既存のシステムに疑問を抱き、クリエイティブの力で「捨てない」社会を実現しようと奮闘する表現者をピックアップ。
“アップサイクリスト”の輪を広げ、ゴミを宝物に変えるアイデアマン
西村正行(にしむら・まさゆき)●1981年、山口県生まれ。神奈川・茅ヶ崎を拠点に建築廃材を扱う「ピースクラフト」で、家具の製作や住宅のリノベーション、店舗デザインを手がける。アップサイクルジャパンの代表としては、サステイナブルなモノづくりの方法論を異業種の仲間とともに提唱。食品ロスの問題にも取り組む。www.upcycle.co.jp
工務店で働いていた西村正行さんは、遠方から材木を調達して大量の廃材を出す、既存の建築業界のシステムに疑問を抱いていた。ある時、「アップサイクル」という言葉に触発され、「何十年もかけて成長した尊い木を不要だからと捨てるのではなく、生まれ変わらせることが僕の使命」と決意し、独立。
建築廃材で内装やリノベーションを手がける会社を設立すると同時に、「アップサイクルジャパン」を立ち上げた。捨てられていた廃材にアイデアを加え、プロダクトに生まれ変わらせる仲間たち=“アップサイクリスト”を広報・支援する団体として、志をともにする人たちの情報発信を行っている。ユーズドデニムでダルマを製作する清水葵や、未利用魚のみを扱うレストラン「カイズキッチン」の甲斐昴成といった仲間とともに、その輪を広げている。
ひとつずつ違う木の表情を活かし、端材をコースターや鍋敷きなどにアップサイクル。神奈川を中心に、全国に加盟店を広げ、情報を共有している。
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廃棄される酒粕を原料にした、ひと味違うクラフトジンに挑む
山本祐也(やまもと・ゆうや)●1985年、石川県生まれ。2014年より日本酒のセレクトショップ「未来日本酒店」を運営。全国の蔵元の若手を集めてフェスを開催するなど「未来の基幹産業をつくる」をテーマに活動、18年に農林水産大臣より6次産業化推進事業者の認定を受ける。20年に仲間とエシカル・スピリッツを創業。https://ethicalspirits.jp
photo : Kenichi Fujimoto
日本酒のセレクトショップを経営していた山本祐也さんは、全国の酒蔵を回るたび、酒粕の大量廃棄の問題を目の当たりにした。もろみを搾った後に残る酒粕にはアルコールも旨味も十分ある。これを再蒸留してジンへ生まれ変わらせることで付加価値をもたらそうと、山本さんはエシカル・スピリッツを創業。
第一弾の「ラスト」では日本酒「千代むすび」の酒粕を主原料に独自のレシピを考案。国際的な権威ある品評会「IWSC 2021」で日本初の最高金賞を受賞した。続いて、飲み頃を過ぎたビールを蒸留した「リバイブ」や、チョコレートの製造過程で廃棄されるカカオの外皮を使った「カカオ エシーク」を発表。今年7月には蔵前に「東京リバーサイド蒸溜所」をオープン。現在はつくば市の森林研究所と協業し、世界初の“木の酒”に挑戦している。
“飲む香水”と評される「ラスト」はジンジャーなど6種のボタニカルを使った爽やかなジン。直営店と公式オンラインストア、一部百貨店で販売。
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年間1億トン無駄になるもみ殻が、活性炭を凌駕する新素材に
田畑誠一郎(たばた・せいいちろう)●1977年、鹿児島県生まれ。ソニー入社後、バイオマスを用いたリチウムイオン電池材料の研究開発に携わる。その過程で、もみ殻を原料として水や空気の浄化が可能な新素材・トリポーラスを開発。2014年度の21世紀発明奨励賞や、2020年度グッドデザイン賞の受賞に貢献。www.sony.com/ja/SonyInfo/triporous
田畑誠一郎さんは2006年から新素材の開発に従事。リチウムイオン電池の電極に使用する炭素材料を研究する過程で、もみ殻の特徴に注目した。もみ殻の細胞には大きさの異なる天然の二酸化ケイ素(シリカ)が存在することを発見。
もみ殻を炭化した後にシリカを除去し、水蒸気による熱処理を行うと、大・中・小と大きさの異なる細孔をもつ多孔質炭素材料「トリポーラス」が出来上がる仕組みだ。従来の活性炭に比べて空気中・水中に浮かぶ分子をすばやく広範囲に吸着できるという。米の脱穀の際に出るもみ殻の廃棄量は世界中で年間約1億トン。
「世界中で捨てられている余剰バイオマスを利用することで、社会に貢献したい」と田畑さん。近年、衣料品や化粧品など異業種とのコラボによる製品化が次々に発表され、今後の展開にも期待が高まる。
従来の活性炭に比べてさまざまな物質の吸着力に優れているトリポーラス。肌の汚れを吸着するメンズ化粧品や、脱臭効果のある靴下にも採用。
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ビニール傘をバッグに変え、10年後になくなるブランドを謳う
齊藤明希●(さいとう・あき)1992年、千葉県生まれ。2011年、英リーズ大学コミュニケーションズ学科卒業。帰国後さまざまな業界での仕事を経験後、アップサイクルに興味をもつ。18年、ヒコ・みづのジュエリーカレッジのバッグメーカーコースに入学し、在学中の20年にプラスティシティを立ち上げ、デビュー。https://plasticity.co.jp
ビニール傘の廃棄は年間約8000万本。金属やビニール、プラスチックなどの異素材を組み合わせてつくられるビニール傘は分解が難しく、その多くが埋め立て・焼却処分されている。
齊藤明希さんは専門学校時代にアップサイクルに興味をもち、廃棄ビニール傘を使ったバッグを制作。彼女のデザインや理念に共感した、リサイクル製品の企画・製造を行うモンドデザインの協力により、製品化へと至った。「リサイクル素材とはいえ、欲しいと思えるデザインでなければ意味がない」と齊藤さん。チープな印象にならないよう試行錯誤し、ビニールを何枚も重ねてプレスする方法にたどり着く。バッグは耐久性がありながら、和紙のような質感が魅力だ。自身のブランドを通して、不要ビニール傘を100円分のポイントと交換するプログラムも実施する。
材質や厚みの異なるビニールを何層も重ね、プレスを行うことで、独特な表情に。トートバッグL¥15,400/プラスティシティ・TEL:03-6419-7361
※Pen2021年10月号「捨てない。」特集よりPen編集部が再編集した記事です。