日本酒の世界に入って久しい私だが、約8年前から本腰を入れて飲み続けている本格焼酎の昨今の情勢に、惹かれて仕方がない。特に芋焼酎。いままでは芋の風味が強いものか、洗練された味のどちらかに分類できる酒だったが、第三の味が出現した。原料には間違いなく芋を使っている。ところが、明確に香りも味も芋焼酎の範疇を超えているのだ。
1.紫芋と赤ワイン酵母の出合いが生む、熟した果実のような豊満な甘み
まず、「蔵(くら)の師魂(しこん) The Pink」がそうだろう。ワイン酵母を使ったこの酒は、ブドウの果皮のような香りがあり、熟したフルーツやコンポートを思わせる果実味に舌を疑いたくなる。これは本当に芋焼酎?
2.芋焼酎の概念を覆す爽快な味わいは、まさにクールでミントでグリーン!
「クールミントグリーン」を飲んでさらに絶句した。新緑の香りが匂い立ち、名前に寸分違わぬミントの爽快な味がする。バナナのような香りが出る“鹿児島香り酵母1号”を使って原料とともに一度で仕込み、蒸留後に熟成したところ、ミントの風味が生まれたというから驚きだ。
3.酒蔵のスピリットを集約させた、口に運ぶたびに唸らされる奥深い味
創業時から酒蔵に棲む種麹菌や酵母菌を生かし、新しい味に挑戦した「Amazing」も特筆したい。麹室に棲みついている焼酎用の白麹菌や黒麹菌の他、なんと秘かに生息していたという日本酒に使う黄麹菌を混合させ、独自のハイブリッドな麹を開発。熟成オレンジ芋とともに酵母無添加で仕込んだ、酒蔵の歴史と哲学が詰まった一本だ。南国フルーツのような香りが鼻をくすぐり、口に含むとライチやカボチャなど、複雑な甘い風味と長い余韻にため息。
いずれもまずはストレートで、それから、ロックに“ちょい炭酸”が筆者のお薦めです。
●今月の選酒人:山内聖子
呑む文筆家・唎酒師。日本酒歴は18年以上。日々呑んで全国の酒蔵や酒場を取材し、雑誌『dancyu』や『散歩の達人』など数々の媒体で執筆。著書に『蔵を継ぐ』(双葉文庫)、『いつも、日本酒のことばかり。』(イースト・プレス)。