腕時計は何年も使い続けるものであり、所有し続けるにあたり車検も保険も必要なく税金もかからないから何本も持っていられる耐久消費財です。では、私たちのライフステージの各段階ににおいて腕時計を入手するにあたり、年齢に対応づけられた“このタイミングが旬な腕時計”って存在するものでしょうか?
20代はどんな基準で時計を選ぶべき?
今回は、まず20代におすすめしたい腕時計をご紹介します。最近では20代と思われる若い人たちは腕時計をしていないですよね。私のようなオジサン世代にとって腕時計とは自分で自分の時間を管理できる大人のするアイテムの代表だったわけで、中学入学のお祝いの定番としては腕時計と万年筆がありました。
いつしか万年筆は誰もが持ち歩くものではなくなってしまい、趣味の文房具に収まってしまったのはご存じのとおりです。この事例と同様に個人が持ち歩くタイムピースの標準がスマートフォンになった現在、腕時計の存在とその歴史は減衰し途切れてしまうかもしれない危機感があります。そこで、楽しみながら腕時計の歴史を身につけられるという視点で5本の腕時計を選んでみました。
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20代におすすめのメンズ腕時計① シチズン エコドライブ・プロト
腕時計の歴史を紐解いていくと、そこで行われていた技術革新とは大きく2つのテーマを実現することを目標にしていました。まずは時間精度の追求。そして腕時計を動かすエネルギー問題です。シチズンのエコ・ドライブとは、腕時計が電池で動くようになった時代に電池交換の手間を省くエネルギーフリーの視点で開発されたもの。
文字盤にソーラーパネルを設置して光から発電し、その電力を時計に内蔵した2次電池に貯めてクォーツ式のムーブメントを駆動するというのが基本的な構成です。エコ・ドライブの起源は1976年に発売された“シチズン・クリストロンソーラーセル”というモデルですが、そのプロトタイプが1974年には開発されており、エコ・ドライブの礎でありながら日の目を見なかった試作機の手書き図面からインスパイアされたデザインで登場したのが“エコ・ドライブ プロト”です。再生可能エネルギーと蓄電池の組み合わせという技術って、随分と昔から使われていたんですね。
20代におすすめのメンズ腕時計② セイコー PRESAGE Style60's
無観客で静かに行われた2020東京オリンピック・パラリンピックは歴史の教科書に大きく記載されるとは思いますが、数多くの老いた日本人の心に成功体験として刻まれているのは1964年に開催された東京オリンピックだと思います。セイコーはそのとき初めてオリンピックの公式計時を担当。1964年の時点では、まだクォーツ式の腕時計は世の中に存在していません。スポーツに本気で向き合う人の気持ちを表現した“スポーツマチック”などのモデルが登場したのもこの頃でした。
1960年代のスポーツモデルが持っていたエレガントで精悍なヴィンテージスタイルを現代の感性と最新技術で再構築した新シリーズ『Style60’s』がベースとしたモデルは、1964年発売の“クラウン クロノグラフ ”。それは国産初のクロノグラフ 機能を搭載した腕時計でした。『Style60’s』は現在時刻を表示するだけのシンプルな機構。でも41時間の駆動時間を持つ機械式の自動巻ムーブメントを搭載する、高コストパフォーマンスな仕様なのです。
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20代におすすめのメンズ腕時計③ カシオ Gショック GMW-B5000PB
カシオ計算機が腕時計に進出したのは1974年。以来さまざまな製品をリリースしてきましたが、最大の伝説といえば1983年に革命的なコンセプトで登場したGショックです。それまでの腕時計のように丁寧に扱う必要がなく、落としても壊れないのがGショック最大の特長。その堅牢性を支えていたのは外装とバンドにショックを吸収する樹脂を用い、ケースに収めたムーブメントを宙に浮くように配置するというアイデアでした。
初代Gショックの形状を樹脂ではなくメタルで再現しつつ耐衝撃性能も担保したのが5000シリーズ。Gショックといえばエクストリーム系スポーツとの親和性が高いですけど、樹脂だから可能だったことを比重の重い金属に置き換えてしまえ!というブッ飛んだ目標を現実する物づくりの姿勢もエクストリーム系ですよね。できるかどうか悩む前に、やってみる。いい意味でクレイジーな部分があるのが、Gショックのアイデンティティなのだと思います。
20代におすすめのメンズ腕時計④ ハミルトン PSR
ハミルトンは19世紀末にアメリカで創業した腕時計ブランド。20世紀には鉄道時計や航空時計、そして2つの世界大戦では米軍用腕時計を大量に製造したことでも知られています。戦後も技術革新に邁進し、世界初の電池(電磁テンプ)式の腕時計“ベンチュラ ”を開発。その次のステップとして莫大な開発費を投入して1970年に発表された世界初のデジタルウォッチが“パルサー タイムコンピューター”でした。“PSR”は1973年に市販開始されたP2というモデルの外観を3Dスキャンで完全再現したモデル。
デジタル黎明期のキラキラした未来感が魅力です。デジタル製品は開発費用がかかりますが、2番手以降なら設備投資すれば誰でも参入が可能。そんな流れで瞬く間に後発メーカーの追い上げによる価格競争に負けて、パルサーという商標はセイコーに売却されたことから“Pulsar”ではなく“PSR”と称していますが、世界初のデジタルウォッチの系譜を見事に蘇らせた素敵な腕時計です。
20代におすすめのメンズ腕時計⑤ オメガ スピードマスタープロフェッショナル
果たして本当に人類は月に降り立ったのか? という疑問に対する真実は公開されていませんが、月旅行のミッションに実際に参加していた腕時計といえば“スピードマスター プロフェッショナル”です。1960年代、アメリカと旧ソ連邦は政治的対立構造にあり、お互いの国土に核弾頭を搭載した大陸間弾道ミサイルを打ち込む技術開発に奔走していました。すこしばかり技術に遅れをとっていたアメリカとしては、より遠くに飛ばせる高性能のロケット(ミサイル)技術を持っていることを誇示するという目的で人類を月に1960年代のうちに送り込みたいという野望があったわけです。そのスペースミッションに、市販品であるオメガのクロノグラフ が選定されたというドラマは20世紀の逸話として語り継ぐ価値があると思います。ちなみに私は20代でスピードマスターを入手してから数十年が経過。その印象は古びることなく現在も愛用しています。あの当時、勇気を持って購入した自分を褒めてあげたい気分です。
ということで、20代の男性におすすめの腕時計5本を紹介しました。とはいえどのような選択にせよ、それが遅すぎるということはありません。だからこれらの腕時計は20代をとっくに過ぎてしまった諸兄にも入手する価値がありますし、もちろん女性が身につけていても素敵であると付け加えさせていただきます。次回は30代におすすめの5本を予定していますので、どうぞお楽しみに。
ライター
1964年東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒。松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間務める。在職中から腕時計やカメラの収集に血道をあげ、2002年に独立し「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」などの雑誌やウェブの世界を泳ぎ回る。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)など。
1964年東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒。松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間務める。在職中から腕時計やカメラの収集に血道をあげ、2002年に独立し「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」などの雑誌やウェブの世界を泳ぎ回る。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)など。