スパイスカレーをつくってみたことがある人はこう思ったことがあるかもしれません。
レシピを読んでスパイスカレーをつくることはできるけど、
「スパイスの調合は真似することしかできず、自分で生み出すことはできない」
「スパイスを自分好みに調合するにはどうすればいいだろう」
「この素材と相性のいいスパイスはなんだかわからない」
その答えはずばり、「経験不足」です。
私もカレーをつくり始めた当初、スパイスを自分でアレンジしようとしても美味しいカレーにはならず、そもそもスパイスの調合比を考えることができませんでした。
和食で煮物をつくる時は、醤油、酒、砂糖、みりんなど計量せずになんとなく入れても美味しくできるのに、どうしてスパイスはなんとなく調合することができないのだろう? と。
第一、和食での「なんとなく」と、スパイスの「なんとなく」は全く別物です。和食で使う調味料は小さい頃からよく慣れ親しんでいて、自然と個々の調味料がもつ塩気や甘味、風味などを知っています。
前者は身体がそれらをよく知っているからコントロールできた和食の「なんとなく」だった一方で、カレーをつくり始めた当初のスパイスに対する経験は浅く、スパイスの香りをまだ全然知らない「なんとなく」は本当の意味での適当でした。
自分自身で調合できるようになるためには、調合した先のスパイスについて知ることももちろんですが、個々のスパイスの香りや特徴を十分に知っている必要があります。単品のスパイスの香りを知らないのに調合することは不可能で、相性のよさや自分の好みすらもわからないと思います。
私は、自分なりのレシピを書きたいと思っていたので、まず単品のスパイスを知ることから始めました。私がそのために毎日のように行っていた練習は、
①個々のスパイスを単体で嗅いで、スパイスの名前を見る
②適当に開けた瓶のスパイスの香りを嗅いでスパイスの名前を当ててみる
③よく慣れ親しんだ料理に単品のスパイスを加えて、試食し変化を知る
これらをひたすら続けていました。
練習を続けて半年後くらいに10種類のスパイスの香りの特徴がつかめてきて、自分自身でオリジナルのレシピを書けるようになりましたが、まだまだ10種類程度。知らないスパイスもありましたし、嗅いでもピンとこないスパイスも多くありました。
当初の私は「美味しいカレーがつくれても、香りがわからない!」ということがなんだか悔しかったのでしょう。この練習をずっと続け、ようやく1〜2年後に香りを嗅いで、どのスパイスかを間違いなく言い当てられるようになりました。さらに、3年目にして調合されたスパイスから、なんのスパイスが入っているかがわかるようになりました。
これを続けていると、いつしか食べなくても脳内でスパイスの香りを鮮明に感じることができるようになります。
みなさんも、納豆の香り、シソの香りと言われたら、食べなくても想像できるのではないでしょうか。そして、納豆とシソを合わせたら美味しいか? と言われたら、毎日料理をよくする人なら容易に想像できるかと思います。スパイスも、レシピを書けるようになるためにはそのような状態になることが重要です。
カレーを食べればなんのスパイスが入っているかわかりますよ、という人を見かけると「本当に?」と思うことがあります。それは、スパイスの香りの練習をして、試作して、食べた後に復習をして、再度練習を行うということを3年間繰り返してようやく手に入れたものだったからです。
また、幼い頃からキッチンがそのような環境だったとか、とにかくいろんなカレーをつくり続けたとか、練習をしたとか、そのような特殊な経験をしていない限り、既に調合された後のカレーをただ食べるだけでは得られないとも思っているからです。
いまも新しいスパイスやハーブ、調味料などに出合うと、必ずこの練習を行っています。調味料だけではなく、お肉やお魚、お米や野菜といった素材も必ず練習をして、香りの特徴を体得しようとします。
自転車は一度乗れるようになると、もうずっと乗れてしまうのと同じで、スパイスの練習もある時、「あ、こういう香りなのか!」と理解すると、もう自分のものになります。
自分のものになった香りが増えていくと、自由自在に強弱をつけられるようになったり、いつぞや自分の調合比をつくることができるようになるのです。
カレーづくりは簡単である一方で、このような奥深さがあって、調合の無限大の可能性や好みとの掛け算でアレンジの豊かさなどが生まれているのだと思います。