再生宿を起点に、建物と文化を未来へ継承する

  • 文:小長谷奈都子
  • 写真:福森クニヒロ
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旧東海道沿いの近江屋は、もと呉服屋をリノベした建物。フロントとレストラン、ラウンジ、客室が入る。7棟中5棟が一棟貸しで、全室バス&トイレ付き。

古民家や空き店舗のリノベーションをきっかけに、地域の魅力を掘り起こし、活性化させるためのハブとなる宿がある。土地の文化や暮らしを未来へつなぐための取り組みとは?

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丸屋町商店街に立つ「丸屋」は、開放的な空間。坪庭には近江八景のひとつである「唐崎夜雨(からさきのやう)」で有名な松にちなんで松を植栽し、大津の歴史や文化を表現。

1976年にイタリアで誕生した「アルベルゴ・ディフーゾ(分散型ホテル)」という概念がある。街に点在する空き家をひとつの宿として活用し、宿泊客はその土地の歴史や文化を体験しながら、暮らすように滞在する。日本でも、持続可能な地域復興の手法として注目され、広がりを見せている。

その代表的な成功事例が、滋賀県大津市にある「商店街ホテル 講 大津百町」だ。商店街全体をホテル化した日本初の試みで、「街に泊まって、食べて、飲んで、買って」がコンセプト。宿泊客が街を楽しむことで地域が元気になる、新しい“メディア型ホテル”を標榜する。滋賀で木造注文住宅を専門にする谷口工務店と、雑誌『自遊人』を発行し「里山十帖」などの宿泊施設を経営する企業との協同プロジェクトだ。

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左:丸屋の外観。玄関先には琵琶湖の水を連想させる蹲(つくばい)を設置。 右:丸屋の寝室。ベッドはアメリカのシーリー社、布団は京都の高級寝具店イワタのもの。全棟の設計は無有建築工房の竹原義二が担当。棟ごとに異なる意匠や空間を楽しめる。

かつて東海道五十三次の最大の宿場町として栄えた大津。ホテルは、旧東海道と商店街に立つ築100年前後の町家7軒を改修。デザインだけでなく快適性を追求し、床、壁、天井をすべて剥がして補強、断熱、防音工事を徹底。伝統的建造物を今後100年残すという長期的視点は、オーナーが地元工務店だからこそ生まれた。

注目すべきは、建物というハード面だけではない。大津周辺には三井寺、石山寺など歴史的資産が多く、琵琶湖は景観のみならず、淡水魚の宝庫でもあり、鮒ふなずしという独自の食文化が残る。さらに商店街は老舗や宮内省御用達といった名店揃い。こうした隠れた魅力に光を当て、新たな交流を促すのがホテルのソフト面での大きな役割だ。無料の商店街ツアーや町家ツアーを組み、SNSで積極的に周辺情報を発信している。

開業して3年。宿泊客は大津の多彩な魅力を知って喜び、地域住民はイベントを自発的に提案するようになった。宿場町として栄えた街は、また宿を起点に活気を取り戻しつつある。

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丸屋町、菱屋町、長等(ながら)という3つのアーケード商店街が連なる大津中心部。一棟貸しの「鈴屋」は菱屋町にあり湖魚を扱う「タニムメ水産」の隣

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各棟にはデンマークの名作家具を配置。鈴屋の1階にはイブ・コフォード・ラーセンの椅子、フレデリシアのテーブルが。

商店街ホテル 講 大津百町

近江屋(フロント棟)
住所:滋賀県大津市中央1-2-6
TEL:077-516-7475 
全13室 
料金:鈴屋¥71,400~、丸屋¥82,400~ ※1室2名利用時の2名の料金、朝食付き、税・サービス料込み
アクセス:JR大津駅から徒歩約7分、大津ICからクルマで約10分 
http://hotel-koo.com

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※この記事はPen2021年10月号「捨てない。」特集よりPen編集部が再編集した記事です。