持続可能な社会へとつながる新素材の開発や、斬新なアイデアが光る建築や日用品など、いま注目のモノ・コト・ヒトを集めてみた。
LIMEX(ライメックス)
環境負荷を大幅に低減する、プラや紙に代わる期待の新素材
石灰石を主原料とし、プラスチックや紙の代替製品として開発された「ライメックス」。原油からナフサを分留し、ポリマー化する石油由来プラスチックに比べ、採掘した石灰石を粉砕して製造するというシンプルな工程が特徴で、主原料である石灰石は、原料調達段階の二酸化炭素(CO2)排出量だけでも約五十分の一に抑えられるという。
処分工程においても、石油由来プラスチックが燃焼時にCO2を多く放出するのに対し、ライメックスの主成分である炭酸カルシウム(CaCO3)は酸化カルシウム(CaO)と二酸化炭素(CO2)に分解されるため、CO2の排出を約58%削減できる。2014年に国内特許を取得し、現在6000以上の企業や自治体で導入され、世界40カ国でも特許を取得。我々の身の回りでも、レジ袋やレストランのメニュー表、食品容器など多くの場所で採用されている。環境負荷を大幅に削減する新素材の切り札といえそうだ。
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WOTA BOX(ウォータ ボックス)
最先端のAI水処理技術で、98%以上の排水を浄化し再利用
「WOTA BOX」は、排水の98%以上を再利用できる、自律分散型水循環システム。これにテント型の屋外シャワーをつなげたのが「WOTA BOX+屋外シャワーキット」だ。
もともとアウトドア用やオフィス内での利用を想定して製品化を考えていたが、2016年の熊本地震、18年の西日本豪雨や北海道胆振東部地震などの避難所で試作機を用いた入浴支援を行ったところ、大いに活躍。ひとりがシャワー利用時に使用する水量は通常50L程度だが、WOTA BOXは100Lを繰り返し浄化して再利用することで、100人以上の使用が可能だ。
しかも、AIとセンサーによる水質管理で4種類のフィルターを通過させ、肌に優しい超軟水として再利用できる。運搬、設営、保管、操作が簡単にでき、誰もが使いやすくデザインされているのも特筆すべき点。世界中で自然災害が勃発している現在、どこでも安全な水が手に入るWOTA BOXの存在は心強い。
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TOKYO CHAINSAWS(東京チェーンソーズ)
1本をまるごと使い切る!林業会社が発信する木の魅力
山に苗木を植え、50年から100年かけて育てた木を丸太に仕上げるのが林業の仕事。
「森林という日本が誇る再生可能な資源に、付加価値を与えたい」と取り組むのは東京・檜原村の東京チェンソーズだ。建築材料の丸太として流通するのは木1本につき全体のわずか25%だが、切り落とされた枝や葉先、根はどれも個性的な魅力をもっている。
そこで彼らはこの端材を都心の商業施設やデザイナーに向けて発信。たとえば都心のビル内の広場でクリスマスツリーに使った木は、解体して中庭の木道に再利用したり、ショールームのインテリアに巨大な角材を取り入れたり、小さな端材はおもちゃにして販売するなど余すところなく活用。
昨年立ち上げたオンラインストアでは、市場には出ない曲がった部材を利用したアロマミストなど、日用品も取り扱う。資源を守り、次世代へつなぐサステイナブルな取り組みは、着実に根を張っている。
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CY-BO(サイボ)
自在に組み立て繰り返し使える、美しくもアートな梱包材
プロダクトデザイナーの阿部憲嗣さんが制作した「サイボ」は、雪の結晶のようなスポンジ状のピースを自在につなぎ合わせることによって、さまざまな形状に変化する梱包材だ。
いま、ネットショッピングの需要が加速し、宅配便などに使われるエアパッキンの生産量は1日あたり1200㎢にもおよぶ。阿部さんはそんな状況に一石を投じたいと、再利用可能な梱包材を考案した。これまでも富山の鋳物職人と協業し、斬新な製品を生み出すなど用の美を追求してきたプロダクトデザイナーの視点は、梱包材においても“美しさ”を大切にしている。
まだ試作段階ではあるが、将来性を評価され、2021年の「レクサス デザインアワード」を受賞した。使用後は再利用する他、解体してコースターやバスケット、ランプシェードなどに組み立てて楽しむことができる。環境問題をデザインの観点から捉え直したクリエイティブな発想に脱帽だ。
※この記事はPen 2021年10月号「捨てない。」特集より再編集した記事です。