックが入った場合は、12に進んでください。0または1項目しかチェックが入らなかった人は、17に進んでください。

□12. 家族に頭痛持ちの人がいる。

□13. 頭の片側が痛い。

□14. ズキン、ズキンと、脈打つように痛い。

□15. チョコレートやチーズ、赤ワインが好き。

□16. 月経の前後に頭痛が起こった。

12〜16のうち、3項目以上にチェックが入った場合は、頭痛がひどいようでしたら、慌てなくて結構ですが、かかりつけ医を受診してください。医師には、チェックが入った項目を告げてください。片頭痛の可能性があります。

病院に行かなければならないほどひどい頭痛の多くは、片頭痛です。ただし、片頭痛は通常40歳より前に発症し、繰り返し起こります。一方、50歳を過ぎて初めてのひどい頭痛は、緊急性の高い病気の可能性があります。もともと片頭痛のある人でも、一度も病院で診断を受けていない場合や、いつもの頭痛と違う場合には、速やかに病院に行ってください。

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なお、片頭痛は以下のような点に気をつけることで軽減できます。

・規則正しく食事や睡眠をとり、寝不足や寝過ぎ、空腹を避ける。

・学校や仕事は、できるだけ規則正しく行く。

・適度な運動を毎日して、水分をきちんと摂る。

・チョコレート、チーズ、赤ワイン、カフェイン(コーヒー、紅茶、緑茶など)、人工甘味料、うまみ調味料を、できるだけ摂らないようにする。

・音楽を聴いたり体操をしたりして、リラックスする。

・頭痛が起きそうだと感じたら、早めに鎮痛薬を飲む。

12〜16のうち、0〜2項目にしかチェックが入らなかった人は、以下に進んでください。

□17. 目の周りに、アイスピックで刺されたようなひどい痛みがある。

□18. じっとしていると痛みがひどくなる。

□19. 涙や鼻水が出たり、鼻が詰まったりする。

□20. 夜間、きまった時刻に頭痛が起こる。

17〜20のどれか1つでもチェックが入った場合は、すぐに病院に行ってください。医師には、チェックが入った項目を告げてください。

群発頭痛などの可能性があります。群発頭痛は、一次性(原因となる病気がほかにない)頭痛で、発症するのはほとんどが男性です。15分〜3時間程度、目の周りを中心にひどい痛みが続き、痛みは1日に数回もしくは数日に1回現れます。そして、数週間続いたかと思うと、数か月はまったく起こらない、といった周期を繰り返します。

17〜20のうち、どれにもチェックが入らなかった人は、以下に進んでください。

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□21. 鎮痛薬を、月15日以上、3か月以上にわたって飲み続けている。

21にチェックが入った場合は、慌てなくて結構ですが、かかりつけ医を受診してください。医師には、チェックが入った項目を告げ、「鎮痛薬の飲み過ぎによる慢性頭痛」の可能性がないか、聞いてみてください。嘘のようですが、鎮痛薬を飲み続けることによって、頭痛が起こることがあります。

21にチェックが入らなかった人は、以下に進んでください。

□22. 痛みがあるが、がまんできないほどではない。

□23. パソコンに向かっての作業など、同じ姿勢を長時間続けている。

□24. 精神的ストレスがある。

22〜24のうち、1つでもチェックが入った場合は、1〜2週間様子を見てください。緊張型頭痛の可能性があります。

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緊張型頭痛は、長時間の無理な姿勢や精神的ストレスによって起こることが多い頭痛です。首や肩の凝りを伴うことがありますが、吐き気や嘔吐はなく、それによって仕事や家事ができなくなることもありません。

原因が思い当たる人は、原因を改善することで頭痛も改善します。ときどき休憩したり体操をしたりして筋肉の緊張をほぐす、音楽やアロマを活用してリラックスするといったこともいいでしょう。ただし、片頭痛と混合している人も多いため、日常生活に支障が出るほどになった場合は、かかりつけ医に相談してください。

ここまでのどれにもチェックが入らなかった人も、頭痛が我慢できないほどひどい場合、いつもの頭痛と違う場合、ひどい頭痛が3日以上続く場合、徐々に頭痛がひどくなる場合、脳神経が原因で起こる症状(麻痺や感覚異常など)を伴っている場合、50歳以上の場合などは、病院に行ってください。脳腫瘍などの可能性があります。

また、高血圧、脂質異常(高脂血症)、動脈硬化、糖尿病などのある人や、喫煙者、以前に脳梗塞や脳出血を起こしたことがある人などは、血管に異常が起こる危険性が高いため、注意が必要です。

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「寝たきり」になる可能性がある症状 その3
→ろれつが回らない

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救急室には時々、「ろれつが回らない」「言葉がもつれる」と訴える患者さんがやってきます。これは、意図した通りに音を出して話すことができない状態です。患者さんは一生懸命話すのですが、周囲の人には聞き取りにくく、何を言っているのかよくわかりません。このような状態を、医学用語では「構音(こうおん)障害」と呼びます。

