現代アーティスト・小松美羽らが考える、地球の未来とは?

  • 写真 :東 達也
  • 文:藤井麻未
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米大統領ジョン・F・ケネディが宣言し実現させた人類の月面着陸(「ムーンショット」)から60年。テクノロジーは著しく進歩したが、いま私たちは世界的なパンデミックに直面し、環境、社会、技術を熟考すべき時に来ている。去る8月11日、デジタルガレージが主催したカンファレンスでは、宇宙から地球を俯瞰し、これからの未来・テクノロジーを考える「アースショット」を提唱。メインキービジュアルを描いた現代アーティスト小松美羽、伝説の雑誌「ホールアースカタログ」創始者であるスチュワート・ブランドなどの言葉を中心に、これから目指すべき社会、地球の在り方を探った。

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かのスティーブ・ジョブズも影響された「ホールアースカタログ」とは

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「アースショット」を考えるうえで忘れてはならないのが、1960年代に刊行された「ホールアースカタログ(以下、WEC)」だ。インターネット登場以前、地球上でよりよく生きるために必要なあらゆる商品とその入手方法を含めて紹介した伝説のカタログ誌であり、Apple社を創設したスティーブ・ジョブズをして「まるでGoogleのペーパーバック版だ」と言わしめた。これが後にIT革命の基礎となり、ジョブズをはじめシリコンバレーに大きく影響を与えた。

WECの構想は、当時偉大な思想家であったバックミンスター・フラーに影響を受けており、創始者であるスチュワート・ブランドは、フラーの講演から「地球の有限性を前提にどう生きるか」という問題意識をWECに投影しているという。

現代アーティスト小松美羽が作品に込めた、「アースショット」への思い

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小松美羽(こまつ・みわ)●1984年、長野県生まれ。銅版画『四十九日』が注目を集めプロの道へ。有田焼の立体作品『天地の守護獣』が大英博物館に収蔵、『INORI~祈祷〜』が第76回ヴェネツィア国際映画祭VR部門にノミネートされるなど、その作品は国内外で高い評価を得ている。

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今回、カンファレンスでひと際目を引いたのが、「祈り」の現代アーティストとして知られる小松美羽のライブペイントだ。「アースショット」のメインキービジュアルとして高野山別格本山三宝院で描きあげた作品『NEXT MANDALA~魂の故郷』を初披露。今作品は、地球を俯瞰した「アースショット」のシンボルとして、曼陀羅と東西2対の龍を描いたものだ。会場にて祈りを捧げ、魂となる“目”を描き入れた直後の小松に話を聞いた。

「物質的な豊かさを求める人間の活動は、急速な発展をもたらしました。けれど地球に大きなダメージを与えてきました。物質はさまざまな学びをもたらす一方、欲望、苦しみ、差別なども生み出す諸刃の刃。これに対して非物質的な魂や霊性というものは純粋で清らかなものだと思うのです」

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「時代は、大加速=Great Accelerationから大調和=Great Harmonizationへと移っています。これからは、各々の魂や霊性が求めるものを探ること、自らに与えられた役割や責任を自覚して全うすることが本当の意味での幸せに繋がるのではないでしょうか。物質的な快楽のみに邁進するのはなく、いかにして地球と調和してゆくか(Harmonization)が大切だと思うのです」と語った小松。

高度成長時代はテクノロジーの発展を目指し地球から宇宙を眺めてきたが、地球そのものが脆くなってきたいま、今度はそのテクノロジーを使って宇宙から地球を俯瞰し、調和を目指さなければいけない。生きとし生けるものすべての融合を説いた空海の教えに同調するように、曼荼羅をモチーフとした作品にはそんな思いが表現されている。

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WEC創始者・スチュワート・ブランドからのメッセージ

今回はサンフランシスコと中継を結び、IT革命の礎ともなったWECの創始者・スチュワート・ブランド本人の考えも聞くことができた。

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「時代が移り変わる中で、引き続き環境負荷は続くかもしれない。そんな中でも可能な限り調和を目指すHarmonizationという考えはよい。曼荼羅はシンプルながら、一方で生きとし生けるものすべて、世界で起こっているさまざまな物事がどうなっているかを表している。そういった空海のスピリットを現代アートとして形にした小松美羽の作品は、まさにアースショットのアイコンとしてはピッタリだ」と、小松の作品にも言及した。

また、現在スチュワートが代表を務める「ロング・ナウ協会」は、1万年単位という非常に長期に渡るスパンで文化的施設や機関の基盤となることを目的としている。

「アースショット的な視点で宇宙から地球を見た時、環境負荷をはじめ現在地球に起きている問題は、既にかなり先の将来に渡って地球の生態系に影響を及ぼしてゆくことがわかっている。我々は未来に対する長期的な視点と責任を持たなければならない」


これを考える手助けをするのが「ロング・ナウ」の考え方だという。科学や資源、政治などの中から地球の未来にとって価値のあるものを残していくことが必要だ。

国や企業の取り組みも

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この他、国や企業の取り組みについても議論がなされた。

小泉進次郎(環境大臣)は、気候変動を食い止めるための手段として温室効果ガスの削減、脱炭素に向けての取り組みが叫ばれるなか、ここ2年で日本の動きも変わってきたと語る。2050年にカーボンニュートラルを目指す自治体や、賛同する企業の伸び率は世界でもトップクラスに。ここからは、個人、社会全体の行動変容のスピードアップを図ること、カーボンプライシングなどルールのイノベーションが課題だと述べた。


神戸司郎(ソニーグループ株式会社執行役専務)は、社員や一般消費者などステークホルダーの気候変動に対する意識の変化を感じているという。ソニー製品の消費電力削減や再エネ化などを通じ、グループ全体で2050年までに環境負荷ゼロを目指す。グローバル企業の責任として負荷を減らすだけでなく、テクノロジーカンパニーとして、技術や事業を通じて積極的なイノベーションを起こし、環境にポジティブな影響を及ぼすことなど大きなチャレンジをしてゆくと語った。

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また、河野太郎(行政改革担当大臣)や台湾で最年少入閣した天才プログラマー、オードリー・タン(台湾デジタル担当大臣)の講演では、人に寄り添うぬくもりのあるデジタル社会の実現には、オープンガバメント(開かれた政府)の実現が重要だと語った。

人類は巻き返しを図れるか

最新のITテクノロジーを中心としたカルチャー、ビジネスを紹介するというコンセプトで行われてきたカンファレンス。21回目の今回は、まさに世界的なパンデミックの最中に行われた。いまや誰もが痛感している地球の危機は、他でもない私たちが招いたものだ。テクノロジーはこの危機を救えるか。私たち人類はなんとしても、巻き返しを図らなければならない。

【THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2021

〜Whole Earth Catalogから50年、これからの未来・テクノロジーを考える〜】

日時:2021年8月11日(水)

会場:DRAGON GATE(デジタルガレージ) 

主催:株式会社デジタルガレージ

共催:DG Lab

https://ncc.garage.co.jp


【小松美羽オフィシャルサイト】

https://miwa-komatsu.jp