「大人の名品図鑑」スウェットシャツ編#4
およそ100年前のアメリカで、それまでウールでつくられていた運動着をコットン素材に改良したものが発明された。これがスウェットシャツの起源だ。コットンの運動着は、伸縮性や吸汗性に優れ、肌触りもよいので着やすい。現代では誰もが愛用する衣服なった。今回は、有名映画を題材にスウェットシャツの名品を紹介する。
数あるSNSの中でも全世界で29億人(2021年6月時点)とずば抜けた利用者数を誇るフェイスブック(Facebook)。このSNSの創設者であるマーク・ザッカーバーグの半生を描いた映画が『ソーシャル・ネットワーク』(2010年)だ。監督は『ファイト・クラブ』(99年)、『ゴーン・ガール』(2014年)、『マンク』(2020年)などの作品で知られるデヴィッド・フィンチャー。孤独な天才とも言えるザッカーバーグを演じたのは、個性派俳優のジェシー・アイゼンバーグ。ハーバード大学在学中にザッカーバーグとフェイスブックを一緒に立ち上げ、後に彼相手に訴訟を起こす親友エドゥアルド・サリバンをアンドリュー・ガーフィールドが演じる。ほかにもガールフレンドのエリカ役にルーニー・マーラ、ナップスターの創業者ショーン・パーカーをジャスティン・ティンバーレイクが演じるなど、芸達者ばかりのキャスト陣だ。
本作では、ザッカーバーグらがいかに世界最大のSNSをつくり上げたか、そして後に巻き込まれることになるトラブルやその顛末が描かれている。映画は各方面で絶賛され、2011年の第83回アカデミー賞では脚色賞や編集賞、作曲賞を獲得。さらに同年の第68回ゴールデングローブ賞では最優作品賞(ドラマ部門)や最優秀監督賞などを獲得し、2010年を代表する作品となった。
映画のオープニング。ハーバード大学2年生のザッカーバーグとボストン大学に通うガールフレンドのエリカが、ダイナーで話す場面が約5分間続く(一説によると、このシーンのために90回以上のテイクが撮られたと言われる)。ザッカーバーグのキャラクターが如実に伝わる映画の重要なシーンだが、この時にザッカーバーグが着ていたのが、アメリカを代表するカジュアルブランド、Gapのグレーのスウェットパーカだ。胸に大きくロゴが入っているのですぐにわかる。実際のザッカーバーグが同ブランドのスウェットパーカを着用している写真もネット上などに残されているが、WEBサイト「シネマトゥデイ」には、ザッカーバーグ本人がこの映画に対して「バッチリ合っているのは衣装だね。映画の中でキャストが着ているシャツやフリースは、実際に僕が着ているものと同じだよ」と評価したと書かれている。ちなみにアメリカではスウェットウェアのことを「フリース」、スウェットパーカを「フーディ」と表現することが最近は多い。
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2000年代当時のITギークたちのファッション
オープニング以外でも、ザッカーバーグがスウェットパーカをユニフォームのように着ているシーンが何度も登場する。ボトムスはカーゴショーツ、足元はソックスにロッカーサンダル(原作によるとアディダス製を愛用)を合わせ、寒い雪道を歩いていくシーンもある。「オタク」というべきか、「ナード」や「ギーク」と表現すべきか。当時のIT系の若者たちが嗜好するスタイルをよく表している。一方、フェイスブックの共同創設者だったサベリンはスポンサーに会う時にはきちんとジャケットを着用するような真面目な性格。そんなサベリンに対して、新たにフェイスブックに加わったショーン・パーカーは「ダサい服で偉そうにするな」となじる。サベリンは「クリーニング中だ! パーカもサンダルも」と応酬するが、ついには会社を追われてしまう。彼らのファッションに対する価値観が表現された会話として印象に残る。
ザッカーバーグが愛用したGapは、1969年にサンフランシスコで創業された人気ブランドだ。創業者はドナルド・フィッシャーとドリス・フィッシャーという夫婦で、二人が友人たちとジェネレーション・ギャップについて話していた時に考案されたブランド名だと言われている。ベーシックなスウェットパーカは、クリーンでシンプルなアメリカンスタイルを志向するGapを象徴するアイテムのひとつと言えるだろう。
上質な素材と丁寧な縫製で、スポーツからデイリーまでオールマイティに使え、トレンドやシーズンに関係なく着用できる。ロゴ入りのスウェットパーカも登場以来デザインなどを多少変えながら毎シーズンのようにコレクションにラインナップされている。多彩に展開するGapのスウェットパーカの中でも定番中の定番だ。ザッカーバーグがつくったフェイスブック同様に、世界中の人たちの毎日の生活に欠かすことのできないエッセンシャルなものになっている証拠だろう。
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問い合わせ先/Gap新宿フラッグス店 TEL:03-5360-7800
https://www.gap.co.jp