構音障害の原因には、生まれつき口の機能に障害がある場合や、舌がんや上顎がんなどの手術によって機能障害が生じた場合などもあります。けれども、中高年になって突然ろれつが回らなくなった場合は、脳梗塞などが原因のことが往々にしてあります。これを見逃さないようにすることが大事です。

ろれつが回らない状態は、手足の麻痺と同様に、顔や口などを動かす司令塔の脳、脳からの指令を伝える神経、神経と顔面の筋肉の接合部、そして筋肉の、どこに障害があっても起こります。ろれつが回らないことに加えて以下があるかどうか、当てはまる項目をチェックしてください。

□1. 「パパパパ」「タタタタ」「カカカカ」が言いにくい。

□2. 声がかすれた、または鼻声になった。

□3. 食べ物や水が飲み込みにくい。

1〜3の1つ以上にチェックが入った場合は、救急車で病院に行ってください。医師には、チェックが入った項目を伝えてください。

ワレンベルグ症候群(延髄梗塞)、脳腫瘍、ギラン・バレー症候群などの可能性があります。

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ワレンベルグ症候群は、延髄の外側に起こった脳梗塞です。顔の感覚に異常が現れるのが特徴で、構音障害、声が枯れる、めまい、吐き気、飲み込みにくい等の症状があります。

脳腫瘍は、脳にできる腫瘍で、良性から悪性まで性質はさまざまです。脳のどこにでもできる可能性があり、どこに腫瘍ができたかによって現れる症状が異なります。

ギラン・バレー症候群は、典型的には、数日から数週間の間に、足の下の方から上に向かって徐々にしびれが広がっていきます。

1〜3のどれにもチェックが入らなかった人は、すぐ病院に行ってください。ろれつが回らなくなる原因には、大きなストレスや不安障害など、精神的なこともありますが、何が原因か自分では判断できないことが多いと思います。脳血管障害の可能性がありますから、まずは病院に行って、その有無を早急に調べることが重要です。

ただ、どんな病気の可能性があるかを知っておくと、ある程度の心づもりができますから、そのための目安を記しておきます。当てはまる項目をチェックしてください。

□4. 母音がわかりにくく、音を引きずるような話し方をする。

□5. 意図しないのに、急に泣いたり笑ったりする。

□6. ペットボトルの蓋が開けにくい、ボタンがかけづらいなど、指先に力が入らなくなった。

□7. 階段を上ると脚がだるい、歯磨きをすると腕がだるいなど、脚や腕に力が入りにくくなった。

□8. 朝はよいが、時間が経つに連れて徐々に状態が悪化する。

□9. まぶたが垂れ下がる、ものが二重に見える。

4〜9のどれかにチェックが入った場合は、多発性ラクナ梗塞、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性筋炎、重症筋無力症などの可能性があります。

多発性ラクナ梗塞は、脳の微細な血管に梗塞がたくさん起こった状態で、進行すると血管性認知症を発症することがあります。

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多発性硬化症は、神経を覆っている鞘(髄鞘)が壊れて、神経がむき出しになってしまうことによって発症します。原因はまだ不明ですが、本来ならば自分の体を外敵から守るはずの抗体(免疫細胞が作り出す武器のようなもの)が、自分自身の組織などを攻撃してしまうために起こる、自己免疫疾患の一種ではないかという説が有力です。

ALSは、筋肉を動かす神経が障害を受けることによって、全身の筋肉が弱っていく病気です。遠位筋(体の中心から遠い筋肉)から力が入らなくなるのが特徴です。

多発性筋炎は、自己免疫疾患の一種です。自分の免疫細胞に攻撃されて筋肉に炎症が起こり、力が入りにくくなったり、疲れやすくなったりします。

重症筋無力症も、自己免疫疾患の一種です。筋肉を使えば使うほど力が入らなくなるため、1日の中で遅い時刻になるほど症状が悪化します。

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『その症状、すぐ病院に行くべき? 行く必要なし? 総合診療医・山中先生がつくった家庭でできる診断マニュアル』山中克郎 著 CCCメディアハウス ¥1,650(税込)

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【執筆者】山中克郎

1959年三重県生まれ。85年名古屋大学医学部卒業後、名古屋掖済会病院、名古屋大学病院免疫内科、バージニア・メイソン研究所、名城病院、名古屋医療センター、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)、藤田保健衛生大学救急総合内科教授・救命救急センター副センター長などを経て、現在は諏訪中央病院総合内科/院長補佐。笑顔を絶やさない診察は評判で、いつしか「スマイリー山中」と呼ばれるようになった。「総合診療医 ドクターG」(NHK)などにも出演。共編書に『UCSFに学ぶできる内科医への近道』(南山堂)、著書に『八ヶ岳診療日記』(日経BP社)、『医療探偵「総合診療医」─原因不明の症状を読み解く』(光文社新書)、『症状から80%の病気は分かる 逆引き みんなの医学書』(祥伝社黄金文庫)、共著に『ERの哲人─救急研修マニュアル』(シービーアール)などがある。